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真実の歌











「最初から気付いてた…。この戦いは…“終わっていた”ということに…。」



硝煙を上げる銃を片手に、少女は力無く笑って言った。



茶色いウェーブ髪は重力で下に流れ、黄緑色の瞳は真っ直ぐに二人を見つめている。




「終わっていた…?」



思わず閉じてしまった桃色の瞳を開け、大鎌を持つ女性は聞き返す。



左腕で抱えている茶色い髪の少年は、銃声のショックで気絶してしまっていた。




「あなただって、薄々は感じていたんだよね、セズリカ?この戦いの勝敗なんか“彼ら”にとっては、どうだっていい。大事なのは…」



「ルティーナ・プルリエ…それを呼び出す過程…か。」



セズリカと呼ばれた死神は、全てを理解したかのように低い声で呟いたのだった…。











大鎌の柄は、赤髪の少年の鳩尾を数ミリの狂いもなく直撃していた。




「うっ………兄…貴…。」



「すまない…リアゼ。私にはまだ…やるべきことがあるのだよ。」



トサッ…と自分に倒れかかってきた少年…リアゼの体を支え、“兄貴”と呼ばれた青年はふうとため息をついた。



緑に近い青髪が微かに揺れ、オレンジ色の瞳はどこか遠くを見ていた。




「終わっていたんだな…全ては。早く気づくべきだった…。」



リアゼの体を雲の地面にそっと横たわらせると、青年死神は足早にその場を立ち去ったのだった…。










「大人しくしている方が身のためですよ…。」



「………っ。はは…一本取られちまったか…。」



首筋に三叉槍を突きつけられ、黄色髪の死神は苦笑していた。




「…ラトラ!?どうして…?」



「この程度で負けるようでは、アイヌダの名に恥じますからね。それより…イリア・ザルメス。彼をどうすべきですか?」



「………仲間なんだよ、シークは。だから…お願いっ!」



イリアと呼ばれた桃色のツインテール髪を持つ少女は、嘆願するように琥珀色の瞳を潤ませた。



ラトラというらしい悪魔は、そうですか…と返すと三叉槍を持つ手をスッ…と下ろした。




「ふう…まさか嬢ちゃんに助けられる日が来るとはな。考えもしなかったぜ…。」



身動き可能になった黄色髪の死神…シークは、ハハッといつものように豪快に笑うと、あっという間にどこかへ飛び去っていった…。









「信じたくなかった…けれど、これが私とあなたの現実なんですね。」



ルティーナ・プルリエは、自分に言い聞かせるように呟いた。



鮮やかな紫色の瞳は、真っ直ぐに目の前の死神を見つめている。




「そうさ…ルティーナ。夢の時間はもう“あの時”に終わったんだ…。そして、逃れられない現実がここにある。」



黒いフードで顔を覆い隠した死神は、補足するように彼女に言った。




「あの時…?」



ルティーナの隣に侍立しているエマ・プルリエが尋ねる。




「僕が消滅した時さ、エマ・プルリエ。」



そう言って、死神はフードをとる。



茶色い前髪が、バサッと落ち死神の鼻までを覆う。




「………!?君はまさか…」



「ファイド・クリック…。かつて、そんな名前で呼ばれていた死神さ。」



目を丸くしているエマに、青い翼を広げたその死神はニッと微笑みかけた。




「それにしても…意外だったよ、ルティーナ。君は…難聴じゃなかったのかな?」



「…天界は、全ての機能を増長させる。私の耳がなぜ今は聞こえているのか…それはあなたがよく知っているはずです。」



「ああ…そういえば、そうだったね。今の僕としての生活が長すぎて忘れていたよ。」



今の僕という言葉に、エマは怪訝そうに眉を潜めた。




「…どういう意味さ?君はファイド・クリック…姉さんの恋人で、遥か昔に消滅したはずなんじゃ…?」



「さあね?これ以上の答えを知りたければ…力ずくで言わせてごらんよ。」



ファイドはそう挑戦的に言うと、シュッとルティーナの目前に移動した。




「あっ…」



「さよなら、ルティーナ。美しい恋人よ。」



ヒュッ…と大鎌の刃がルティーナの額に振り下ろされる。




「させない!!」



ガチッ!



