孤独なる無力
ハクアと別れて数刻
クロウは藁の寝床で大の字にで横になり先々のことを思案する、
背中がチクチクして痒い、ベッドが恋しい。
さて・・・ハクアが口利きをしてくれるのならば、しばらくはここに居つくことができるかもしれない。
住居はいいとしても食糧はどうする金銭も使えない、物々交換といっていたがろくに価値のあるものも持ち合わせていないときた。
「はぁ~」と大きくため息をつき、お守りを皮財布に念入りにしまいこみ携帯端末と一緒にポケットに押し込む。
価値がなくとも手持ちの品を無碍にする余裕なんてどこにもない。
食糧は現時点では自身で調達するほかないだろう、植物や木の実から探すのが一番現実的だろうか?
行動に起こさなくては始まらない、勢いをつけて腰を上げ外に出てあたりを見回す。
草木は生えている、入念に探せばなにか食べるものも見つけられるかもしれない。
「あとは・・・狩り・・・とか?」
狩猟ができれば物々交換でもなんとか生きていくことができるのではないか
会社員の父、専業主婦の母をもつただの学生だった九朗にはもちろん狩りの経験などあろうはずもないが
この世界の獣といえば死ぬ目に合わされたイノシシを思い出し背筋が震える。
「あんなのしかいないんだったらどうしようもないぞ・・・どうやったってやりようも」
「・・・そういえばハクアは蘇生者は妙な力を持ってるっていってたな」
いまだに命を落とすことなく五体満足なこの現状を考えるに
「ケガをしない能力的なもんだとか・・・?」
近くに落ちていた短い木の枝を拾い
「・・・・・・・・・・・・」
先の尖った部分を手の甲に添える
(これは、知っておかないとだめなことだ、この先どうなるかわからない以上確かめないと・・・)
動悸が早くなり呼吸も荒くなる
「はぁ、はぁ・・・ふぅぅ・・・ぐっ」
力をゆっくりかけていき
枝の先端を手の甲にめり込ませる、
開いた穴からじわりと血が滲みだした。
「いっ・・・っづぁ!!」
鋭い痛みに思わず小枝を投げ捨てる。
「つつ・・・・・・・・やっぱり・・・!」
血の跡を拭い取ると傷のあと一つない自分の手がそこにあった
負傷をなかったことにする能力、もしくは即座に治癒する能力
「・・・ゾンビにでもなったみたいだ」
『蘇生者』・・・蘇った者、なるほどしっくりくる。
便利といえば便利だが痛みはそっくりそのままなためむやみやたらに活用したくはない代物だ。
それにこれがどこまで適用されるかわかったものでもない、
手足が千切れたら繋がるかも生えてくるかも治らないかもわからない
実際に試してみる覚悟もできなかった、現実を知るのが怖かった。
「やだなぁ・・・ゾンビ」
この能力を用いて獣の相手するのもやめておいたほうがいいだろう
獣の腹の中で目を覚ますなんて冗談じゃない。
ということで狩りをするのも足を使ってなんとか別の都市に移動するという手段もとりあえず保留だ。
急がなくても現地人のハクアであれば安全な狩場なんてのも聞けるかもしれない。
大丈夫だ、取り乱さず冷静にいこう
異郷の地でなにも持たずなにも知らないクロウにとって彼女の存在がなによりも救いだった。
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空が暗くなってきた。
光源がないためあたりはすぐに漆黒に包まれるだろう。
なにか食べられるものはないかとできるだけ近場を散策してみた
何種類かの食べられるかもしれない野草、木の実、こぶし大のサイズの果物が数個
野草や木の実のうち半分は口に入れた瞬間強い刺激を感じたのですぐに吐き出した
果物はグレープフルーツを5倍くらいすっぱくしたような風味だったが無理やり胃に収める。
「んぐ・・・ふぅ、これがサバイバルか」
「結局ハクアは戻ってこなかったな」
すぐには許可は得られないのも仕方がないただでさえよそのものなのだから、子供に頼りっぱなしな自分にも情けなさを感じる。
「また来てくれるよな・・・」
孤独はすぐに嫌な思考で脳を支配しようとしてくる、
頭を振り強引に不安を隅に追いやる。
小屋に戻ると積んであった木材から丁度いい長さのものを選び戸のつっかえ棒にし開かないようにする
やらないよりもマシだ。
部屋に置いてあった薪割り用の古びた斧を傍らに置いておく
ないよりもマシだ、うん。
藁の束を整えてハクアより譲り受けたボロマントを敷く、藁のチクチクが軽減されてだいぶ快適になった寝床で横になる
ちょっとだけ匂った。
―――――室内は闇に包まれた。
唯一部屋の小窓から漏れる月明かりだけが目に映る
(しまったな・・・あそこはそのままでも大丈夫だろうか、小さい窓だしなにも入れないか)
―――――静かだ・・・いや音がする
風の凪ぐ音、葉の擦れる音、虫の声、動物の足音
「もう家には帰れないんだろうな・・・」
漠然と理解している、自分の肉体は完全に死んだ、もう戻る術なんかないと。
「う・・・ぶっ・・・!」
不意に襲った強烈な吐き気で喉に熱いものがこみ上げる。
バタバタと四つん這いになりながら寝床から移動し
豪快に先ほど腹に収めた野草やら果物だったものをぶちまける。
「ゴボッ・・・ゴホッ・・・もったいねえ・・・」
涙目になりながら口元をぬぐう
情けない。
ふらつく足取りで寝床に倒れこむ、
自分が姿を消したことを知って両親はどう思うだろう。
きっと悲しむだろう、2人の人生に消えない大きな傷を残すであろうことは間違いない、
今まで何の苦労もなく育ててもらっておいて最期がこれだなんて、ここまで親不孝な子は他にはいまい。
母親の泣き叫ぶ姿なんて想像したくない―――
「ふっ・・ぐ・・」
渇いた喉から嗚咽が漏れる。
父親の絶望に打ちひしがれる姿なんて想像したくない―――
「ごめ・・・うっ・・」
熱いものが頬をつたう。
最後に見た顔が自分を見ている殺意に満ちた形相で睨みつけている―――
「く・・・そ・・・っ!」
奥歯を強く噛みしめボロ布を握りしめる。
暗黒が魂をむき出しにする
逃げることはできない、耐えることしか選べない、
後悔や申し訳なさや疑問や怒りがないまぜになった感情が溢れ出した。
小屋から寝息を聞こえ始めたころ、外で身を潜めていた小さく黒い影が動き始めたのにクロウが気づくことはなかった。




