パチンコ農業革命!?
新装開店から、あっという間に3ヶ月が経過した。
「さーて、今日もぼちぼち開店準備をするか」
俺はホールの掃除を終え、自動ドアから外の様子を伺った。
相変わらず、店の前では村の老人たちが畑仕事をしている。……しているのだが。
「そぉれ! エッサホイサァ!!」
「まだまだ腰は曲がらんぞい! うんしょうんしょ!」
開店当初の、今にも倒れそうに弱々しくクワを振るっていた老人たちの姿は、そこにはなかった。
背筋はピンと伸び、カゴいっぱいの野菜を鼻歌交じりに運んでいる。日本で見かける、毎朝ゲートボールとラジオ体操を欠かさない超・健康的な高齢者のようなハツラツさだ。
『みんな、見違えるように元気になったわね〜!』
クズ神が脳内で呑気な声を上げている。
「ああ。パーラー藤丸(いつの間にか俺の名前に店名を変えた)がレベルアップしたおかげだな」
実はこの3ヶ月の間に、店に一定の売上が貯まるごとに「店舗レベル」が上がり、景品入荷スキルで選べるアイテムがアンロックされていったのだ。
まず【レベル2】で解放されたのが『即席みそ汁』。
特に「しじみ汁」が大ヒットした。ハタラケヤの住人は長年の過酷な労働で肝臓や内臓が疲弊しきっていたのだろう。しじみに含まれるオルニチンと温かい味噌の塩分が、彼らの身体に染み渡り、健康的な元気を取り戻させたのだ。
そして問題なのは、【レベル3】で解放された新景品である。
「……なんでパチ屋の景品に『植物用の肥料』がアンロックされるんだよ」
それは、日本のホームセンタや百均でよく見る、緑色の液体が入った土に直接突き刺すタイプのアンプル(活力剤)だった。
謎すぎるラインナップだったが、とりあえず景品棚の端に並べておいたところ、これがとんでもない事態を引き起こした。
試しに交換したお爺ちゃんが、そのアンプルを畑の土にブッ刺した翌日――。
ハタラケヤのやせ細った土壌と、日本の化学肥料の相性が異常に良かったのか、見たこともないほどツヤツヤで、大人の頭よりデカい巨大な野菜が一晩でボコボコと育ち始めたのだ。
味も絶品で、これが街の商人たちに飛ぶように高く売れた。
つまり、今のこの村は完璧なエコシステム(好循環)に包まれている。
【肥料アンプルを畑に刺す】→【巨大野菜が爆育ちして高値で売れ、大金(G)が手に入る】→【健康になった体で開店からパチンコを全ツッパする】→【しじみ汁と大量の肥料アンプルを獲得する】→【さらに畑に刺す】
「お爺ちゃんたち……最高の優良顧客じゃねえか」
俺は事務所のパソコン(ホールコンピュータ)で、この3ヶ月の売上データを開いた。
「えーっと、現在の店の保有Gは……しめて『1億2000万G』!」
原価数十Gの食品や肥料を、数千玉のぼったくりレートで交換させ続けた結果、村の農業バブルの利益は、そのほとんどが俺の店に吸い込まれていた。笑いが止まらないとはまさにこのことだ。
その時だった。
「おおーい! 店長! 早く開けてくれい!」
「今日は『シーフード物語』で大漁じゃあ!!」
開店時間になり、元気いっぱいの老人たちが雪崩れ込んできた。
「はいはい、走らないでくださいよ! 台は逃げませんからね!」
相変わらずの盛況ぶりに目を細めていると、店の外からけたたましい馬のいななきが聞こえた。
ヒヒィィィン!!
見ると、明らかに辺境の農村には似つかわしくない、豪華な装飾が施された馬車が店の前に停まっていた。周囲には重武装の兵士たちがズラリと並んでいる。
「なんだ……?」
馬車の扉が開き、マントを羽織った貴族風の偉そうな男が降りてきた。
『あら、あれはこの辺り一帯を治めている領主様ね!』
クズ神が解説を入れる。
領主は眉間に皺を寄せ、村の畑を見渡しながら兵士に命じた。
「……信じられん。なんだこの異常な巨大野菜の数々は。他の村の50倍もの野菜がこの小さな集落から納品されていると報告があったが……一体どんな黒魔術を使っているというのだ。徹底的に調べ上げろ!」
どうやら、農業バブルの異常な数字に目をつけた領主が、直接視察にやってきたらしい。
「ふん、どうせ貧相で今にも死にそうな老人共が、魔族にでも唆されて……ん?」
領主の視線の先。
そこには、ちょうどパチンコの開店待ちに遅れてやってきたお爺ちゃんが、重さ数十キロはありそうな巨大なカボチャをリヤカーに山積みにして、「遅刻じゃ遅刻じゃ!」と元気よく走っていく姿があった。
「なっ……!?」
領主の目玉が飛び出んばかりに見開かれる。
「おや、領主様じゃあないですか。こんな辺境までどうなすったんで?」
お爺ちゃんが、気さくに話しかける。そのカボチャには、見慣れた緑色のアンプルが空っぽになって刺さっていた。
「な、なんだ貴様らその尋常ではない元気さは!? そしてその巨大な植物はァァァ!? い、一体この村で何が起きているのだ!?」
困惑する領主と、その後ろで軍艦マーチを大音量で響かせるド派手なパチンコ屋。
この異世界に、いよいよ本格的な波乱の足音が近づいていた――。