寸手のところで、エマの大鎌がそれを防ぐ。




「エマ…!」



「姉さん…逃げて!自分がここは食い止めておくから…!」



カンッ!



短い鍔迫り合いの後、エマの大鎌がファイドの大鎌を弾き返す。




「やるね、エマ。」



ファイドは、一旦離れ態勢を整え直す。




「だけど…エマ…」



「早く!」



「………わかったわ。」



ルティーナはくるりと踵を返し、タッと走り出す。



だが、




「きゃあ!?」



「姉さん…!」



待ち構えていたらしい死神に、左腕をがっしりと掴まれ身動きを封じられてしまった。




「君の声…フィル・ティディオ…?」



「やあ、エマか。久しぶりだね。」



フィルと呼ばれた死神は、ルティーナを右腕に抱いたまま微笑んで言葉を返した。




「……っ…離して…」



「離したら逃げちゃうから、それはできないな。」



ルティーナはジタバタもがくが、ビクともしなかった。




「フィル…機転を利かしてくれたのは誉めたいところだけれど、彼女は僕の獲物だ。君は妹の方の相手をしてくれ。」



「ふふ…仰せのままに。」



「あっ…。」



フィルはファイドの命令を聞き、ルティーナを離す。



ルティーナは面食らったような顔をして、フラフラと後ずさった。




「さて…と。」



フィルはエマに視線を移し、瞬時に彼女の後ろに移動する。




「後ろ…!?」



「大鎌よ、悲しさを歌え…プレリュード!」



「やあっ!?」



フィルの大鎌から吹き出した濁流は、エマを水の渦の中に包み込む。




「エマ…!」



「他人の心配してる暇は無いよ、ルティーナ。」



不意に前方にファイドの声を聞き、ルティーナはハッと気づき身構える。



しかし、反応するのが少し遅かった。




「…っ……やっ…」



ドスッという鋭い音と共に、局所から全身に広がる激痛。



彼女の腹部には、ファイドの大鎌の刃が深々と突き刺さっていたのである。




「ファイ…ド…。」



ドサッとルティーナの体が、雲の地面に崩れ落ちる。



傷口からは多量の鮮血が流れ、それは白い雲を赤く染め上げていく。




「ルティーナ…安らかに眠るといいよ。」



ファイドは、ポケットからバラの花を一本取り出すと、ルティーナの背中の上にそっと置いた。




「そっちはどうだい、フィル?」



「ふふ…こっちも終わり…」



バシュ!!



