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規則の壁 論理の突破





陽菜は、本部による意図的な物資輸送の遅延を「組織の倫理に反する犯罪的行為」と見なし、直ちに東城隼人と連携した。東城は、彼の金融ネットワークと物流ルートの知識を最大限に活用し、被災地と最も近い中立国をハブとする、非営利の緊急輸送ルートを確立した。




「東城さん、私たちの目標は、物資を早く届けることだけではありません。本部内の腐敗した手続きを迂回し、新しい支援の透明なモデルを現場から作り上げることです」




陽菜はそう伝えた。




数日後、小型の輸送機と高速船が、食料、医療品、そして地元の漁師組合が修理を請け負うための資材を積んで、被災地に向けて飛び立った。この緊急輸送は、本部が定める通常の支援ルートを完全に無視したものだった。




この陽菜の「独断行動」は、本部理事会、特に彼女の行動に懐疑的なバーネット統括派閥を激怒させた。陽菜は、再び**「規則を破った者」**として糾弾された。




緊急のビデオ会議が招集された。本部からの参加者は、憤りを隠せない表情で陽菜を詰問した。




「星野顧問! あなたは特別顧問の地位を乱用し、組織の規則を再び破った! 外部の人間である東城氏と組んで秘密裏に物資を輸送するなど、監査官としてあるまじき行為だ!」




陽菜は、現地の崩壊した桟橋の脇で、毅然とした態度でマイクに向き合った。背後には、輸送機から降ろされた物資を手に、安堵の表情を見せる被災者とボランティアの姿があった。




「私は規則を破りました。しかし、私が破ったのは、人命救助を意図的に遅延させた手続きです」




陽菜の声は、明瞭に本部全体に響き渡った。




「私が特別顧問として負うべき最大の責任は、組織の倫理と透明性を守ることです。貴方方は、手続きの完璧さを優先し、医療格差と食料問題の悪化という、非倫理的な結果を招いた。私は監査官として、その組織的な怠慢を糾弾します。」




陽菜は、東城のデバイスを使って記録した、本部内の輸送手続きを意図的に遅らせた担当者間の通信記録を、会議のスクリーンに提示した。




「この記録は、貴方方の一部が、私の現場での活動を潰すために、被災者の命を犠牲にしようとしたことを示しています。私は、命を守るために規則を破りました。貴方方は、規則を守るために命を危険に晒した。どちらが、『グローバル・ハート』の倫理に沿っているか、ご判断ください。」




陽菜の反撃は、本部内の抵抗勢力の息の根を止め、バーネット統括派閥に決定的なダメージを与えた。理事会は、陽菜の行動が**「緊急時における倫理的な必然性」**に基づいていたことを認めざるを得なかった。




この衝突は、陽菜が提唱する「透明性」が、単なる監査ではなく、組織の存在意義と行動原理そのものを根本から問い直すものであることを証明した。陽菜の新しい緊急支援ルートは、被災地の人々に希望を届け、本部内の古い体質を打ち破る、倫理の突破口となった。




陽菜は、規則の壁を打ち破り、現場と本部という二つの戦場で、再び勝利を収めたのだ。

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