3 宰相 アルフォンソ・ラザーニャ
王宮に到着した。勿論貴族が出入りする門ではない。納入業者などが出入りする通用門だ。王立研究所所属を表すメダルを首から下げているので、それを取り出して衛兵に見せて俺達だけ入れてもらう。御者は馬車を車庫に入れてそこで待機だ。どれくらい待たせることになるか俺達にもわからないが、現代のように電話一本で呼び出すわけにもいかないので仕方がない。
「ユリウス、今日はこっちだ」
アリウスについて行く。どうも正式な訪問ではないらしい。宰相が陳情に耳を傾ける謁見の間ではない方へ向かっている。
馬車に持ってきた資料を積んだままなので、俺が取りに行くことになるだろう。めったに来ることのない王宮だから、ちゃんと場所を記憶すべく幾分緊張していた。方向音痴じゃなくて本当に良かったと思う。
「今日は根回しということもあり宰相の控室で会うことになっているんだ」
小声でアリウスが言う。執務室ですらないあたり、俺達の来訪を誰にも知られたくないのかもしれない。
「ここだ」
着いたのは、謁見の間はおろか執務室より更に奥まった場所で、装飾などが王宮内では比較的簡素な一帯だった。
(そういえば今の宰相は、立場上閣下と呼ばれてはいるが王族や貴族出身ではなかったな)
前任者は高位の爵位持ちで、控室というよりは控えの間といった方が適切な、広くて豪奢な部屋をあてがわれていたように思う。やはり貴族と平民の間には大きな壁があるのであろう。
(とはいえ、高位高官が貴族階級に独占されていないということは、封建社会にしてはかなり風通しは良いと言うべきなのかもな)
ユリウスの中の荒井慶太はそう考えた。
もちろんそれはほんの一瞬のことで、アリウスの指示で車庫まで資料を取りに行くことになったユリウスである。だが彼が控室を出る前に、宰相本人が現れた。
「宰相閣下、ご機嫌麗しゅう」
即座に膝を折る二人。それへ宰相は手を振って、
「堅苦しい挨拶は不要だ、今日は忌憚なく議論をするために呼んだのだから」
と笑って答えた。
「第一学問所の先輩後輩ではないか」
宰相――アルフォンソ・ラザーニャはそう言うと、二人に椅子をすすめ、自らも座った。え?と思ったユリウスがアリウスを見ると、
「私が最初に助手についた先生なのだ」
と答えた。
「閣下、ご紹介します。現在私の助手を務めるユリウスです」
「お初にお目にかかります。ユリウスと申します」
どの程度の挨拶をしてよいものか迷うところだが、とりあえず深くお辞儀をした。
「それでは先生、馬車まで資料を取りに参ります」
俺がそう言うと、
「この部屋は初めてだろう、車庫の場所はわかるかね?」
と宰相が訊いてきた。
「おそらく大丈夫だと思います」
「そうか。だが一応念の為人を付けよう」
そう言った宰相がパンパンと二回手を叩くと、一人の侍女が控室に入ってきた。
「お待たせいたしました」
彼女はそう言って顔を上げた。それを見て俺は大層驚いた。その人はマルゴだったのだ。