フィルの言葉を遮るように、エマを覆う水が周りに飛び散った。



そして、




「なんとか間に合って…もねえか。」



エマを両手で抱いたシークが現れた。




「ごほっ…!来るの…遅いよ…シーク…。」



「おう…悪ぃな。こっちもいろいろあったもんでな。」



シークは、エマを雲の地面に座らせると、大鎌を胸の前に構えた。



「姫を守るナイトの登場だね。いいさ…二人まとめて相手してあげるよ。」



「へっ…ナイトなんて柄じゃねえな。こいつが居ねえと、ちっとばかり物足りねえってだけだぜ、俺の理由は。」



フィルとシークは同時に動く。



瞬時にお互いの目前に移動したかと思うと、二つの大鎌は空中で激しい火花を散らし始めた。




「シーク…。」



「…つまらない。」



「えっ?」



ポツリと言葉を漏らしたファイドに、エマは視線を移す。




「ルティーナ・プルリエ…天界の予言者とはいえ、所詮はただの人間だったのか…?」



「………!!姉さん…?」



まだ呼吸が荒いエマの瞳に映ったのは、血まみれで倒れているルティーナの姿だった。



長い黒髪で顔は覆われ表情は窺えない。




「姉さん…まさか…?」



「ああ…気づいたのか、エマ?だが、もう遅いよ。ルティーナは…死んだ。」



「死ん…だ…?」



エマは金槌で打ちつけられたような衝撃を頭に感じた。



まるで金縛りに遭ったかのように、体もそして心も停止する。




「死んだ…姉さんが…。天界の予言者…ルティーナ・プルリエが……嘘………だ………。」



「なんだか物足りない気分だよ、僕は。だから…君も消してやるよ、エマ。」



ファイドは大鎌の矛先を呆然としているエマに向けた。




「エマ!!」



「よそ見してる暇は無いよ?」



「ちっ…!!」



シークは、エマを助けに行こうと高度を下げたがフィルが行く手を遮った。




「行きたいなら、私を倒してからにしてほしいな。」



「くっ…エマー!!」



シークの必死の叫びも、エマの耳には届かない。




「さよなら、エマ・プルリエ。」



「姉さん………。」



ファイドの大鎌の刃が、次はエマを貫く…!



かと思われたが。




「させない!!」



カンッ!



直前で、攻撃を弾いた者が居た。




「………っ!」



予想外の敵に、ファイドは少しだけたじろぎ一旦距離を置く。




「エマ!今は…戦いに集中しなきゃ!!」



エマの両肩を掴み、叱咤激励したのはイリアだった。



いつもの彼女に無く、表情は険しく本気で怒っているように見えた。




「イリア・ザルメス…か。」



ファイドは悔しげに、ギリッ…と唇の端を噛む。




「イリ…ア…?」



「下がっててねっ、エマ!」



イリアは、エマを引きずるようにして下がらせると、ファイドに向き直った。




「エマを悲しませる者は…イリアちゃんが許さないっ。…本気でやるからね?」



凄みを利かせて言うと、イリアは二本の大鎌を両手に構えた。




「本気…だと?笑わせてくれるな、イリア・ザルメス。君が僕に勝てるとでも考えているのか?」



「やってみなきゃ…わかんないよっ!!」



言葉を返すと同時に、イリアは大きく翼を広げ、ファイドの前に動く。



ファイドは、慌てず余裕の表情で身構えた。




「やあっ!!」



ガキッ!



イリアの二本の大鎌が、ファイドの大鎌と擦れ合う。




「…なかなか重たい攻撃だね。だけど…っ!?」



カンッ!



短い鍔競り合いの後、イリアの鎌がファイドの鎌を遠くへ弾き飛ばす。



大鎌はポテッ…と音を立てて、遥か離れた雲の上に落ちた。




「やるな…嬢ちゃん。」



視線はフィルから逸らさずに、シークがほうと息を漏らした。




「どう…?これがあたしの本気だよっ。」



見下すような表情で言うと、イリアは二本の大鎌の刃を重ね合わせる。



そして、




「二連牙!!」



そのまま素早く振り下ろす。




「ミトゥ!シス!」



「はーい、フィル様!」



「…はい!」



ガツッ!!



フィルの命を受け、イリアの攻撃を矛で受け止めたのは、ミトゥとシス。



左はミトゥ、右はシスが請け負っていた。




「………フィルの手下か。」



ファイドは、何気なく呟きその場を二人に任せるかのように、フッと後方に移動する。




「後斬り!!」



「ふふっ…面白い攻撃だね、シーク・ルスタリィ。」



カンッ!



ガガッ!!



