ある男と女の成長
-とある街で今日も正午を知らせる鐘が鳴る-
それを聴き、今日という日を半分何もせずに終えてしまったことに溜息をつきつつもこれからなにかしようという気も起きず、その男はぶらりと街をまわって喧騒を楽しんでいた。
そしてギルドまで行き、そそられる依頼が見つからずに出てきた時に声が聞こえた。
「そこのあなた、行商人の護衛の仕事に興味はない?」
声の方に顔を向けると漆黒の髪に深い蒼の瞳をしたそんじょそこらでは見られない美女が俺に向かって話しかけていた。
「...依頼は大歓迎だが、なぜギルドを通さない?」
女の神秘的な出で立ちに少し間が空いた後、疑問をぶつけた。
「ギルドを通さない方が請負人の報酬が入るということは知っている。」
...その通りだ。だが、
「その分ギルドが責任を負わないという危険もある。そして依頼人には依頼が公にならないというところしか利点がない。絶対に訳ありだ。それを分かってて受けると思うか?」
「ええ。あなたは報酬_すなわち金額の方を優先するでしょう?」
行商人とはこんなに人を見極められるものなのかと内心舌を巻く。
「最期に1番の疑問だ。なぜこんな俺のような奴を雇おうと思うんだ?」
そう、最初から気になっていた今までギルドを介さないで人を雇うという事例は結構ある。だが、それは腕が立つ奴に限る。間違っても冴えない30の無精髭生やしたオッサンにはやってこない話だろうと思っていた。
「目を見ればで分かる。あなた、相当強いでしょ。」
買い被りだとも言えないほど断言されてしまった。
仕方ない、意地になって断ることは諦める。
「どこまでだ?」
「片道でいい。フォルトの中心街まで。」
「!!」
驚いた。だってそこの領地は
「ついこの間停戦条約を結んだばかりじゃないか。」
「だから商売できるじゃない。」
危険も顧みない商人の商売魂は恐れ入る。
「報酬は?」
「200ゴールド。はいこれ前金」
「なんだって!?しかもまだ受けるとは言ってない!」
当分は遊んで暮らせる金額だ。
「あら、そんな目には見えないけど。」
今まで受けて来た依頼でもっと危険度が高かったものはあったのに、金額の桁が違う。
「このまま逃げることを考えないのか?」
「私、人を見る目はあるの。あなたは仕事をしないで金を受け取らないし、もう100ゴールドは欲しいって人に見える。」
その言葉に観念して、依頼を受ける意思を固める。
「ああ分かった。受けるよ。」
「じゃあ明日の10時に広場で。最後にあなたの名前は?」
「俺の名前はオーウェンだ。」
「私の名前はカレン。よろしく。」
「よろしく。」
それが俺と彼女の出会いだった。