勝利への道筋
クロウが地図に記された目的地に辿り着いたのは夕日がそろそろ沈もうかという時刻になってからだった。
学校の体育館くらいの大きな建物だ。
目立ちたくないので正面入り口から入るのは避けるべきだろう、別の場所に入れそうな場所もあるだろうし。
額の汗をぬぐって裏手へ回り込む。
窓や壁のヒビからほのかに光が漏れている、中にはかなりの人数がいる気配がする。
姿勢を低く、息を殺して進む。
「うまく見つけられたらいいんだけどな・・・」
見つけたとしてどうしようか、まったく考えてなかったな。
なにかヤバそうならとりあえず連れ出そう、なんにもなかったらちゃんと話を聞いてみるか。
行き当たりばったりだがまぁ後で考えるか。
「お、ここは誰もいなそうだな」
息をひそめながらしばらく進むと明かりの漏れていない窓を見つけた、
金の針を口に咥えて窓をよじ登る。
「よっ・・・と!」
極力音を殺して着地。
人影は無し、無事に侵入成功。
「うっ、トイレかここ」
衛生的にはあまりよくなさそうだ、鼻をつまみながら出口に向かう、
そっと顔を出して外の様子をうかがうと明るいほうに人が集まっている。
できるだけ気配を消して近づいてみる、ハクアの姿は見当たらない。
(ちっさいから人が多くても割とすぐ見つかりそうだけどな、なんて言ったら怒るだろうな)
みたいなこと考えながら探し回るが一向にハクアは見つからない。
「・・・見つけた!」
大部屋の中心で列に並んでいる。
なんの列かはわからないがあそこにいられたら接触しづらい、終わるのを待つか?
列の先にいる角をはやした大男、たぶんあれがラウボカだ、身長は2メートルは優に越えている、腕の太さはクロウの胴体くらいある。
「・・・終わるのを待つか」
========================================
しばらく後
ハクアの順番が回ってくると、どうにも雲行きが怪しくなってきた。
というか遠目ではあるが原因はどうやらクロウの財布のようだ。
状況から鑑みるに財布を盗んだのはやはりハクアで、その指示を出したのはあのラウボカという男なのだろう。
卑劣極まる行いに対してイラ立ちを覚える。
「てめ・・・っ!!!」
「!」
ハクアの小さな身体が勢いよく投げ飛ばされた。
「ちょっと・・・!ごめん通してくれ!」
人だかりをかき分けて進む。
悠長なことは言ってられない状況になってしまった。
ようやく人だかりを抜けたころにはハクアは今にも飛び出そうかという姿勢で刃物を構えていた。
なにをやっているんだ、そんな物よりも自分の命のほうを優先すべきだろうに。
一も二も無く走り出す。
「ハクアァァァァーー!!」
クロウの叫び声にハクアはビクっと震える、
その隙に彼女を背に巨躯の前に立ちはだかる。
「ぁえ・・・・・・?クロ・・・」
泥と涙でぐしゃぐしゃになった顔でハクアは茫然自失している。
その格好は有り体に言って自分と大して変わらないほどにひどい有様だ。
「なにやってんだよ!お前は・・・」
「ぁ・・・ぁ・・・ごめ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
クロウの言葉にハクアはさらに顔をぐしゃぐしゃにし大粒の涙を流し謝っている。
火傷だらけの握っていた手を開き、ほぼ灰になってしまったお守りを差し出しながら。
「そうじゃなくてな!」
「ぁぅ・・・ゆ、ゆるして・・・」
やるせなさに熱くなってつい声を荒げてしまった。
ハクアに向き直って膝をつく。
「こんな物のために危ないことするなって言ってんだよ。手、ひどいなー痛いだろうこれ」
できるだけ気にしてないと伝わるように努めながら、
手のひらの残ったお守りをひょいと持ち上げると燃える炎の中に投げ入れた。
「あっ!」
ハクアが驚愕に目を見開き火を見つめている。
聞こえるようにパンパンと手についた灰を掃ってこちらを向かせる。
「使い終わったお守りはこうやって処分するらしい、たしか」
「でも・・・でも、あたし・・・!」
「財布も別にいい、代わりはもらってるからな」
ポケットから干し肉のくるまれた包みを取り出して見せる。
まだ戸惑いを隠せない様子でハクアはクロウを見つめている。
「そのあと勝手にしたことについては、まぁあとでちゃんと叱ってやるよ」
包みをしまい立ち上がると仁王立ちのラウボカがこちらを睨みつけている。
「あんたがラウボカさん・・・?もしかして見た目に反して実は話を聞いてくれる性格だったりしない?」
「・・・俺がか?どうだろうなぁ、何が欲しくてノコノコやってきたが知らんがお前にくれてやるもんはひとつもねえがな、ここのもんは全部この俺のもんだ、ほかに話すことなんざねえよ」
希望に反してどうやら見た目通りの性格らしい、
ここからハクアを連れ出すには映画にでてくる超人のようなあの男を正面きってなんとかする必要があるようだ。
まだ怒りの熱がこもる拳に力が入る。
すぐ後ろで息をのむハクアが袖を引く。
「クロウ、クロウ!だめだよ!死んじゃう!」
ついさっきまで自分が行こうとしてた癖にそんなことを言う、静止の叫びは逆に更に決意を固めさせる。
「いやなんとかやってみる、手はある」
出せる手札は握った拳の中にあるアクライシャの金の針、これに賭ける
あとは手段をどうするか―――
「てめえ蘇生者だろ、聞いたところ変な力持ってるらしいな、面白そうだ試してやるよ」
「なんだ、知ってるのか、じゃあろくなことにならないからやめといたほうがいいぞ」
「ハンッ、ほざけよ流れ者が風情が」
ラウボカが膝を曲げて人の頭くらいのサイズの拳を構える。
どう見ても正面から対等に殴り合えると思えない、
思考をフル回転させろ。
「言ってた割に結構おしゃべりなんだな、怖くて探りでもいれてんの?」
挑発を入れて鼻で笑ってやる、こういうタイプならたとえ見え見えの演技でも乗ってきそうだ。
「――ッチィ!ぶっ千切れろやァ!」
効果覿面!
瞬間耳まで赤くなったラウボカが地面がへこむほどの勢いで地を蹴り突進
筋肉の塊が弾丸となり迫ってくる。
「今だ!頼むアクライシャさん!」
「なにぃ!?」
クロウがラウボカの背後に向けて叫ぶ。
ラウボカもそれにつられて視線を背後に送る。
だがなにもいない。
(引っかかったな!あんなおっかない人と組んでたらと思うと咄嗟に確認せざるを得ないだろ!)
「うおおおおおらぁ!」
千載一遇のチャンス!
握った針を思い切り振りかぶりラウボカの丸太のような二の腕に突き立てた。
(頼む!効いてくれ!)
唯一の手札は上手く切ることはできた、あとは効果のほどに期待するしかない。
「こンのやろォ・・・!!」
血走った目でラウボカは睨みつける。
なんの変化も見られない、むしろ火に油を注いだだけか。
振りかぶった拳が加速し始めた。
(まさか騙されたのか・・・!?)
後悔したところで迫る拳は止まらない。
身を守るために咄嗟に空いている左腕を曲げ受けの姿勢をとる。
直撃
「ごっ・・・!!!?」
巨拳がクロウの腕をとらえる。
まるで自動車事故のような衝撃が腕から全身に伝わり逃がしきれない威力がクロウの身体を吹き飛ばした。