空中では、少しの油断も許されない限界のバトルが展開中だった。




「そこ…どいてよっ!イリアちゃんの邪魔したら…」



「どくわけないじゃんか。…ダイヤル0、雷撃!!」



シスが鉾のダイヤルを回すと、辺り構わずゴロゴロと雷が轟き、




「行っちゃってー、毒蛾ちゃん!!」



ミトゥが鉾を振ると、百羽近い数の蛾が出現しイリアに向かって行った。




「……っ…きゃっ!?」



雷は全て避けたが、不規則な動きをする蛾達は避けることができなかった。




「…イリア!」



叫び声でハッと我に返り、エマは急いで舞を始める。



…が、蛾がイリアの体を侵略するスピードには到底間に合いそうもない。




「誰か…助け…て………。」



「イリアー!!」



「………断末魔の豪風!」



エマの声に混ざって、違う声が聞こえた。



その瞬間、竜巻のゆうな風が出現し、イリアを取り巻いていた蛾を全て巻き上げてしまった。




トサッ…と、イリアの体が雲の地面に落ちる。




「…なんとか間に合ったか。」



「アルフ…!」



エマの視線の先に居たのはアルフだった。



右手に大鎌を携え、瞬時にシュッ…とエマの隣に移動してきた。




「状況は…最悪のようだな。」



「アルフレッド・フィアラ…君か。救った恩を仇で返すつもりなのか?」



「ファイド・クリック…。」



アルフの視線とファイドの視線が重なった。



二人とも敵対しているような、厳しい目つきをしている。




「なら、君も消してあげるよ。…ルティーナ・プルリエやメルディアン・イーグルのように儚く散るといい。」



「………。」



アルフはファイドを睨み、素早い移動でファイドに斬りかかる。




ガキッ!



ファイドは、にやにやと笑いながら軽々と攻撃を受け止めた。




「命を…何だと思っている?」



「命?さあ、わからないな。君や僕のようになかなか消滅しない存在から見たら、命なんて大したものじゃないだろ?」



「…ふざけるな!!」



ガンッ!




