新登場人物プロフィール+α
αは、悪魔のお仕事のことです。ミアナは♂です。
◇ファイド・クリック(23歳♂)
鼻まで覆い隠すほどの長さの茶色い髪を持つ死神。瞳は黒。
昔は、人の命を救う死神だったが、アルフを救って消滅して以来、彼の中で何かが変わった。
翼は青。ルティーナを愛すあまり、消したいという欲にもかられてしまった。
◇ナレミ・ビバルディ(20歳♀)
茶色いウェーブ髪と黄緑色の瞳を持つ天使。
お気楽でマイペースな性格。絶対神とは母娘だが不仲。
セズリカとは因縁がある。
◇ラトラ・アイヌダ
(16歳♂)
白いサラサラ髪と赤い瞳を持つ悪魔。
真面目で礼儀正しい性格。アイヌダの家系に誇りを持っている。
ハッシェとは不仲。
◇セズリカ・ミルハ
(18歳♀)
緑に近い青髪と桃色の瞳を持つ。アルフのオリジナルに当たる死神。
冷静でミステリアスな性格。自分と境遇が似ているリアゼを同志と思っている。
アルフにそっくりだが、二人称は“君”を用いることが多い。
◇ハッシェ・トリミン(29歳♂)
金色の長髪と紫色の瞳を持つ神。よく裏切るため、天界においてはかなりの嫌われ者。
自己中心的で、自分の興味あることでしか動かない。
アルフをライバル視して、からからっている。
◇トリメンデス(年齢不詳♀)
腰まである亜麻色の髪と藍色の瞳を持つ絶対神。ナレミ・ビバルディの母親。
人を見下していて、プライドが非常に高い。
『死神のお仕事番外編:悪魔のお仕事』
悪魔の仕事…それは、人間を魔に導くことではない。
唆し、悪事を働かせることでもない。
僕達、悪魔の仕事…それは………。
「ラットラさん、ラットラさん!今から仕事かいな?」
天界にある中央広場。
一人の悪魔が僕に話しかけてきた。
キャラメル色の髪を頭の上でおだんごにまとめた悪魔の名前は、ミアナ。
僕のことを異様に慕う変わり者だ。
「はい、そうですけど。君は、今日はオフなんですか?」
「うん、うちは休み!今日は、友達と襠行く約束しとるから。」
「そうですか…それじゃ、僕は急ぎますので。」
ミアナに淡々と言葉を返し、僕は黒く小さな翼をバサッ…と広げた。
そして、
「まったなー、ラットラさん!」
ミアナの大声を背中に受けながら、下界へと飛び立つのだった…。
ミアナから“ラットラさん”と呼ばれる僕の本名は、ラトラ・アイヌダ。
黒い小さな翼と、鬼のような角が頭部に二本、馬のような尻尾。
外見からわかる通り、正真正銘の悪魔。
天界に住む他の三種族と同じで、もちろん僕達も仕事をする。
一般には、“人間を魔に導く”とか“不幸を運ぶ”とか思われているらしいけれどそれは違う。
僕達悪魔の仕事は、正と負の均衡を保つことなんだ。
つまり…正に溢れすぎている場所には負を注ぎ、負に溢れている場所には正を注ぐ。
そうすることによって、空間の天秤を正しくできる。
…僕の今回の仕事場には、負が満ちていた。
「…やはり、こうなっていましたか。」
僕は仕事場を見て、事も無げに呟いた。
ラジアン区二−八十五番地。
そこに建つマンションの三階、305号室。
僕は開け放たれた窓から、当然のように部屋の中へ侵入した。
そして…見た。
「………。」
「ううっ…。」
言葉を発しない血だらけの少年と、背中から血を流し苦しげに呻く幼女。
近くには、べっとりと血がついた刃渡り二十センチほどのサバイバルナイフ。
床に散らばる服や日用品。
予想はしていたけれど…あまりの予想通りの状況に、僕は何も言えなかった。
(今更、何も変わらない気はしますが…)
僕は、少年と幼女がいる場所のすぐ真上にある“空間の天秤”に鉾を向ける。
そして、鉾をヒュッと一振りした。
グラッ…。
鉾から放たれた魔力を受け、空間の天秤が正の方に戻り始めた。
そうしてすぐに、均衡のとれた正しい天秤になった。
「これでよし…ですね。」
誰にともなく呟いて、帰ろうとしたその時だった。
「お……兄…ちゃん……。」
小さな小さな呼び声が聞こえた。
「んっ…?」
