第4話案外悪いやつでもないらしい
ここ......は?
俺は確か、死神に胸を貫かれて......
「なぁー!!」
聞き覚えのある声だ。ちなみに俺はこの声の主に対してあまり良い印象を持っていない。
「君さぁ、魔王だよね? そりゃあ魔王になって日が浅いのに、いきなり最上級の魔物である死神に突然襲われたんだから仕方ないよ? でもさ? 魔王が最初の街でワンパンされるのはちょっとダメじゃない?」
どうやら俺はあの死神にワンパンされて死んだようだ。全く毎回毎回あっという間に終わるな俺の人生。
「まぁ、魔王は命が4つあるからまだ大丈夫なんだけどさー」
!?
「魔王の命は4つ?」
「そう、つまりあと生き返れるのは3回。君はその貴重な1回をこんな初っ端で使ってしまった訳。次は死なないように努力してくんないとこっちも困るのよまじで!」
俺を勝手に魔王にしたくせしてこの神は、だいぶ不機嫌な態度で俺に愚痴をネチネチと。
「そう言うことだから、もう死ぬなよ?」
「はい、わかりました」
「あとさ、一つ教えておくと、この街の人が死んでいるのはあの死神のせいではないよ」
「え、まじですか?」
「うん」
そういえば僕の偽物がどうとか言ってたような。
「ま、せいぜい頑張ってよ。魔王の真の力が目覚めるまでは」
「え、今何……」
言い終わる前に神は俺の頭をまたチョンと突くと、俺の周りの景色がまたうねり始めた。
「あ、時間は止めてあr......
なんて言ってるんだ? よく聞こえない
俺はまた気絶した。
◉
俺が意識を取り戻すと、俺の胸にはいまだに釜が刺さっており、ものすごい量の血液とともに痛みが吹き出してきた。
「ぐぁぁぁぁ!!!!」
俺は先ほどの神が言おうとしていたことを一瞬で理解した。
つまり、俺が神のところにいる間、ここの時間は止まってたのか。
万能すぎてさすがは神と言ったところだが、今はそれどころではない。
俺は自分に回復の呪文をかけると、傷みは嘘のように消え、焼けるような痛みは暖かい癒しの温度になり、出血も止まって鎌が胸に刺さっているだけの状態になった。
「ふ、死神貴様。本当はこの街の貴族を殺していないんだろ?」
驚いた様子の死神はまるで猫のように素早い動きで鎌を俺から引き抜き俺から距離をとった。
鎌が俺の胸から抜けると、俺の胸の傷口はみるみるうちに先ほどの魔法の効果で塞がれていった。
それを見た死神は、死人を見たようにかなり動揺した様子だった。
「なんで? なんで僕の攻撃を受けても死なないんだ? 確かに命はとったはずだ! なのに何故?」
「何故か知りたいか? ならば教えてやろう。 俺が魔王だからだ」
自分でも知らなかったことをそのまま堂々と言うのは少々恥ずかしい。それにこんなの信用してくれる可動かもわからない。
「な!? 魔王だって!? 全ての魔物の頂点に立つあの!?」
信用してくれた。案外悪いやつじゃないのかもしれない。
「そうだ、そしてお前がこの街の人間を殺しているわけではないのも知っている。」
神に教えてもらっただけだけど。
「な、なんで魔王がそんなことを!?」
え、なんでって言われても……
「そ、そんなの決まっているであろう!! 俺が魔王だからだ!!」
俺の2回目の魔王宣言を聞くと死神は諦めたのか、手に持っていた鎌を下ろしてふっと笑った。
「それなら勝てる訳ないですね。何せ魔王様なのですから。」
「あぁ、そうだ」
正直言うともう戦いたくなかったから自分から降参してくれたのはかなり嬉しい。まさか死神がここまで強いとは。これから油断できないな。
「魔王様、先程は死神ごときの身でありながら魔王様にあのようなことをしてしまい、大変失礼致しました。」
するとリーズはだいぶ怒った口調で、
「貴方、無礼を弁えなさい!!!次はもうありませんよ!!」
と、俺の代わりに言ってくれた。リーズの目には涙が少し溜まっていだのは少し胸にくるものがある。
「死神、名はなんと言う」
「シロと言います」
シロ、死神の割には犬みたいな名前だな。
「そうかシロ、何故こんなことをしたのか教えてくれ」
「わかりました魔王様」
するとシロは持っていた鎌を魔法で消して話し出した。
「死神というのは死の概念そのものなのです。そして人間のイメージから死神は存在できます。」
魔物にも色々なのがいるんだな。シロは続けた。
「何物かが数日前、死神の名を使い、恐らく自分の私利私欲のために人を殺しました。そして人々には本来魂を導く役割である死神を、殺す存在と認識したことで、僕もまた、殺す存在である死神になりかけているのです」
そんな曖昧な存在の仕方をしているのか。
きっと自分を失っていくのが怖かっただろう。
「僕も恐らくあと数日したら、本能で人を殺す化け物になってしまいます。魔王様、どうかそのお力をお貸しください」
「魔王様、この死神は魔王様を殺そうとした輩、本当によろしいのですか?」
俺は、俺を助けてくれなかったクラスの奴らとは違う。
「いいだろう」
次の瞬間、どこからともなく数十本ナイフが飛んできた。俺は即座に土の造形魔法で壁を作ってそれを防いだ。
「気をつけてって言ったじゃないですかーっ」
聞き覚えのある声だ。しかも割と最近聞いた。恐らくこの声は、
「じゃないとー私が殺しちゃいますよ!!」
そこにいたのはこの街のギルドにいた受付嬢だった。
あの可愛らしい雰囲気は消え去り、殺人鬼独特の泥沼に引きずり込むような異様な雰囲気を醸し出していた。
明日も2話ほど投稿できたらいいと思っています。
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