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平和という名の偽善











彼らに術-すべ-などない。




自ら壊してしまった彼らに…




助かる術などあるわけは無い。




そう…全ては偽善だ。




今の天界は“平和”という名の偽善に満ちている…。




だから、私は決めた。


平和を壊すと。




それには…もう一人の私を消す必要がある。




どこに居るのかはわかっている。



後は消すだけ…。




そろそろいいかもしれない。



さて、行くとしようかな。



もう一人の自分を消滅しに行こう………。













「一体、どうなっちまってるんだよ、エマ?」



シークは、ほとほとまいったような顔で、無線機ごしのエマに聞く。



彼が居るのは、天界の中央にある広場。



そして、彼の周りには雲にうっ伏した死神達。


斬り傷やかすり傷はあるものの、全員致命傷は負っていない。




『自分に訊かれても…困るんだけど。けれど、彼らの意志以外のものもあるっていうことだけは確かだよ。』



「…んなこたぁ、わかってる。そっちも全滅…か?」



『わかってるなら、訊かないでよ。…全滅。正気な死神はゼロ。………切るよ。』



「おっ、奇遇だな…俺も切るところだったぜ。」



ピッと音がして、無線機は遮断された。




「さーて…と。新手の登場か。仕方ねえから、相手してやっけどよ…恨むんじゃねえぞ?」



無線機をしまいながら、シークはクルリと反転した。




「倒す…倒す…。」


「消えろ…偽物…。」



凄まじい殺気を放つ者達は、先ほどシークが倒したはずの無数の死神達だった。








同じ頃。


下界のある場所にある高校。




「あー…転校生を紹介しよう。ミトゥくんとシスくんだ。」



眼鏡をかけた若い先生が言って、




「ミトゥでーす。みんな、よろしくー。」



「シス。一応、言っとく。………よろしく。」



名前を呼ばれた二人の少女は、思い思いの挨拶をした。




「なっ…なっ…。」



それを見た一人の男子高校生が、目を見開き口をパクパクさせる。




「ん?どうした、カナル・ティディオ。知り合いか?」



「なっ…なんでー!?」



教師の質問には答えず、男子高校生は大声で叫んだのだった。




「ん?あっ…カナルじゃん。ま、そういうことだから、よろしく。」



「知ってる人間が居るって心強いねー。こっちでも遊ぼーね、カナル。」



カナルを見つめ、ミトゥはニコニコ笑いながら、シスはぶっきらぼうに返したのだった。





その日の放課後。




「…なんで、二人とも下界に居るの?それも…人間の女子高生として。」



カナルは、周りの同級生に聞こえないように、小声でミトゥとシスに訊いた。




「なーんで、あんたに答えなきゃいけないわけ?別にいいじゃん。」



シスは、ふんと鼻を鳴らしミトゥを帰ろうと促す。



しかし、ミトゥはそのくらいは答えてもいいんじゃないかなとその場に留まった。




「別に話す義理ないじゃんか、ミトゥ。さっさと戻って計画立てようよ。」



「うん…それもそうなんだけどー。えーっとー、主様は倒されちゃったけどー、また何年後にか復活するからー、私達がそれまでにスパイしとこうと思ったのー。」



「…スパイ?」



カナルの問い返しに、スパイだよーとミトゥが繰り返す。




「ってことでー、これからよろしく、カナルー。」



「あ…よろしく。」



ぺこりとお辞儀したミトゥにつられ、カナルも礼をした。



まだ帰っていない同級生達が、何やってんだあいつらという目で三人を見ている。




「ほら、もう行くよ、ミトゥ!」



「うん。またねー、カナルー。」



シスは、笑顔で手を振るミトゥを連れて、スタスタと教室を出て行った。




「………って、なんで普通に見送ってんの、僕!?」



二人が去ってから数秒後、カナルは自分で自分に突っ込みを入れた。




「なに、一人漫才やってんだ、あいつ?」



リーが怪訝そうな顔で、遠巻きに見ていた。







天界外れにある浄土。




「どうかしたの、アルちゃん?」



不意に後ろを振り返ったアルフに、メントノフが声をかける。




「………誰かの叫びが聞こえたような気がして。」



「叫び?叫びなら、さっきから周りでずっと聞こえてるよ?」



メントノフの言葉通り、彼らの周りではウォーとかタアッとかいう声がひっきりなしに聞こえている。



浄土は、修行の場であり、決して少なくは無い人数の天界人が各々鍛えているのだった。




「…下界から聞こえてきたと思いますが。」



「そう?アルちゃん、耳いいんだね!周りがうるさくて、僕には全く聞こえなかったよ。」



修行中の面々が、ちらとメントノフを見た。




「それよりさ…アルちゃん、あっちに戻っちゃうって本当?」



メントノフは悲しげに眉を下げて尋ねた。




「はい。…閻魔からの呼び出しで急遽戻ることになりました。」



「そっかぁ…閻魔様の呼び出しじゃ、しょうがないね…。また…帰ってくるの?」



「…わかりません。しかし、あちらにずっと居る気は無いのは確かです。私には…浄土の方が合っているので。」



「絶対…絶対、戻ってきてね、アルちゃん!」



メントノフが懇願するように言って、




「…それでは、師匠もお元気で。」



浄土の修行者とメントノフの見送りを受けながら、アルフは天界の中央へと飛び立つのだった………。









コルクドゥル区一番街。




「なんか…退屈ー!」



ザシュ!ズザッ!



大量のターゲットを大鎌で斬りながら、イリアが言った。




「退屈って…仕事の最中に言うなよな。」



ピシッ!シュパッ!!