振り返ると、最後の力を振り絞って僕に向けて細い手を伸ばす幼女が見えた。
「お…兄ちゃん……。怖……い…よ……。」
黄色い髪を持つ幼女の瞳には溢れんばかりの涙が浮かんでいた。
しかし、その瞳はもうぼやけてしまっているのだろう。
すぐ隣に居る本当の兄がわからず、僕を兄と思ってしまっているのだから。
「………。」
別に義理も何もなかった。
けれど、僕は幼女に近づき思わずその手を握ってしまった。
すると、彼女はあったかいよ…とわずかに微笑んだ。
「お兄ちゃん……手………あったかい………」
スッ…トサッ…。
幼女の手が…力なく床に落ちた。
彼女の瞳は固く閉じられ、口元は少しだけほころんでいた。
僕は、すぐに幼女の腕を持ち上げ脈をとる。
………脈は無く、手もだんだん冷たくなってきていた。
(奇跡は…起きませんでしたか。)
僕はそう悟ると、そっと床に彼女の手を下ろした。
不思議に思われるかもしれないけれど、悲しいとも哀れとも何も感じなかった。
彼女の死は僕のせいではないし、第一それは死神の仕事だ。
僕達は、均衡をとるだけ。それ以上のことをする意味も必要もない。
何かしたところで、給料が上がるわけでも誉められるわけでもない。
だけど僕は………なぜだかそうしたんだ。
「ラトラ・アイヌダ…何度も言うけど、お前ってちょっと変わり者だよな。」
仕事を終え、天界に戻った僕は同僚の悪魔にそう言われた。
「僕の行動に、何か変なところがありましたか?」
「変も何も…、たまたま現場に派遣されたからって、あの子供達のために墓つくって埋めてやるなんてしねえだろうよ。おまけに、墓の前で手を合わせてるときたもんだ。そんな悪魔…天界中探しても、お前ぐらいしかい居ないだろうよ。…なんで、そんなことするんだ?」
「………別に、気が向いただけですよ。」
僕はそう言葉を返すと、すぐさまいつもの場所に帰ったのだった…。
いつもの場所とは、地獄の東南東にある宿のことだ。
そこは、悪魔の憩いの場…というにはおかしいかもしれないけれど、悪魔がよく集まる場所だ。
「あっ!ラットラさん、仕事終わったんやね、お疲れ様!」
何人かの悪魔が雑談している中、ミアナは僕を見つけるとすぐに走ってきた。
「今度の仕事…どやった?ラットラさんの派遣される場所、いっつも負に満ちとる場所やん。うち…ラットラさんが悲しい思いしてへんか、心配で心配で…。」
「大丈夫ですよ、ミアナ。もう慣れましたし…悲しいという感情はもとい、仕事には全く私情を交えてませんから。」
「ほああ…さっすがはラットラさんやな!うちやったら、負の多い場所では泣いてまうのに。」
ミアナはそう言うと、ポンッと手を打ち鳴らした。
「そうや、ラットラさん。手紙受け取ってたで。」
「手紙…?」
「はい、これや。」
僕はしわくちゃになった封筒を受け取った。
差出人の名前は…書いていない。
表には、ラトラ様へとかろうじて読めるぐらいの字で書かれていた。
「名前が無い手紙…珍しくもあらへんけどな、天界では。」
「ええ…それはそうですが。手紙なんて…何年ぶりかですね。」
封筒の封を破り中身を取り出す。
白い便箋には、丸っこい文字でこう書かれていた。
『ラトラ・アイヌダさまへ。ぼくはナキといいます。いもうとは、メトです。おはか、つくってくれて、ありがとう。いもうとも、ありがとういってました。ぼくとメトは、えんまさまにたのんで、ふたりとも、あくまになります。』
「…なんや、かなばっかりで読みにくい手紙やな。」
後ろから僕宛ての手紙を、こっそり覗き込んでいたミアナが言う。
「子供ですからね。無理もないでしょう。」
「ふうん…。ラットラさん、手紙もらえて嬉しい?」
「いえ…嬉しくはないです。僕は、僕のために行動したことで感謝されても、むしろ困ってしまいます。まあ、でも…」
「でも…?」
「今回だけは、ありがたくもらっておこうと思います。」
そう言って、ひらがなばかりの読みにくい手紙を、僕は内ポケットにしまい込んだ………。
-END-