プロローグ
最近困っている。ううん、正確には混乱していると言った方が適切?最初はメンタルクリニックで診察してもらうべき?とマジで悩んだ。でも真剣に取り合ってもらえるはずもないとすぐさま思い直し、今のところは様子を見ている……が……
ひと月くらい前、とにかく土曜日の夜から始まった。その日の昼間は同僚に「手ぶらでバーベキュー」とやらに誘われ、行ってみたら体のいい合コンだった。正直焼き肉屋と何が違う?と思ったが、合コンで焼き肉屋は確かに、ない。
職場内の空気を乱すのも…と思って参加したものの、所詮数合わせ要員、ひたすら肉を焼く係に徹していた。専用施設でのバーベキューだから、買い出しも野菜をカットする仕事もない。〆は焼きそば!みたいなノリもない。
合コンのノリが苦手なものだからホントに何しに来たんだか……と若干悔やみつつ、それでも社会人らしく社交辞令的微笑を以って対応していたら、結局二次会に連れて行かれる羽目になった。
バーベキューがお開きになったのが三時過ぎという中途半端な時間だったので、二次会会場はカラオケボックスになった。音楽自体は好きだけど皆で盛り上がれる歌なんて歌えない。社交辞令的微笑を張りつけてまた数時間過ごすのか……と正直げんなりしたが、たまには仕方ないかと気を取り直した。
参加者の女性は全員うちの職場の人間。そのうちの一人の学生時代の男友達が男性陣を招集して、五人ずつ総勢十人だ。
幹事の二人はもともと学生時代からの友人同士だから、積もる話もあるのだろう、自然とペアになることが多かった。カラオケボックスに向かう今も、ごく普通に連れ立って歩いている。
残りは私も含めて男女四人ずつ。普通なら男女ペアが四組できるか、男女二人ずつの組み合わせが二組できるところなのだろうけれど……案の定、私の前を男女三人ずつが歩いている有様だった。
所詮頭数合わせ要員だもんなぁ――集団の最後尾を歩いているのは、私と私同様にあぶれたらしい先方の男性一人で、前を歩く六人は、社会人らしく道いっぱいに広がってはいないものの、前後を入れ代わり立ち代わりながら会話が盛り上がっているようだった。
これなら無理して一緒に行動を共にしなくてもいいのではないかしら――おそらく私と並んで最後尾を歩く彼もそう思ったのだろう、私に小声で帰ってもいいかと訊いてきた。
渡りに船とはまさにこのこと――自分も便乗したいと小声で伝え、早速先頭を歩く幹事のもとへ行き、耳元で自分は帰る事、男性も帰るつもりでいるようだとこそっと伝えた。彼女は「え?」という顔をしたが、彼女が何か言う前に他の六人に「お先に、お疲れ様」と挨拶だけ言い、私はその場を離れそのまま裏通りに入った。最寄駅と行き先だったカラオケボックスは近いので仕方ない。週明けの月曜に彼女達に何か言われるかもしれないけれど、だからといって楽しくもない無駄な時間を過ごす必要もないと思った。
さて、彼らがカラオケボックスに落ち着くまで駅には行けないしどうしよう、お茶しようか、と思っていたら先程の彼もやって来た。思わず目があったのでお互いに軽く会釈して、同じ事情を持つ者同士、近場の喫茶店に入って時間を潰すことになった。
お互いに出会いを求めていた訳ではないので、すぐにくるコーヒーをオーダーし飲み終わったら直ぐに店を出て、同じ駅に向かい同じ各駅停車の電車に乗って同じターミナル駅に向かった。そこでようやく別行動になり彼もホッとした事だろう。今日出会った他の人達に自分達二人が誤解されることのないようにしましょう、とどちらからともなく話し、以後は当たり障りのない世間話をして、その間は社交辞令上の微笑をお互い顔に貼り付けていたのだから。
別れた時には再会するとは全然思っていなかった。それは彼も同じだった筈――まさかその後、あんな場所であんな形で再会するとは――