小鎌で、イリアとは違うターゲットを斬り裂きながら、リアゼが突っ込む。




「うわあああ…!?」



「だ、だれか…!」



人々は傷付いた手足を無理矢理動かし、何とか逃げようともがく。


しかし、二人の死神の鎌からは逃げ切るはできず、次々と地面へと倒れていった。



そこでは、民間二グループのケンカが最中であった。



平和に見える下界でも、たまにこのような争いが起きることがあるのだった。




「うらあぁぁ!さっさと退けや!」



「何よ、あんた達こそ退きなさいよ!」



争いのリーダーシップをとっている男女が言い合った。




「もーう!なーんで、あたしとリアゼが同じ仕事場なのっ!?なーんでアルフは居なくなっちゃったのっ!」



「知るかよ!俺だってピンク娘と一緒に仕事なんて…やりたかねえし。」



「アルフと仕事したいー!た・い・くつー!!」



「うるせーな…少しは黙ってろっつの、ピンク娘!」



地上の争いに感化されたかのように、イリアとリアゼもケンカを始めてしまったのだった………。




「やはり…平和とは偽善。実にくだらない…。」



それを空高くから見ていた何者かがぽつりと呟いた。











ウォンウォンと犬の鳴く声が、家の中まで響いてきている。




「どうしたのかしら、アル。今日はいつもとは違う鳴き方よ。」



「私…見てくるね。」



十代後半に見える少女が言って、母親らしき女性がお願いねと言葉を返した。



少女は、玄関まで駆けていき、ドアを開け庭に出た。



長年飼っているゴールデンリトリバーが少女に擦りより、嬉しそうにクゥンと甘え鳴きした。




「どうしたの…アル?あっ…。」



犬の吠えている対象に目を移し、少女は小さく言葉を漏らした。



それは、全身に黒いフードコートを纏い、背中に黒い翼を携えた…死神。



その死神が携えている大鎌に見覚えがあった。




「もしかして…アルフ?」



少女は問いかけ、死神に近付いていく。



少し経って、自分が話し掛けられたことに気付いた死神は、ゆっくりと振り返った。



フードをとったその死神の髪は緑に近い青色。



しかし…




「アルフ…じゃない。誰…?」



少女が知っている“アルフ”とは違い、瞳は桃色だった。


よく見れば、アルフよりも髪が少し長い。




「…私はセズリカ・ミルハ。…アルフレッド・フィアラを知っているのか?」



セズリカというらしい死神は、抑揚のない声で聞き返した。




「うん…。私は、シャンテ。昔、アルフに助けてもらったの。アル…この犬も、アルフから貰ったの。」



シャンテと名乗る少女は、アルという犬の頭を撫でながら返した。



アルは、犬歯をむき出しにし、ウウッ…とセズリカに向かって威嚇をしている。




「人間を助けているのか…愚かな死神だ。」



「セズリカさんは、アルフの友達…?兄弟…?」



「赤の他人だ。だが…無関係ではない。」



セズリカはそれだけ言うと、フードを被り翼を大きく広げた。




「あっ…待って。どういうこと…」



「人間。関わるな…死にたくないならばな。」



引き止めようとするシャンテに冷たく言い残し、セズリカは空高くへと飛び去っていった。




「なんで…あんなにアルフと似てるんだろう…。それに…」



なんでアルフを探してるんだろうねと、シャンテはアルを見つめながら自問自答するように言ったのだった…。