「………うっ!?」



アルフの大鎌が、ファイドの大鎌を叩き落とす。



アルフは、ファイドの眉間に刃の先を突きつけた。




「アルフ…。」



「ファイド様は忙しいみたいだからー、また私と遊ぼっ、エーマ。」



「舞女…今度こそ消してやる。」



「………っ!?」



息つく暇なく、今度はエマの前にミトゥとシスが立ちはだかる。




「行っちゃってー、毒へーびちゃん!」



「ダイヤル壱、氷槍ひょうそう!」



無数の黒蛇と、何十本ものつららがエマに猛スピードで向かっていく。




「花鳥風月、幻惑の妖桜!」



エマは舞で対抗する。



桃色の桜の花びらが辺り一面に舞い、毒蛇達は狂ったように闇雲に暴れ出した。



また、つららは花びらに当たると溶けていくように消えた。




「やるねー、エマ!痺れちゃいそー。」



「ちっ…今度はこれだ!ダイヤル弐…炎輪!」



ミトゥは目を輝かせて賞賛し、シスは鉾のダイヤルを再び回す。



炎の渦が空中から出現し、ゴウウウ…とエマを囲む。




「花鳥風月…狂気終鳥歌。」



エマは先ほどとは違う舞で応戦した。



白い鳥が何十羽も出現し、それは餌を食べるように炎を啄んでいった。




「……ったた。エマ…アルフ…?」



凄まじい音を頭上に感じ、イリアが目を覚ます。



上半身だけ起こし見上げると、アルフがファイドに向けて大鎌を振り下ろしているところが見えた。



と、その時だ。




『もう…やめて。』



女性のか細い声が辺り一帯に響き渡る。




「………っ!?」



声に驚き、アルフは寸前でピタリと手を止めた。




「この声は…」



「ルティーナ・プルリエ…。」



シークとフィルは、お互いに距離を置き一気に決めようとしていたところだった。



が、彼らも声に反応し、戦いを中断する。




「姉…さん…?」



「ルティーナさん?」



エマとイリアが声の方向…ルティーナの遺体を見つめると、その体からはオレンジ色の光が放たれているのだった。



そして、




『もう…やめて、こんな無益な戦いは…。』



“死んだ”はずのルティーナが、むくりと起き上がった。




「ルティーナ・プルリエ…!?」



『淡い夢終わり近付き、悲しみが襲う。けど今負けたくなくて、歌う真実の歌。

誰か助けるためなら、この命かけて。あなたにも目を覚ましてほしいから、私は歌い続ける』



ルティーナは歌った。




「この声は…」



「ルティーナ・プルリエ…。」



シークとフィルは、お互いに距離を置き一気に決めようとしていたところだった。



が、彼らも声に反応し、戦いを中断する。




「姉…さん…?」



「ルティーナさん?」



エマとイリアが声の方向…ルティーナの遺体を見つめると、その体からはオレンジ色の光が放たれているのだった。



そして、




『もう…やめて、こんな無益な戦いは…。』



“死んだ”はずのルティーナが、むくりと起き上がった。




「ルティーナ・プルリエ…!?」



『淡い夢終わり近付き、悲しみが襲う。けど今負けたくなくて、歌う真実の歌。誰か助けるためなら、この命かけて。あなたにも目を覚ましてほしいから、私は歌い続ける』



ルティーナは歌った。



優しく…悲しく…儚く…美しく…。



誰もが聞きほれてしまう、レクイエムの時と同じ歌声。




『さよなら…。』



歌い終えると、ルティーナはそう一言だけ呟き…




「きゃっ!?」



「おわっ!?」



「くっ…!?」



「ううっ…!?」



白い光に包まれ、その場に居た全員の姿が消えた。










「………うっ…てぇ…。」



リアゼは腹部を左手で押さえながら、やっとのことで上半身だけ起こした。



意識はぼんやりしており、体は鉛のように重い。




「俺、兄貴を消そうとしたんだっけ………最低だよな。」



リアゼは、ヘヘッと自嘲気味に笑うと辺りを見回した。


近くに何人かの死神が倒れているのが見えた。




「お、おい…おまえら、大丈夫かよ…?」



倒れている全員に聞こえるように、大声で問いかけるリアゼ。




「いったた…。」



「………っ。」



起き上がった二人の死神、それはピンクの髪を持つ少女と、緑に近い青髪を持つ青年だった。




「ピンク娘に兄貴…!?」



二人の顔を見て、リアゼは信じがたいことのように目を見開いた。




「ふえっ…?リアゼ…?」



「………。どうやら…強い力であの場から弾き飛ばされたようだな。」



イリアは目をこすりながら起き上がり、アルフは冷静に考察していた。




「じゃあ、あとの二人は…もしかして…」



「…っ…ここぁ…どこだ…?」



「痛たた…災難だよ、全く…。」



リアゼの予想通り、目を覚ましたあとの二人の死神とは、白い長髪を持つ女性と赤髪の男性だった。




「シーク…エマ…。」



「んあ…?リアゼじゃねえか。」



「君…こんなところで何してんのさ?…まあ、人のこと言えないけど。」



シークは寝ぼけ眼で言って、エマは小首を傾げていた。




「ちょっと、あんた!どこ、ほっつき歩いてたのっ!?こっちは、とーっても大変だったんだからねっ!」



イリアは立ち上がると、すぐにリアゼに詰め寄った。




「お、俺は…その…」



「そういえば…シークもさっき来たばっかだっけ?…どこに消えてたのさ?」



エマは冷たい視線をシークに送った。



いや…それはだな…と、シークもややたじろぐ。




「…落ち着け、エマ、イリア。今はそんなことを追求している場合では…」



「アルフは黙ってて!」


「君は黙ってな。」



「………。」



諭そうとしたアルフは、二人に睨まれ口を閉ざした。




「まさかあんた…あたし達を裏切って、オリジナル側に居たんじゃないでしょうねっ?」



「へっ!?いや…それには深いわけが…」



「問答無用!裏切り者は…イーリアちゃんが鉄裁するからっ!とりゃ!!」



「…のわっ!?」



ドカッ!!



