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「真の愛とは何かわかるか?」

「存じあげませんわね…」

「やっと見つけたんだ、真実の愛を」

「それはっ!おめでとうございます」

「…もしかして喜んでくれるのか?」

「えぇ、もちろんでございます殿下」

「私が君と婚約破棄したいと言ってもか?」

「えぇ…」

「心苦しいよ…君とは長い間一緒に過ごしてきたから…」

「いいえ、いいえ!お気になさらずに」

「…まさか、応援してくれるとでも言うのか?」

「はいっ!勿論です」

「すまない、私は真実の愛を見つけてしまったんだ…」

「えぇ、えぇ、存じておりますわ」

「知っているのか?」

「子爵令嬢の事でございましょう?」

「………あぁ」

「婚約は破棄と言う事でよろしいのでしょう?」

「その予定ではあるが…」

「書類を準備いたしましょう!」

「…いや、待て、少し考えることに……」

「何を仰るのです!真実の愛を前にしてはわたくしの存在がお邪魔でございましょう?」

「…いや……そんなことは、」

「殿下、おめでとうございます。真実の愛をみつけられるなんて、さすが殿下でございます!尊敬致します」


「……そうなの、か?」

「えぇ!中々見つかるものではございません!真実の愛ですわよ?ロマンスですわね」

「まぁそうだな……」

「ではこちらにサインを」

「いつの間に書類を用意したんだ…?」

「殿下、お先に失礼致しますわね、先にわたくしからサインを…」

 サラサラ…とペンを走らせる


「はい!どうぞ」

「…いや、少し考え、」

「何を仰るのです!真実の愛ですわよ!」

「いや、しかし…」

「はい、どうぞ」

「…しかし、だな」

「どうかされました?」


「婚約、破棄しなきゃダメか?」

「はいっ!勿論です」

「気のせいかな…喜んで見えるのは…」

「……いえ、早くサインを書いて貰い、この場から立ち去り悲しみにくれようと思っております」

「ここにサインをすると君との関係は終わってしまうのだぞ?」

「えぇ、仕方がございません、真実の愛にわたくしは敵いませんもの…」


「……君と長い年月を過ごす上で見過ごした愛と言うものがあるのかも知れないと思い始めてきたよ」

「…そんな…それは子爵令嬢に悪うございます。真実の愛を引き裂くなんてわたくしには出来ません!」

「君のことを嫌いになったわけではないんだ」

「わたくしには勿体ないお言葉でございます」

「一度じっくり考えることに、」

「はい、ペンを握って、握り方はこうですよ?」

 優しくペンを握らせる


「君の手はまるで白魚のように美しいな」

「まぁ、ありがとう存じます、ここにお名前を書いてくださいませ」

「君は文字も美しいのだな…」

「まぁ!ありがとう存じます。フルネームでお書きくださいませ」

「私は何をさせられようとしているのだ…」

「お名前を書くだけですわよ?」

「なんのために?」

「……真実の愛のためですわよ?どうされましたの?殿下?」

「いや、そもそも、だな…」


「はい、お名前をサロモン・ド・アルベール、スペルわかりますか?S・a・l・o・m・o・n」

「いや、それは分かるが…」

「どうされました?ペンが進んでおられません!」

「なぜだ?」

「もう?なんです!良い加減にしないとわたくし怒りますわよ?」


「こっちのセリフだっ!!」

「…よくわかりませんわね」

「なぜ、君はそんなに急かす?」

「真実の愛ですわよ?」

「それはもういいっ!」

「良くありません!」


「……どうしたいんだよ、君はっ!」

「…殿下と子爵令嬢の真実の愛を見届けたいと思いまして」

「…よく分からん」

「まぁっ、殿下が仰った事でございましょう?」

「私はサインを、しないからなっ!」

「……それではわたくしが代理で致しましょう」

「そんなバカげたことが出来るかっ!」

「いや、真似して書けばなんとか…」

「サインは自分でするっ!」


「分かりました、それではこちらに、」

「くどいっ!撤回するっ!」

「はぁ?!」

「…なんだその態度は?!」

「殿下の仰る愛とはそんな軽いものだったのですね…がっかり致しました!」

「…それはだな」

「はぁ…わたくしは帰りますわね」

「待て話が終わっておらん」

「……終わりましたでしょう?」


「……君は私の事をどう思っている?」

「殿下は殿下です」

「…どう言う意味だ?」

「昔からサロモン・ド・アルベール殿下です。貴方は貴方以外でないんでしょう?」

「…意味が分からん」

「殿下が聞いてきたくせに…何を今更」

「……私は君の事を、」

「どうでもよろしいです、サインをして書類を出しておいてくださいませね、わたくしはもうこちらに来ることがございませんので、」

「待て!なぜだ?」

 腕を掴まれる


「離してください、殿下」

「いや、話を聞くまでは離さない」

「わたくしも真実の愛とやらを見つけたくなりましたの。わたくしの相手は殿下ではございませんでしょう?今までわたくしと過ごしていた時間を子爵令嬢に当ててくださいましね、それでは失礼し、」

「…相手にあてはあるのか?」

「ですから見つけたいと思っております」

「私が邪魔と言うことか?」


「おかしな事を仰らないでくださいまし。殿下が真実の愛を見つけたのですよ?殿下の恋の相手は子爵令嬢であり、わたくしではございません」

「…それは、そうだが、」

「真実の愛を邪魔するなんて野暮な真似はしたくないのです。今なら婚約破棄の慰謝料は無しにしてもらうように、父を説得しますよ?」

「……どうしてそこまで、」

「応援していますわよ!頑張ってくださいましね殿下」

「君と過ごした十年間が無駄になるのは心苦しいよ」


「わたくしとの事を天秤にかけるのはおかしいのですわよ?殿下は愛の重さをお知りになったのでしょう?」

「……もしかしたら気のせいかも、」


「ふふふ、わたくしのことは気になさらずに殿下はご自分の選んだ道を全うしてください」 

「しかしだな」

「はい、まずサインをしましょう。それから()()()()考えましょうね」

()()()()…」

「そうです、サインをしてからでも、考える時間はたっぷりございますでしょう?」

「そうなのか?」

「えぇ、わたくしは逃げも隠れも致しません」

「愛とはそう言うものなんだな」

「おそらくは……わたくしは知り得ませんですけどね」

 ペンを握るサロモン、もうサインするしかなかった……

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