トントンと、庵の戸を叩く音が千爺の耳に入ってきた。



今時珍しい、檜で作られた純和風の戸だ。




「誰じゃ?戸なら開いておる。入って来るがよい。」



千爺はそう大声で促したが、戸を叩く者は入って来ようとせず、同じ調子で叩き続けている。




「全く…トントントントンうるさいのう。」



お茶飲みタイムを邪魔され、千爺は少々怒り調査で呟き玄関まで歩いていく。



そして、




「新聞ならお断りじゃ。いたずらなら、許さないぞい。」



ぶつぶつ言いながら、戸を開ける。




すると、そこにいたのは…。
















「な、何だって!?それは本当か、嬢ちゃん!」



シークは体を仰け反らせ、驚いている様子を表現した。




「あたし、嘘は言わない主義だもんっ!信じたくないけど…本当に本当に…千爺ちゃんがアルフに斬られたのっ!」



イリアは、瞼に浮かべた涙を見られないように、うつむいて言った。



隠しきれない悲しみが、彼女の方を微かに震わせている。




「全く…トントントントンうるさいのう。」



お茶飲みタイムを邪魔され、千爺は少々怒り調査で呟き玄関まで歩いていく。



そして、




「新聞ならお断りじゃ。いたずらなら、許さないぞい。」



ぶつぶつ言いながら、戸を開ける。




すると、そこにいたのは…。
















「な、何だって!?それは本当か、嬢ちゃん!」



シークは体を仰け反らせ、驚いている様子を表現した。




「あたし、嘘は言わない主義だもんっ!信じたくないけど…本当に本当に…千爺ちゃんがアルフに斬られたのっ!」



イリアは、瞼に浮かべた涙を見られないように、うつむいて言った。



隠しきれない悲しみが、彼女の肩を微かに震わせている。




「嘘だろ…ピンク娘…。兄貴が千爺さんを…」



「本当だって言ってるでしょ!!…あたしだって、アルフがそんなことするわけないって信じたい。だけど…」



リアゼに言葉を返し、イリアは天界診療所で治療を受けている千爺の言葉を思い出す。




『わしも…信じられんが…っう…あれは…フィアラじゃった…。見間違えるわけは…無い。襲った理由は…な…ぞ…じゃが…っ。』




「襲われた本人が言っているなら、間違いねえんだろうな…。」



シークの考察にエマも同調する。




「そうだね。自分達がいくら庇ったところで、事実は変えられない。セン・フィアラを襲ったのは、アルフレッド・フィアラ…彼に違い無い…」



「私が…何か?」



不意にエマの言葉を遮る声が後方から聞こえ、その場に居た全員が振り返る。




「アル…フ…?帰ってきたの!?」



声の主は、アルフだった。



自分が疑われていることを理解し、瞳は冷たくシーク達を見つめている。




「………タイミングが悪かったようだな。私は失礼する。」



「待ちな、アルフ。…どういうことか説明してくれ。」



立ち去ろうとするアルフを、シークが引き止める。




アルフの足がピタリと止まる。




「…説明とは?」



「だから…違うなら違う。本当なら、理由を答えてくれってことだ。」



「ふっ…。」



アルフはシーク達に背中を向けたまま、微かに鼻で笑った。




「兄貴…まさか…?」



「私は…随分、信用が無いのだな。」



「あ、いや…兄貴…俺は信じたいんっすけど…千爺が…。」



罰が悪そうに顔を下げるリアゼ。




