スーパーラッキーと謎景品
「こ、ここに金を入れると言ったな……」
領主は恐る恐る『シーフード物語』の椅子に腰を下ろした。
そして懐からずっしりと重い金貨の入った袋を取り出すと、サンド(紙幣・硬貨挿入機)にジャラジャラと投入し始めた。
その額、なんと一撃で1万G。
『チャララーン! おめでとう! 店舗の累計売上が規定値に達したわ!』
突然、脳内にクズ神のファンファーレが鳴り響いた。
(おっ?)
『パーラー藤丸、レベル4にアップよ! 新しい景品がアンロックされたわ!』
マジか。領主様がサンドにぶち込んだ1万Gが決定打となって、ちょうどレベルアップの閾値を越えたらしい。
俺は領主が玉を弾き始める前に、こっそりと手元の端末(ステータス画面)で新景品を確認した。
レベル2が「即席みそ汁」、レベル3が「植物用アンプル(肥料)」と来て、今回は一体何が追加されたんだ……?
**【新景品:鞍(低反発ウレタン製)& 馬車用ふかふかクッション】**
〜低反発で、馬上や馬車での長旅でもお尻が痛くならないぞ!〜
「なんだこのピンポイントな謎の景品は……」
俺は思わず小さくツッコミを入れた。
パチ屋の景品カウンターに『馬の鞍とクッションのセット』が並んでいる光景なんて、日本でも見たことがない。
『ふふん、ハタラケヤの移動手段はサスペンション無しのガタガタな馬車が基本だからね。領主様みたいなVIPにはめちゃくちゃ刺さるはずよ!』
なるほど、確かに店の外には立派な木製の馬車が停まっている。領主ともなれば領内の視察などで長距離を移動することも多いだろうし、この世界の硬い座席では尻も限界を迎えているに違いない。さっき馬車から降りてきた時も、密かにお尻をさすっていたのを俺は見逃していなかった。
俺がほくそ笑んでいると、台の方から領主の慌てた声が聞こえてきた。
「お、おい店長! 金を入れたが何も起きんぞ! 魔法のスープはどうすれば手に入るのだ!」
「金を入れたら、その『玉貸』っていうボタンを押してください。1回500Gで125発の玉が出ますよ」
領主が言われた通りにボタンを押すと、ジャラジャラジャラッ! と下皿に銀色の玉が吐き出された。
「ひぃっ!? な、なんだこの金属の球体は!」
「それを右手のハンドルを回して弾くんです。盤面の真ん中にある穴に入れば、真ん中の数字が回りますから」
領主は恐る恐るハンドルを握り、グイッと右に回した。
バチバチバチッ! と勢いよく飛んだ玉は、盤面の釘に弾かれながら落ちていき、見事チャッカーに入賞した。
ピロロロ!
液晶画面の海の中で、タコの絵柄の『1』がテンパイ(リーチ)する。
「おおっ!? 絵柄が揃いそうではないか!」
「おっ、いきなりリーチですね。しかも奇数の『1(タコ)』なんで、当たれば確変(連続大当たり)確定の激アツですよ!」
「おおお……こい! 揃え!!」
領主は剣の柄を握るように、台の縁を力強く掴んでいる。
その時、画面の右端から『赤い魚の大群』がサーッと通り過ぎた。
「なんだ!? 魚の群れが通ったぞ!」
「あ、それ激アツ(信頼度高め)です」
ピタッ。
画面の真ん中に、見事にタコの『1』が止まった。
キュインキュインキュイーン!!!
『大当たり〜!!』
「なっ……!? なんだこの激しい光と音は!? 祝福されているのか!? 私が、選ばれたというのか!?」
初めてのパチンコで、いきなり確変を引き当てた領主様。完全にビギナーズラックだが、本人は自分の実力(と権力)のおかげだと信じて疑わない様子だ。
そこからの領主様は上機嫌だった。
「おお! 今度はエビ(5)が揃ったぞ!」
「はっはっは! 金属の球体が無限に湧き出てくるわ!」
しかし、パチンコの神様(うちのクズ神ではない)はそこまで甘くない。
4連チャン目、無情にもサメの絵柄(4)が揃い、時短もあっさりと駆け抜けて、領主様の初打ちは終了した。
「むぅ……画面が静かになってしまったな。まあよい、このくらいで勘弁してやろう」
領主様は満足げに頷き、パーソナルシステムのカードをドヤ顔で引き抜いた。獲得出玉は『6000発』。初めてにしては十分すぎる結果だ。
俺は営業スマイル全開で景品カウンターに迎え入れた。
「おめでとうございます、領主様! 素晴らしい腕前でしたね。さあ、景品交換です。お目当ての『即席みそ汁』と『サバ缶』でよろしいですか?」
「うむ! 苦労して魔導具を攻略したのだ、存分に味わわせてもらうぞ!」
領主様がふんぞり返ってカードを渡そうとした、その時だった。
彼の視線が、カウンターの奥に燦然と輝く【特設ディスプレイ】に釘付けになった。
『新入荷! VIP専用・低反発ウレタン製 鞍& 馬車用ふかふかクッション!』
〜長旅のお尻の痛み、今日でサヨナラ!〜
「な、なんだあれは……!?」
領主様の目が、獲物を見つけた鷹のように見開かれた。
「ああ、あれですか。当店自慢の最高級景品です。あのクッションを馬車の座席に敷けば、まるで雲の上に乗っているかのような乗り心地になりますよ。お尻の痛みなんて一発で消え去ります」
「く、雲の上だと……!? ま、まさに私が求めていた魔法の絨毯ではないか!!」
領主様は身を乗り出し、ガラスケースに鼻を押し付ける勢いでクッションと鞍を見つめている。
「て、店長! あれだ! 私の威厳ある臀部を守るため、あのクッションと鞍を要求する!」
「毎度ありがとうございます。えーっと、サバ缶とみそ汁の分を差し引いて……クッションと鞍のセットで『5万玉』になります」
「ご、ごまん……?」
俺がサラッと提示したぼったくりレートに、領主様は自分のカードの残高(約6000発)と見比べ、絶望したように口をパクパクさせた。
「た、足りん……! まったく足りんではないか!」
「申し訳ありません。あれは本当に希少な素材を使っておりまして。また次回、頑張って玉を出してくださいね」
俺がわざとらしく残念そうな顔を作ってみそ汁を渡そうとすると、領主様はギリッと歯を食いしばり、ドンッ! とカウンターを叩いた。
「ま、待て! 私を誰だと思っている! この領地を治める者だぞ!」
「はぁ、そう言われましても……当店は玉と景品の交換しか……」
「ええい、わかっておる! つまり、あの魔導具(シーフード物語)からもっと玉を絞り出せばいいのだろう!?」
領主様はズンズンと足音を荒立てて、再びさっきまで打っていたシーフード物語の席へと戻っていった。
そして、懐からジャラジャラと大量の金貨を取り出し、サンドへ親の仇のように投入し始めた。
「見ておれ! 私の財力と運で、必ずあの『ふかふかクッション』を手に入れてやるわァァァッ!!」
『あーあ、完全に脳が焼かれちゃったわねぇw』
クズ神が呆れたような、それでいて嬉しそうな声を出す。
俺は心の中でガッツポーズをした。
「どうしても欲しい景品」を見つけてしまい、投資額のストッパーがぶっ壊れた客。これぞパチ屋における最高のVIPだ。
「領主様、熱くならないでくださいねー(棒読み)」
俺の生返事を背中に受けながら、領主様は血走った目で右打ちのハンドルを握りしめるのだった。




