王太子エドワール
「はあっ?!…もう一回言ってくれ、そして嘘だと言ってくれ…頼む……」
両手で頭を押さえて机に伏せる
「本当だ、いま王妃様に呼ばれて聞いてきた……私もここまでとは思わなかった」
クリストファーがエドワールに言うも
「バカなっ!あいつっ!!」
ガタンっと椅子から立ち上がり
「サロモンを呼べ!今すぐだ」
侍従が頭を下げて扉から出て行く
それから間も無く
「兄上、お呼びですか?」
「おまえ、自分が何をしでかしたか、分かっているのか?」
「何のことでしょう?」
「セレスティーヌの事だ!」
バンっと執務室の机を叩く
「あっ!」
ギロッとエドワールに睨まれる…
「私は真実の愛を…」
「婚約を解消するくらいに好きな相手なんだな?」
「えっ?セレスティーヌはゆっくり考えていいと言ってましたが…」
「バカか、おまえっ!もうセレスティーヌは母上に挨拶をして出て行ったよ!」
「えっ?!それは、どういう」
「お前がっ、見限られたに決まっているだろうがっ!」
サロモンに指を指すエドワール
「セレスティーヌは私とアニエスの事を応援すると言ってましたが……」
頭を抑えるエドワール
「おまえにとってセレスティーヌはそんな存在だったのか!お前の好いている相手とセレスティーヌをよくみる事だ!それでもその相手が良いのなら好きにしろっ、お前のことはもう知らん!王家から出て子爵家に婿にでも入れ!」
「そんな、兄上ぇ…」
はぁーっと深くため息を吐く
「お前の顔はもう見たくない、言う事はそれだけだ、出て行け!」
叔父上がもうすぐ帰ってくるというのに、バカな弟に悩まされるなんて…
幼い頃から王宮で教育を受け、一生懸命に学ぶセレスティーヌ、受け始めた頃は出来ないと言って庭の隅でよく泣いていた。
ダンスの講師に褒められた!と笑顔で報告に来てくれたこともあった。
実のバカな弟より可愛い妹だと思っていたのにっ……
あいつはなんて事をしてくれたんだ!
その後、サロモンの相手と言う令嬢を遠目から見たが、セレスティーヌと比べる事自体、
馬鹿馬鹿しくて話にならなかった!
なんだ?!
あの娘は、なぜ夜会に出てくるのだ?
なぜ、誰も止めない?!
あれがセレスティーヌより勝ると言うのか?
……目も当てられん。つまみ出せと言いたい
新年の夜会では叔父上がセレスティーヌに贈ったドレスにわざと飲み物を掛けたと聞いて、喧嘩を売っているのか!と腹がたった。
セレスティーヌはサロモンとの婚約解消に巻き込んでしまったと温情をかけるが、甘いっ!と一喝した。
「エドワールお兄様、お願いします……」
私に縋りつき謝るセレスティーヌに叔父上までもセレスティーヌの味方になってしまった…
悪いのはサロモンであるのは確かだが、令嬢にももちろん罰は与えねばならん。
セレスティーヌは宰相の娘であり上位貴族の娘、第二王子の婚約者であった。
バカにして良い相手ではない!
子爵令嬢如きを庇う必要などないっ!
子爵家取り潰しの上、国外追放が妥当だと思っていたのにな…
父上も母上も納得はいってない様だった
もしセレスティーヌがこの時点で叔父上と婚約をしていたらこんな甘いものでは済まさなかったのに…!
サロモンの見る目のなさには失望した。
弟という事実が恥ずかしい…
その後叔父上がセレスティーヌと婚約をした
叔父上ならセレスティーヌを任せられる。
本当は私なんかよりも王太子の器であるのに、甥の私に王太子の座を譲るために若い頃に国を出て行った…その後色んな国に滞在してようやく帰ってきた。そんな叔父上に恥じぬ様、私なりに頑張ってきた。これからももちろん努力は続ける。
私は叔父上に、父上に、祖父に…王太子である事を、いずれ国を守る者として認められたい。
叔父上は臣下に降り、公爵を名乗る事となった。私が国王となった時には共に国を支えてくれると言ってくださった。
そんな叔父上がセレスティーヌと一緒になりたいと願い、お互い思い合っているのだ…
サロモンが、邪魔だっ。あいつはっ!
サロモンはかの令嬢と付き合う様になり、マナーの面でも勉強でも…全ての面において、目も当てられない。
セレスティーヌとの話し合いの場に、私と叔父上、クリストファーが立ち会った。
バカな弟がバカな事を言い始めて、本気で殴りそうになったがクリスに止められた。
クリス曰く殴る価値がないとの事だ……
セレスティーヌは叔父上の事を真実の愛の相手だと言った。
デジャヴだ……と思ったが、まぁ可愛い妹が言う事だ、そこは許そう。
セレスティーヌがバカにばーかと言った時は笑ってしまったが、本人は至って本気なんだろう…
サロモンにもセレスティーヌにもまたマナーを学ぶ様にきつく言い聞かせる。
とくにサロモン!
これからは誰がなんと言おうと厳しく躾させてやろう…
バカにつける薬があるのなら欲しい…




