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『引き篭もりのアクライシャ』

案内されてやってきたアクライシャの住まいはこの町での有力者のものというにはやけに簡素な作りのものだった。


コンコン、とノックをしてみる―――反応は無し。


もう一度ノックをしようとするとギィと軋む音を立てて木製の扉が開く。


「あの、すみません誰かいますか?」


開いた扉から顔をのぞかせて尋ねる。

室内は薄暗くところどころに配置された紫色の炎の蝋燭がほのかに部屋を照らしており、

中央には丸テーブルに椅子が1脚、

壁際に設置された棚には様々な骨董品が雑多に置かれている。


もう一度声をかけようともう一歩踏み込むと

背後でバタンと音がする


「!?」


扉が閉じられた。


「ようこそいらっしゃい、わが城へ」


ふい甘ったるい声に呼びかけられ再び振り返ると


妖艶が服を着たかのような妙齢の女性がいつのまにか椅子に腰かけていた。

床のあたりまで垂らした長い銀の髪、高い鼻に端正な顔立ちが流し目でこちらを見上げており、

ゆったりした寝巻のような衣類から肌着に包まれた豊満な身体が透けて見える。

―――あまりにも刺激が強すぎる!


「どうぞお座りなさいな、坊や」


暗がりのせいでよくは見えないが同じ人族に近い見た目をしているようにみえる、

底知れないプレッシャーのようなものを感じ無意識のうちに委縮してしまいそうになる。


「・・・失礼します」


マントを脱ぎ椅子を引く

正体がばれる危険性が高まるが相手の機嫌を損ねないほうがよほど重要だ。


「アクライシャさん、唐突で申し訳ないんですが、頼みたいことがあります」


自分から切り出した、この人に主導権を握られるのはなんだか怖い、

招き入れてくれたのなら聞いてくれる可能性はあるはずだ。


「なにかしら?」


アクライシャがずいっと身を乗り出し机に頬杖をつく

そのため豊かな胸が形を崩れる

泳ぎかけた視線を一世一代の集中力で彼女の額のあたりに固定する

集中!集中!!これガンつけてないか?大丈夫か?


「あーっと、ここの住むハクアって子の情報が欲しいんです」


「かまわないわよ」


露天商の老人の言っていた通りここの住人について精通している人物のようだ。


「坊やの欲しい物は用意してあげられるけれど、ルールに乗っ取って対価はいただくことになるわ、大丈夫かしら?」


対価・・・まずいな今はもう代わりに差し出せるものはない、

交渉の余地はあるだろうか、なんなら後払いで下働きという手も―――


「あらあら、そんなに硬くならないで、とって食べたりしないんだから」


動揺を見透かされたのか、銀色の目を細めてクスクスと笑う


「あの子とはどういう関係?どういう理由で情報が知りたいの?」


「ここに来るときに助けてもらった、昨日から行方がわからないから何事もないかを確かめたい」


「それは・・・坊やが対価を払って確かめなければいけないことなのかしら?」


「・・・え?」


想定外の質問を投げかけられた、たぶん間の抜けた面をさらしている。


「ひとつ教えてあげる、現時点でこの町の脅威になるような事態は起こっていないわ、つまりは放っておいても何事もなく明日がやってくるということ」


「それってあの子がなにか危ない事態に陥ってるって意味で大丈夫ですかね・・・」


膝の上で拳に力が入る。


「さぁ、どうでしょうねぇ、だとしてもあなたには直接関係ないのではないかしら?」


確かにその通りだ、クロウはハクアの身内でもなんでもない、一緒に過ごした時間は数時間程度でこの世界の住人からすればそこまでするような関係性ではないだろう、さらには状況的に自分の私物を盗難した可能性さえある。

懐の小屋に置いてあった包みを握りしめる・・・


「・・・借り・・・です・・・」


「借り?」


「あの子へ返さなくちゃいけない借りがまだ残ってる、だから何かあってしまったら困るんだ」


子供の理屈だ、そんなもので大人の彼女を納得させる判断材料になるとは思えない。

だが咄嗟に口をついたのがそれだった、嘘偽りのない本心からの理由だ、

絶望に沈みゆく自分が救われた大きな借りだ、たとえそれが道端で倒れてた自分に声をかけたという些細な行動だとしても!



