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9 英雄



 執務中のハインリヒのもとへ、一人の魔術師が現れた。


「ハインリヒ様、何か御用ですか?」

「頼みたいことがあってな。」

 親し気に話しかけてきた魔術師に、一度だけ目をよこしてから、書類に目を戻すハインリヒ。魔術師は、とりあえず部屋の隅にあるソファに腰を掛けた。

 本来であれば、2人きりで話すことなどないほどの身分差のある2人だが、同じ学園に通い友人となった2人は、誰もいないときは身分を忘れ友人として過ごす。


「待たせたな。」

「忙しそうですね。土地の問題もあるので仕方がないとは思いますが。」

「その話なんだが、それを解決するために聖女召喚が行われたことは知っているか?」

「もちろん。でも、失敗したんですよね?召喚されたのは聖女ではなかったと聞きました。」

「その通りだ。召喚されたのは、力があるのかはわからないが・・・男だった。」

「そうですか。」

「そこで、お前に頼みがあるんだ、マリア。」

「ハインリヒ様、その名前は捨てました。」

「悪いな、今回はその捨てた名前、存在で、頼みたいことがあるんだ。」

「・・・国にかかわることなんですね?」

「あぁ。」

「わかりました。」

 魔術師は立ち上がって、淑女の礼を取った。


「男爵家のマリアとして、承ります。」

「頼んだぞ。」

 こうしてマリアにセイトの護衛の任が与えられた。




「はじめまして、セイト様!私はマリアと申します。これからよろしくお願いいたしますね!」

 元気よくそう挨拶をしたのは、護衛魔術師のマリアだ。茶色の髪と瞳の可愛らしい顔立ちをした少女。これを待っていた!

 出てくるやつ、美形美形美形・・・全部男ばっかで・・・いや、美少女もいたけどさ、ヘレーナは忙しそうだし、あんまり話ができないんだよ。

 でも、マリアは違う!俺の護衛だからな!ずっと一緒にいられる少女だ!


「よろしくな、マリア!かたっ苦しいことはなしにして、俺のことはセイトって呼び捨てで呼んでくれ。」

「え・・・呼び捨てですか・・・君付けでは駄目ですか?私、友人はみんな様付で・・・何かつけないと落ち着かないのです。」

 セイト君か・・・マスコットキャラみたいな名前だけど・・・君付けもなかなかいいな!


「採用!なら、俺もマリアちゃん・・・やっぱ気持ち悪いな。俺はマリアって呼ぶよ。」

「どうぞご自由に!」

「とりあえず、俺の隣に座って。」

「え・・・でも。」

 ちらっと、アムレットを見るマリアに、俺は気にするなと言って、マリアを横に座らせる。これこれ!隣並んで座るって、いいよな!

 俺が喜んでいると、唐突にソファが揺れて、俺はバランスを崩し後ろに倒れる。すると、背後から誰かに抱きしめられた。


「おい。」

「あははっ!駄目だよセイト、倒れるならあっちにしないと。それとも、僕のことが好きなのかな?セ・イ・ト・・・ぷふっ!」

「くそっ!俺をまたからかいやがって!覚えていろよ、ハーニス!」

「悪い気はしないだろ?ほら、僕の白い手を見てごらん?目の前の子とそう変わらないだろう?」

 確かに、白くてきれいな手だ。手入れでもしているのか?


「潜入とかするとき、女装した方が相手を油断させることができていいんだよね~」

「潜入なんかするのか。ずっと隠れて護衛するだけかと思った。」

「まぁ、ご主人さま・・・セイトが望めば何でもするよ。夜の添い寝でも、その先でもね。」

 耳に息を吹きかけられ、俺は顔が熱くなった。

 こいつ、俺をどこまでからかえば気が済むんだ!


「わわわっ!2人共仲がよろしいのですね。あ、もしかして。」

「一晩を共にした仲だよ。もちろん、今夜もいたっ!」

 俺は我慢の限界がきて、ハーニスの頭に拳骨を落とした。


「酷いよ、セイト・・・本当のことじゃないか。」

 涙目をしながら、口元に笑みを浮かべるハーニス。全く懲りていない様子だ。


「マリア、勘違いするな。こいつは影だから、俺が寝ている間も一緒なだけだ。俺にそういう趣味はない。」

「そうですか。別に、私はセイト様にどのような性癖があろうとかまいはしませんが。」

「・・・」

 それって、俺のことには興味ないってことか。いや、今あいさつしたばかりなんだ。興味を持っていてもおかしいだろ。これから興味を持ってもらえばいいんだ!


「ところで、セイト君・・・これは、魔法の練習ですか?」

「あぁ。俺にはなんか素養がないらしくて・・・でも、努力すれば魔法を使えるって聞いたから、今火の魔法を使えるように訓練しているんだ。」

「・・・ヘレーナ様と同じですね。」

「あー・・・まぁ、ヘレーナに教えてもらったんだ。努力すればできるなんて思わなかったから、もし使えるようになったらヘレーナのおかげだな!」

 魔法とか、才能ないと無理だと思ったもんな。


「ヘレーナ様が・・・そうですか。」

「・・・?」

 考え込むマリアを不思議に思ってみていれば、その視線に気づいたマリアに苦笑いをされた。え、なんで?


