兵士(打ち子)総動員!決死の5万発チャレンジ
「ええい、なぜだ! なぜさっきからあの赤い魚の群れが来ないのだ!」
『シーフード物語』の島から、領主様の悲痛な叫びが響き渡っていた。
初打ちのビギナーズラックで確変を引いたものの、パチンコの確率はそう甘くない。大当たり確率1/350の壁にぶち当たり、領主様は見事な「ハマり」を喰らっていた。
「くそっ! またカニとカメがすれ違ったぞ! 私を舐めているのか!」
サンド(玉貸機)に投入される金貨のペースが明らかに上がっている。
領主様の額には脂汗が浮かび、目は完全に血走っていた。手元の玉はとうに飲まれ、追加投資に次ぐ追加投資。
『あーあ。完全に熱くなって周りが見えなくなってるわね。典型的な負けパターンよ』
クズ神が楽しそうに笑う。
「ふうむ……このままでは、あの『ふかふかクッション』を手に入れる前に日が暮れてしまう……」
領主様は少し冷静になったのか、顎に手を当てて考え込んだ。そして、何か閃いたようにガバッと立ち上がり、ホールの外へ向かって大声を張り上げた。
「おーい! 兵士たち! 中へ入れ!!」
ガチャガチャガチャッ!!
待機していた重武装の兵士たち十数名が、主の危機とばかりに剣を抜き放ってホールへとなだれ込んできた。
「はっ! 魔術師を討伐しますか、領主様!」
「ちがーう! 剣をしまえ!」
領主様は兵士たちを一喝すると、ズシッと重い金貨の袋をいくつかテーブルに放り投げた。
「お前たち、今からこの魔導具の席に座れ! そして私に代わって、あの金属の球体をかき集めるのだ!! 目標は5万発! 総員、死に物狂いでハンドルを回せ!!」
「「「は、はいぃっ!?」」」
突如として下された『パチンコ5万発チャレンジ』の命令に、歴戦の兵士たちは完全にポカンとしている。
俺はたまらず吹き出しそうになった。
「領主様、部下を総動員しての『ノリ打ち』ですか。軍資金は全部領主様持ちで?」
「の、のりうち? よくわからんが、多勢に無勢という言葉を知らぬのか店長! 私の財力と軍事力をもってすれば、この機械の軍勢などあっという間に制圧してみせるわ!」
俺は満面の笑みで頷いた。
「どうぞどうぞ! 当店は出玉の共有OKですから! さぁ兵士の皆さん、空いてる台に座ってくださいねー!」
こうして、パーラー藤丸のホールは異様な光景に包まれた。
ガシャガシャと鎧を鳴らす屈強な兵士たちが、『シーフード物語』や『金WOLF』、『無限大DREAM』にズラリと並んで腰を下ろし、真剣な顔で右打ちのハンドルを握りしめているのだ。
「隊長! このボタンを押したら玉が出ました!」
「よし、そのまま右へ回せ! 真ん中の穴を狙うのだ!」
「うおおお! 私の台で巨大な狼の顔が飛び出しましたぞ!!」
流石は軍隊。命令への忠誠心と集中力は凄まじい。
そして、数打ちゃ当たるの法則か、領主様の莫大な軍資金(金貨)の暴力か。ホールのアチコチでけたたましい確定音が鳴り響き始めた。
「領主様! 確変に入りました!」
「でかしたぞ! そのまま出し続けろ!」
兵士たちがパチンコ台と死闘を繰り広げること数時間。
「領主様! 目標の5万発……到達しました!!」
パーソナルシステムのカードをかき集めた隊長が、汗だくになりながら敬礼した。
「おおおおっ!! やったぞ! ついに我々の勝利だ!!」
領主様は兵士たちと肩を抱き合い、まるで魔王軍を打ち倒したかのような歓喜の涙を流している。いや、ただパチンコ打ってただけなんだけど。
俺は景品カウンターで、合算されたカードを受け取った。
「ピッ。はい、お見事です。出玉の合計は『5万1500発』ですね」
「ふははは! 見たか! これが我が軍の力だ! さあ、約束通りあの『ふかふかクッション』と『低反発ウレタンの鞍』を渡すがいい!!」
「はい、毎度ありー。余った1500発でサバ缶もつけときますね」
俺は恭しく、クッションと鞍を領主様に手渡した。
領主様はそのクッションを頬にすりすりしながら、感極まったように声を震わせた。
「おおお……なんという柔らかさだ。まさに雲の上……。これでこれからの長旅は快適そのものだぞ……ッ!」
「隊長……領主様が、あんなに嬉しそうに……」
「ああ……我々の戦いは、無駄ではなかったのだ……」
兵士たちも謎の感動に包まれている。
大満足で帰っていく領主様と軍隊の背中を見送りながら、俺は本日の売上データを確認した。
「……領主様、あのクッション1個取るために、部下に軍資金配って『数十万G』も全ツッパさせてたぞ」
『あはははは!! 大赤字じゃない! あのクッション、日本円にしたら数千円の安物よ!?』
クズ神が大爆笑している。
出玉5万発とはいえ、1/350や1/400の台を兵士十数人で力任せに回せば、当然投資額はとんでもないことになる。パチンコにおいて、多人数でのノリ打ち(親が全額負担)は一番資金が溶ける最悪の作戦なのだ。
「でもまぁ、本人があんなに満足してるんだ。超優良店だろ」