「借り・・・借り・・・ね」



「くふっ・・・ふふふふふ、悪かった確かにそうだ対価は払わねばなるまい、それはこの町のルールに乗っ取っているな」


背を丸めて片手を顔を覆いながら笑い声をあげる、それに口調もさっきまでとはまるで別人のようだ、

指の間から覗く彼女の底のない闇の中で光るような瞳がこちらをじぃっと見つめる、言葉を発せない。


「あなた・・・ついてないわねぇ・・・」


ついてない?確かに最近ろくな目にはあっていないが、それとも交渉決裂の通告だろうか。


「ハクアちゃんはラウボカのところにいるわよ」


「・・・え?・・え?」


予想外のタイミングで求めていたものを与えられる。


「というよりも特に仕事がない子は大抵ラウボカの手伝いだったりでその下についてるのよねぇ」


「ちょ・・・待ってくれ、教えてくれるのは嬉しいけど対価がどうとかは・・・」


「あら・・・?もういただいたから気にしなくていいわよ、ちょっと待ってね、なにか描くものはないかしら・・・」


と先ほどまでの口調で立ち上がり近くの棚に歩いていく。


―――いただいた・・・?何も渡した覚えはないんだが、知らない間になにか徴収されたってことか?

身体に特別異常は感じない、空恐ろしいが状況は急を要するため今は飲み込むことにした。


「坊やが今いるここはこの場所ね・・・・・・で、ラウボカの住処がここ・・・」


万年筆のようなもので厚めの用紙にスラスラと正確な地図を描いていく、

すごい技術だ・・・どうやったらこんな芸当を可能にするのだろうか。


「多分だけれど、死んではいないわよ、ケガもしていない・・・今はだけどねぇ」


まるめた用紙を渡される。


「ありがとうございます、ほんとに助かりました」


「これで、交渉成立でいいかしら?」


クロウは席を立たない・・・


「ひとつ・・・いいですか?」


「どうぞ?」


「交渉する場合に片方のみが条件を知らないというのは、あまりに不利ではないでしょうか」


「・・・返してほしい?」


「いえ、代わりに事態の解決に協力を」


ラウボカ・・・露天商の老人に聞いた名前だ、用心棒のラウボカ、

名前からして、どう考えても腕が立つ上にこの町の実力者という。

自分が単身飛び込んでどうにかできるなんて自身などあろうはずもない、

ゆえに目の前の底知れぬ存在に決死の再交渉を持ち掛ける。


「確かに一里あるわねぇ、坊やは了承してなかったものね、急ぎすぎた私の落ち度かしら」


「じゃあ・・・」


「けどだめねぇ、さっきも言ったけどそれはこの町にとって大きな問題ではないわ、私は動けないわね」


さすがに虫がよすぎたか・・・

席を立ち上がる。


「お待ちなさいな、ちょっとサービスしてあげるわ、坊やに嫌われたくないものね」


小指ほどの金色の針を渡された


「これ誰に使うやつですか?」


「安心して死ぬものじゃないから、自分に使っても構わないけどね、というとこまでは教えてあげる」


詳しくは教えてもらえなかった、対価としてはここまでということなんだろう、

なによりこれ以上時間を割くのが惜しかった。


「時間いただいてありがとうございました、これで失礼します」


「また来るといいわ坊や、私みたいなのを相手にするときはもう少し慎重になったほうがいいかもね」


「肝に銘じときます」


ヒラヒラと手を振るアクライシャに見送られながら、

マントを再びかぶり、貰い受けた地図を頼りに走り出した、

なんとかうまく事が進んでよかった。








「やり方次第だけれど使いどころはありそうねぇ『二宮九朗』」


ここまでお読みくださった方、ありがとうございます


切に感謝申し上げます。




「面白い」や「続き読みたい」と思ってくださったなら、




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