「ヘレーナ様には、考えがあるようですね。ただ、一言と申し上げますと・・・ヘレーナ様は、凡人では測れない天才ですので、そのことは心にとめておいてください。」

「・・・え?」

 いや、確かにヘレーナは頭よさそうだし、綺麗だし・・・天才っぽい部分はありそうだけど・・・魔法に対して天才というわけではによな?落ちこぼれって言ってたもんな?


 俺は冷や汗を流す。


「あの、マリア・・・ヘレーナは、どんな天才なんだ?」

「・・・この国の土地が、やせ細っているのは知っていますよね?」

「あぁ。確か禁書がどうとか。」

「はい。とあるお方が、禁書を発動させたせいで、国の土地に含まれる魔力が減少してしまったのです。そして、ヘレーナさまは、禁書が発動されるとともに真っ先に行動され、誰もわからなかった禁書を使ったお方を突き止め、禁書を止めました。」

「・・・英雄じゃないか。」

 だから、権力があるんだと、俺は今までのヘレーナの行動に納得する。


「あとから聞いた話ですが、ヘレーナ様は禁書が発動される前から、対策を取っていたようです。先見の明があったのでしょうね。・・・まぁ、禁書を発動させたのは、ヘレーナ様の母君でしたので、だからこそわかっていた、という風にも捉えられますが。」

「ヘレーナのお母さんが、禁書を発動させたのか?」

「はい。ですから、ヘレーナ様のお立場は少し微妙なのです。英雄でもあり、大罪人の娘でもある・・・ですが、お2人の縁は完全に切れておりますので、表立って批判するものはいません。これだけでも、ヘレーナ様のすばらしさが分かりますが・・・」

「そこからは俺が話しましょう。」

 さらに話そうとするマリアを止めて、口をはさむアムレット。


「実は、その禁書をヘレーナ様がお止めする現場に、俺はいました。」

「そうだったのですか。なら、後で聞いた話よりも正確なお話ができますね。私にもお聞かせください。」

「もちろん。まず、禁書について具体的なお話をしましょう。禁書が発動すると、白い玉が生み出されます。その白い玉は、魔力を一定の量吸うのです。」

「魔力を吸う?・・・だから、土地の魔力が少なくなったのか。そういえば、そんなこと言っていたな・・・」

 エルズムがさらっと言っていたことを思い出す。


「はい。そして、その玉は成長し、一度に吸う魔力の量を増やしていきます。そして、吸われるのが人間の場合、魔力が足りなければ命まで吸われるというものでした。」

「・・・こわっ!?魔力吸って終わりじゃねーのかよ!」

 俺が想像したのは、魔力を吸われて倒れる人々、という図だった。もちろん、命を落としてはいない。ただ、魔力がなくなって気絶しているとかそんなもんだと。


 アムレットの話によると、玉は剣の攻撃がほとんど効かず、剣で戦うのなら弾き飛ばすしかなかったようだ。そして、魔法は吸収されて意味をなさない。

 なら、どうやって戦ったのか。これも、ヘレーナが隣国から、玉へ対抗する方法を持ち帰っていた。


 一つは、剣。特殊な加工がしてある剣で、所有者の魔力を問題ない程度に吸って、剣にため込むというもの。そして、いざという時、玉にこの剣を突き刺して魔力を流すと、玉の許容範囲を超える魔力を流すことができれば、玉は弾け飛ぶらしい。


「この方法で、ディー殿はヘレーナ様をお守りしながら戦っていました。そして、その肝心のヘレーナ様ですが・・・彼女こそが、禁書に生身で対抗できる人物だったのです。」

「・・・いや、それはさすがに無理だろ。」

「先ほど言ったように、玉は許容範囲以上の魔力を吸うと、破裂します。ならば、魔法にその魔力を込めればいいと、彼女は膨大な魔力を使って、玉を消し去りました。」

「・・・」

「ちなみに、俺も試しに魔力を上乗せして魔法を使うというのをやってみましたが、できませんでした。・・・この魔法の件は極秘となっていますので、他言は無用です。」

「・・・いや、それ言っても信用されないだろ。」

 ほとんどの人間が手をこまねいていた玉の対処に、2つも対処法を発見するとは。


「他言無用なのは、ヘレーナ様が通常より多くの魔力を込めた魔法で、玉を弾けさせたという事実です。なぜだかわかりますか?」

「いや?」

「ならば、知らない方がよいでしょう。話はこれで終わりです。」

「何だよそれ!最後まで話せよ!意味深なことだけ言いやがって・・・」

「俺だって、これを話すつもりはありませんでした。ですが、聖なるお方があまりにも哀れで、つい。」

「は?意味が分からねーよ!」

 俺を哀れんで話した?

 まて、俺は何でこの話をしていたんだっけ。


 思い出して、わかった。ヘレーナが天才だという話をしていたんだ。そして、ヘレーナは天才だということが分かった。それは、頭だけでなく魔法の方も。


「俺、努力して魔法が使えるようになるかな・・・」

「天才であるならば、可能でしょう。」

 どうやら、努力して魔法が使えるというヘレーナのアドバイスは、凡人には当てになりそうになかった。




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