黄金騎士、脳汁の沼に沈む
「これが『金WOLF』か……。黄金の騎士である俺にふさわしい台座だな」
ガローさんは満足げに頷きながら、金WOLFの椅子にどっかりと腰を下ろした。
「まずはここにお金を入れてください。1プレイ500Gです」
俺がサンドを指差すと、ガローさんは革袋から無造作に金貨を取り出し、ジャラジャラと投入した。
「よし、玉が出たぞ。これをどうするのだ?」
「右側のハンドルを握って右に回すと玉が飛びます。画面の下にある穴に玉が入れば、真ん中の数字が回って抽選開始です。確率は400分の1の激重スペックですが……一撃の破壊力は凄まじいですよ」
「ふん、400分の1程度、数多の戦場をくぐり抜けてきた俺の運をもってすれば造作もないわ!」
ガローさんは自信満々にハンドルを握った。
弾き出された玉が盤面を跳ね回り、チャッカーに吸い込まれていく。
シュイーン!
「おお! 回ったぞ! 数字が揃えばいいのだな!」
初めのうちは、ガローさんも目を輝かせて液晶画面の演出を楽しんでいた。
しかし……。
30分経過。
『リーチ!』→ハズレ
1時間経過。
『激アツ!』→ハズレ
「おい店主! さっきから魔獣と戦っては負けてばかりではないか! 俺ならあんな奴、一太刀で両断できるというのに!」
ガローさんの顔に焦りと苛立ちが見え始めた。革袋の金貨はすでに半分以上がサンドに吸い込まれている。
『ふふふ……これよこれ! 1/400の重い確率で投資が嵩むからこそ、当たった時の脳汁がヤバいのよ!』
クズ神が俺の頭の中でゲスい笑い声を上げている。
「ガローさん、パチンコは忍耐です。当たる時は突然来ますから……」
俺がマニュアル通りの慰めを言った、その直後だった。
プチュン……。
突然、金WOLFの画面がブラックアウトした。
「な、なんだ!? 壊れたか!?」
ガローさんが慌てて腰を浮かせる。
直後、台の役物が激しく動き出し、けたたましいアラーム音と共に液晶画面に金色の狼が咆哮した。
『激アツ!! 魔界ドラゴンリーチ!!』
「おおお!? これはなんだか凄そうだぞ!?」
「ガローさん! チャンスです! 画面の指示に従って、右にあるウルフソードを押し込んでください!」
ガローさんの目に歴戦の騎士の鋭い光が宿った。
彼は台座に備え付けられたおもちゃの剣(ウルフソード役物)を、本物の聖剣を握るかのように両手でガッチリと掴む。
「魔界の邪竜め……俺の剣撃を受けてみよォォォッ!!」
渾身の力でウルフソードを押し込む!
(台が壊れるんじゃないかとヒヤヒヤした)
キュインキュインキュイーン!!!
『大当たり!! 50%確変・魔界RUSH突入!!』
「うおおおおおっ!! 倒した! 魔界ドラゴンを討ち取ったぞ!!」
ガローさんは立ち上がり、ガッツポーズで雄叫びを上げた。周りの老人たちも「騎士様がやったぞ!」と拍手喝采だ。
『ここからが本番よ! 継続率80%、オール2000発のループの始まりよ!』
クズ神の言う通り、そこからのガローさんは凄まじかった。
「次だ! 次の魔獣を持てい!」
「うおお! また当たったぞ!!」
「はっはっは! 魔界RUSH、最高ではないか!!」
画面の中で魔獣を倒すたびに、パーソナルシステムのカウンターには万単位の玉がガンガン加算されていく。ガローさんの脳内は今、完全にパチンコ特有の快感で満たされているはずだ。
数時間後――。
「ふう……素晴らしい戦いだった」
心地よい疲労感と共に、ガローさんは席を立った。最終的な出玉は5万発オーバー。
「おめでとうございます、ガローさん。景品はどうしますか?」
俺が尋ねると、ガローさんは目を輝かせてカウンターの棚を指差した。
「まずはあの『さばかん』をよこせ! 騎士団の連中にも食わせてやりたい! あとは『かるぱす』とやらも大量に頼む!」
「まいどあり。サバ缶は1つ3000玉、カルパスは1つ400玉になります」
俺が堂々とぼったくりレートを提示すると、ガローさんは深く頷いた。
「これほどの死闘の末にしか手に入らぬ幻の美味……。あの魔界ドラゴンを討伐した報酬としては申し分ない!」
ガローさんは手元のサバ缶を、まるで伝説の秘宝でも見るかのように恭しく抱え込んだ。そこに「金貨何枚分か」といった野暮な計算など一切ない。彼にとってこれは、自身の力と運でもぎ取った絶対的な価値のある戦利品なのだ。
「店主! 明日も来るぞ! 次はあの『無限大DREAM』とやらで勝負だ!」
意気揚々と帰っていく黄金の騎士の後ろ姿を見送りながら、俺は今日の売上データを眺めた。
「ガローさん一人で、今日は4万Gのプラスか……」
原価数十Gのサバ缶とカルパスが、何万Gもの利益を生み出していく。競合店も存在しないこの世界で、俺の決める価値がすべてだ。
異世界最強の騎士は、こうしてパチンコの沼へとズブズブに沈んでいったのだった。