イリアの強烈な足蹴りがリアゼの背中にヒットする。



リアゼは、ドタッと雲の地面に前のめりに倒れた。




「こっちも…鉄裁だね。はあっ!」



「話を聞け…って、どわっ!?」



エマはシークを一本背負いした。



シークの体はグルンと宙を舞い、少し離れた地面にトサッと落ちた。



「…ま、冗談はこのくらいにして、と。結局…フィルとその部下の二人、それから…ファイドには逃げられてしまったんだね。」



「………そういうことになるな。」



「エマ…。」



イリアが心配そうにエマを見上げる。




「あっ…大丈夫だよ、イリア。悲しむだけ悲しんだら…なんだか吹っ切れたんだ。…彼らを許しはしないけどね。」



エマは左手の拳をぎゅっと握り、右手でイリアの頭を撫でる。




「無論だ。命を弄ぶ者を許すことなど私もできない。それに…だ。欲に捕らわれていたファイド・クリックが、このまま素直に引き下がるとも思えない。」



「ファイドは、天界を崩壊させる気だ。」



五人の中の誰でもない声が、上空から聞こえた。




「えっ…?」



「痛ってえな…バカ力女が。…って、セズリカ…!」



リアゼが背中をさすりながら、声の主の名を呼ぶ。



名を呼ばれた死神…セズリカ・ミルハはストッ…と、五人の輪の中に降り立った。




「私も居るよー。」



「兄さん!みんな!」



「…ふう。振り出しに戻ってしまったようですね。」



続いて、天使…ナレミ・ビバルディ、狭間の死神…カナル・ティディオ、悪魔…ラトラ・アイヌダが降り立つ。




「天界を崩壊させるって…ええっ!?嘘でしょ…?」



「…本当だ。ファイドの右腕として仕えていた私が言うんだからな。」



驚くイリアに、淡々と答えるセズリカ。



彼女は続けた。




「私は…オリジナル側だ。けれど…今は君達と争う気は無い。むしろ、協力したいのだよ。」



「…そんな都合のいい話、信じられないね。君も…姉さんを殺したファイドの仲間なんだろ?」



エマは、敵意の視線をセズリカに向ける。




「………その件はすまなかったと思っている。ルティーナ・プルリエを殺すなんて…私は聞かされていなかった。」



「聞かされてなかった…?そんなんで許されると思って…」



「ちょっと待った!セズリカを責めるなら…俺とシークも同罪になるんだよ。セズリカは本当に知らなかったんだ…許してやってくれよ、エマ。」



今にもセズリカに突っかかりそうなエマの前に立ちはだかり、リアゼが言った。




「リアゼ…。」



「んー、セズリカは本当に協力してくれるみたいだよー。私が保障するー。」



「………わかったよ。」



ナレミにも補足され、エマは渋々ながらも引き下がった。



「それで…天界崩壊の話ですが。ファイドとかいう彼を倒せば、食い止められるのでは?」



と、ラトラ・アイヌダ。




「あの…何が何だか、僕にはよくわからないんだけど。」



話になかなか入れない様子のカナルは、右手を上げて控えめに発言する。




「とにかく…閻魔のところまで、一旦引き返すべきだな。ここで議論していても、埒が明かない。」



アルフが言って、




「さんせーい。」



「うんっ!」



「おう、戻るか。」



「…了解っす。」



「ああ、それがいいね。」



賛成多数で、とりあえず地獄に戻ることに決まったのだった…。
















「やってくれるな…エマ・プルリエ。ララバイを歌われるなんて…予期できない展開だったよ。」



暗い暗い一室。



ファイドは、悔しそうに親指の爪をギリッ…と噛んだ。




「これからどうするんですかー、ファイド様ー。」



「…天界を崩壊させる。」



ミトゥの質問に、ファイドは間髪を入れずに答えた。




「…本気なんですか?アルフ達が何か作戦立てて邪魔してくると思うんですけど。」



「本気さ、シス。アルフやエマ…彼らを筆頭とした者達が向かってきたところで、僕を止めることなどできない。」



「ふふ…最後までお供しますよ、ファイド様。」



ファイドに一礼しながら、フィルがにっこり笑って言ったのだった…。













-To be continued…-

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