潜入
朝
肌寒さから目を覚ます。
こちらに来てから3度目の目覚めになる
一応いままでよりマシな寝床であったのと、いろんなことがありすぎて疲れていたのだろう
すでに日は高く昇っており、ぐっすり眠りこんでしまっていたようだ。
「あ゛ー寝すぎたか・・・」
むくりと起き上がり伸びをする。
「ん?」
心なしか体が軽い、いや比喩ではなく微妙に身が軽い。
「財布が・・・ないっ!」
所持金:0円
ただでさえ寂しかった懐がさらに寂しくなると思うとさすがに危機感でめまいがしてくる。
急いで寝床周辺を捜索する。
こういう場合、大抵寝床の下などに失せ物が転がっていそうなものだが探せど見つけることは叶わなかった。
代わりに布切れで包まれた何切れかのこげ茶色の物体が置かれていた。
「なんだこれ、干した肉・・・?」
就寝する前にこんなものはなかったはずだ。
戸を見やる
こじ開けた痕跡は無し、つっかえ棒はそのままで外から元の形に戻すのはおそらく無理だろう。
なにより物取りがそんなことをする意味がない。
もっともらしく顎に手を添えて視線を巡らす、
他に侵入経路といえばあの小窓――――――
「・・・・・・・・・・・・・・」
クロウは落ちていた包みを懐にしまい込むと、ハクアのボロマントを引っ掴むと小屋を飛び出した。
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『忌み子の町』は純血種より忌み嫌われ逃れてきた混血種の集まってできた町だ。
世界では種族間同士の争いが繰り返されてきた歴史があり、
多くの純血種の種族社会は他所から流れてくる異分子を好まない。
よって混血として生まれた者はどちらの社会からも排斥される運命にある。
その者達の辿る道はどちらかの種族社会に命を奪われるか、逃れた先で命を落とすか、境遇を共にする者同士で集い生き延びる以外に選択肢はない。
混血種の大部分を占めるのは人族もしくは獣人族の流れを組むハーフである。
人族はまず母数そのものが他種族に比較して多いため自然と数が多く、
獣人族は種族内でも容姿が大きく異なり、細分化した形で構成されている。
さらに好戦的な傾向があるため内部での抗争が絶えず、たとえ獣人族の中でも種が違う者同士の子は混血種として扱われるためだ。
門の番を任されるキーガンも獣人族同士の混血種だ、
彼も例にもれず迫害に晒されながら育ち
人並外れた嗅覚と脚力を併せ持ち、その身体能力を用いて今日に至るまで生き延びてきた。
その先で流れ着いたこの町で門番の仕事を任された。
自慢の嗅覚を駆使し他人にはできない役割があるということは彼にとって誇りで、
それは虐げられてきた自分が他人よりも確かに上に立っているという証明だったのだ。
今日も早朝から門に立つ、
基本的に出入りする者は壁の中に仕事はなく外でなにかしら調達することで生活を維持している者たちだ。
キーガンはそういった連中を見下している、たいした役割を持つことがなく言ってしまえば自分たちのように必要とされる者たちのおかげで暮らすことができるからだ、
中にはなんらかの不幸に見舞われ帰ってこないものもいるがそれも仕方ない、弱い者が悪いのだ。
侮蔑の目で足を引っ張る者を見る住人も少なくはない、たとえ仕事がある者でも決して生活が潤っているわけではないのだ。
かといって連中に害を加えるつもりもないのだが。
他には稀に新入りの混血種がやってくることがある
今日も一人新入りがやってきていた。
「おい、止まれ!」
上半身をマントで覆った男だ
「貴様、新顔だな種族を述べろ」
新入りには決まってこの質問をしている、忌み子の町は基本来るものは拒まずの形をとっているが
キーガンは嘘をつく怪しい者を見定めるという役割を自主的に担っている。
(いささか匂うがこの俺の鼻は誤魔化せんぞ)
「人族だ、エルフと獣人も入ってる、人の都市から逃げてきたんだ」
嘘はついていない、と自慢の嗅覚も告げている。
「・・・よし、いいだろう通れ。問題は起こすなよ、匂いでわかるからな」
今日もしっかり役目をこなすのであった。
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「思ったよりすんなり入れたな」
クロウは町の大通りを進む、朝早いこともあってか通りには人もまばらだ
角が生えていたり羽が生えていたり、全身が体毛に覆われている者、さまざまな住民が店の準備をしている、この通りで露店を並べ商売をしているのだろう。
マントを深くかぶっておく、顔はできるだけ人に見られないほうがいいだろう、
急いだほうがいいかもしれない、とにかく情報を手に入れなければ。
早足に通りを進みながら当たりの露店を注意深く見て回る
白髭をたくわえた顔にところどころ鱗に覆われている高齢の店主が座る一つの露店の前で足を止める。
「どうもお若いの、なにかご入り用なものでも見つかりましたかいの」
クロウに気づいた店主が声をかけてくる。
「―――いや、、、これを買い取ってほしい」
壊れた携帯端末をポケットから取り出す。
「ほう?なんですかなこれは変わった模様のはいった板ですな」
しげしげと端末を眺めながら店主は尋ねる。
「見たところ、この店で取り扱ってる商品と同じ出自のものだと思う」
店に並んでるものはどれも古びていたが
見たことがあるようなキャラ物の文房具、日本通貨の小銭、誰かの身分証なんてものまである。
まるで自分のような異世界人のみにわかるような意図を感じる品揃えだ、
どことなく不信さを感じるがここまで来ていまさら二の足を踏むのもおかしな話だ。
「ほぉ・・・では少しばかり鑑定に時間をいただいてもよろしいですかな?」
店主は入念に端末を受け取り妙なデザインの片眼鏡のようなものを取り出す。
「いや、悪いけど急いでるんだ即決で決めてほしい。引き換えに情報が欲しいんだ」
「お客さんがいいのであればワシはかまいませんが・・・何を聞きたいんで?」
「ハクアってエルフと獣人のハーフの女の子がどこにいるか、もしくは住人の事情に精通している人を教えてほしい」
「ああ、エルフの混血はあまり数が多くないので知っとりますよ、ですがいかんせんあまり目がよくないので居場所まではなんとも・・・」
「じゃあ、知ってそうな人は?」
「この町は力のある者が4人おりましてな、彼らによって一応統治されております」
店主は爪の長い骨ばった指を折りながら
「遠見のノース、用心棒のラウボカ、眠りのニノ、引き篭もりのアクライシャ」
「・・・最初2人はどうだろう?」
なんとなく話になりそうな2人について尋ねる
「ノースは話は通じるとは思いますがな、どこにおるか見当もつきませんわ、ラウボカはやめたほうがよろしかろう、話す前に拳で語る輩です故」
いきなり暗礁に乗りあげた「なら・・・残り2人は?」
「ニノと相対したら言葉を発する前に逃げたほうが得策ですな、殺されてしまいますからの」
ほっほっほと笑いあご髭をなでる。
なにが面白いジジイ
「アクライシャ様ならきっとお望みに応えてくれましょうぞ」
「へっ?」
落胆しかけたところに吉報を使えられて素っ頓狂な声をあげてしまった。
「あの方はワシにこの店を賜ってくれた御方での、ここの事情に一番通じておるお方よ・・・む?」
露店の飾り付けられている鈴のひとつが風もないのに音を奏でた。
「若いの、ついておる、いやおらぬかもしれんが。もしアクライシャ様と話がしたいのであれば店の裏手の突き当たりの家屋を訪ねるといい」
「よくわかんないけど、助かった、行ってみるよ」
「決して油断せぬことだ、若いの」