「…もういい。ここに来るまでにも、何人…何十人という天界人に疑いの目を向けられてきた。私はたった今、天界に入って来たというのに…だ。」



「アルフ…。」



「信じないなら、信じなければいいだけだ。私が千爺を斬る理由など…無いがな。」



「アルフ、待って!」



追いかけてくるイリアの手を振り払い、アルフは下界へと飛び去っていった。




「…鎌かけが徒になったみたいだね、シーク。」



皮肉調でエマは言って、アルフを追いかけるように下界へと飛んで行った。




「…兄貴が言うなら、嘘じゃないと思うっす。俺達…ひどいことを…」



「アルフ…。あたし達…謝らなきゃね…。」



うなだれるイリアとリアゼをよそに、シークは一人ぼんやりと遠くを見つめていた。











事件から二日後、天界広場。




「あ…兄貴…?」



自分より先にくつろいでいた死神に、リアゼは声をかけた。




「………。」



アルフと思われる背格好の死神は、言葉を返すことも振り向くこともしない。



ただ、上をじっと眺めているだけだった。



フードのせいで、表情は窺えない。




「兄貴…少しでも疑った俺達と話したくないなら、せめて聞くだけ聞いてほしいっす。この前は…すみませんでした!」



リアゼは心から反省しているようで、目の前に居る死神に深々と頭を下げた。




「兄貴が千爺を襲うわけないのに…俺達…。」



「………。」



「謝っても謝りきれないっすけど…本当にすまなかったっす。」



「………悪いが、私は君の謝りたい相手…“兄貴”ではない。」



死神はそこで初めて振り返った。



フードをとった死神の髪は、緑に近い青色。



そして…瞳は澄んだ桃色。




「へっ?じゃあ…あんた、誰だよ?なんで…兄貴に似てるんだよ…?まさか、千爺を襲ったのは…」



「まさかも何も…セン・フィアラを襲ったのは私…セズリカ・ミルハだ。」



セズリカは、少し顔を上げて威圧的な姿勢をとったまま、リアゼに歩み寄っていく。




「なっ…自分がどれだけのことをやったかわかってんのかよ、おまえ!」



「“おまえ”じゃなくて、“セズリカ”だと言っている。」



「名前なんかどうでもいい!なんで…千爺を…。」



今にも噛みつきそうな勢いで歯を食いしばるリアゼに、セズリカはただ冷たい視線を向けている。




「…出来損ないだからだ。懺魔が消えた今、出来損ないのコピーを消したところで問題にはならない。」



「コピー…?出来損ない…?なんだよ、それ…。」



「知らないのか?消滅試合が各地で起きていることを。リアゼク・ギルド…君自身は特別なコピーであることを。オリジナルが消え、他にコピーが居ない今、君はオリジナルの資格を得ているのだよ。」



「特別なコピー…?オリジナルの資格…?」



リアゼは全く意味がわからないと、髪をくしゃくしゃと掻いた。




「知りたいなら教えよう。だが、一つ条件がある。」



「条件…?」



「簡単なことだ。私の…いや、私達と組まないか?テアッド・ホルムスクのコピー…リアゼクよ。」



そう誘いかけて、セズリカは不敵な笑みを浮かべるのだった。















混沌の糸…



それは真っ直ぐな糸に複雑に絡み、やがて侵略していく…



誰が絡ませ…



誰が解くのか…?









-To be continued…-

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