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決死の思い

―――ああ、情けない。


自分が今世界で一番情けない男である自信がある。


啖呵を切った直後にぶっ飛ばされて。


地面に転がっている。


こんな自分を欲してくれる人がいるなら―――


=====================================


「クロウ!クロウー!」


悲痛な呼び声で意識が覚醒する。


「う・・・」


外はまだ暗い、

よかった、そこまで長い時間意識を失っていたわけではなさそうだ。


(平気だ・・・大丈夫、今起きるから)


横のハクアに声をかけようとするも、喉からは声はでてこない。

それに上手く起き上がることもできない。

理由を求めて視点を落とす―――


クロウの左腕は手と肘の間の本来関節のない箇所がひしゃげており折れた骨が皮膚を突き破っている。

認識と同時に痛みの濁流が押し寄せる。


「ぎゃああああああああッ!!」


「クロウ!?ど、どうしよう・・・!」


治ってない!治らない!なんで!?腕が元の位置にないからなのか!


「やっかましい野郎だぜ、おかしなマネしやがってすぐ終わらせてやるよ」


ノシノシとラウボカが近づいてくる、たった一発のパンチで人体を破壊する化け物が―――

所詮は無力な人間の蛮勇だったのか現実をありありと見せつけられる。

細枝のようにあっけなく心が折れそうになった瞬間にクロウを庇う背中が割って入る。


「ごめんクロウ、なんとかして逃げて」


その表情は先ほどのように死を望む者の顔ではない。

自ら命を捧げようとする者の顔だった。


「なんだぁ?こんどはチビかよ、まあ順番が変わるだけだがよ」


「あんたのことずっと大嫌いだった!もうなにも渡さない!」


凶悪な相貌を浮かべラウボカの腕がせまる。

ハクアの姿勢がストンと沈みこみ巨腕の隙間をするりと抜ける。


「うろちょろすんなよ鬱陶しィ!」


続けざまに飛んでくる拳を地を蹴り加速して逃げる。

正面からくる反対の腕の一撃を急停止、反転して凌ぐ。

そのすばしっこさなら逃げきることもできるかもしれないのにラウボカの射程距離を付かず離れず飛び回る。

理由は明確、クロウを逃がすためだ。


奥歯が割れそうなほどに噛みしめ萎えかけた意地を奮い立たせる。

これ以上情けない姿を晒すなよと。


「ぐぎ・・ぎぎぎっ・・ぎぎぁあああぁ・・・!!」


いまだに回復をしないおかしな形になっている左腕を掴み力づくで元の位置に戻そうとする。

肉の中でへし折れている骨と骨を繋げる。神経がマグマに浸かっているかのような熱さで痛みを訴える。

痛みのあまりのたうちまわりながら額を地面に打ち付ける、何度も何度も。


「はぁ゛ー・・・はぁ゛ー・・・」


激痛が徐々に和らいできた、やっぱり元の位置にないと治らないのか・・・

涙と鼻水と涎だらけになりながら顔をあげる。

見なくてもひどい面だとわかるがあのまま転がってるよりも万倍マシだと思った。


ハクアは変わらず奮戦している。

一発もらえば終わりの戦いを飛んだり跳ねたり紙一重の連続で躱し続ける。

すでに呼吸も荒く肩で息をしている、当たり前だ全力で動き回っていればあの小さな身体に貯蔵されているスタミナなんてすぐに底をつく。


「はぁっ、はぁっ!クロウ・・・はやく・・・ッ」


次の一撃が来る。

加速し避けようとする。が、そのひと振りはハクアが居た位置に到達する前で止まる。


「!?」


フェイント―――


「終わりかぁ?」


ラウボカが半身を翻し裏拳が発射、ハクアの小さな顔を叩き潰しにかかる。

スタミナ切れで思考の鈍った頭でなんとか瞬時に状況を把握し火傷した両手を地面に付き全力のブレーキ、痛みのために一瞬遅れて後ろに飛びずさる。

回避しきれなかったため拳が顔をかすめていく。


「くぁ―――」


すでにふらついていた両足では身体を支えることができずたまらず尻もちをつく。

勝負がついた。


勝負がついてしまった。


なんとかしなければこのままハクアは命を散らす。

だがなんとかしようにもクロウに凶行を止める力などないことはつい先ほど嫌というほど証明されたばかりだ。

すがる思いで周囲を見渡すも住民たちは自身への被害をできるだけ避けようと壁際に固まっている。

それもそのはず、彼らはむしろラウボカ側の人間だし加勢する必要などないし敗色濃厚なこちらにつく理由もないし、そもそも彼らもクロウのように状況を変える力などない者達なのだ。


(子供が殺されそうになってんだぞ、誰も助けようとか思わないのかよ!)


などと理不尽な怒りを覚えるも時間の無駄だとすぐに余計な思考を消し去る。


「なにか・・・ないか!?」


せめて武器・・・そう、さっきまでハクアが持っていたナイフ。

ないよりもマシだと視線を巡らせる。


見つけた、数メートル先にキラリと反射している。

一心不乱に飛びつくとそれは。


金の針


ついさっき徒労に終わりしこたま痛い目にあった状況が思い出される。

だが、もうほかに手を探す時間も迷う時間も本当になかった。

針を握りしめ走り出す。


『―――自分に使っても構わないけどね』


ふと脳裏にアクライシャの言葉が浮かぶ。

他に思いついた策はない。

もしかしたらラウボカのような腕力がでるようなドーピングなのかもしれない。

どうせなにもないなら先が暗闇でも飛び込むしかない。

クロウは思い切り針をもう片方の腕に突き立てた―――


「うっ」


直後、視界がブレて正体不明の浮遊感。

全身の力が抜けていったことにより走ることはおろか立っていることもできなくなり膝をついた。

それどころか手で身体を支えるのがやっとの状態だ。


(また・・・当てが外れたのか・・・)


ラウボカがサッカーボールキックよろしく尻もちをついているハクアに向かって蹴りをはなつため足を振りかぶっている。


万策尽きた・・・。

ハクアは死ぬ・・・なにもしてあげられなかった・・・。


蹴りが直撃、野太い脚が思いっきり振りぬかれる。

蹴り飛ばされたハクアがそれこそボールのように飛んでいき、

反対側の壁の天井近くの位置に激突、砂埃を纏いながら落ちていく。


「うぶぁ・・・」


同時に全身を打ち据える痛みがクロウを襲う。

予期しない衝撃により吐き気を催す。


(なんだ・・・?さっきの針のせいなのか?)


混乱するクロウ、そしてラウボカ。

ラウボカも同じように混乱して眉をひそめていた、全く違う理由で。


送る視線の先、ハクアが倒れているであろうはずの場所。

砂煙のなかで立ち上がる影。


「いったいどういうカラクリだよ、こりゃあよォ」


少なくとも重症は間違いなかったはずのハクアが立っている。

その瞳にほのかに緑の光を輝かせながら。


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