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8 役立たず



 ヘレーナと神官たちは、一歩も譲らない。

 ヘレーナは、神殿側の勝手を批判し、神殿側は、間違ったことはしていないと主張する。どちらの意見も正しいと俺は思う。


 組織で勝手なことは許されない。しかし、一刻を争う場合は、それぞれが最適な判断をして行動するのも大切だろう。今は、国の危機なのだから。


「・・・わかりました。では、あなたの意見を聞くだけ聞きましょう、エルズム。あなたは、今後どうするべきとお考えですか?」

「先ほども申しましたが、土地に魔力を与えるための別の方法を考えるべきかと。」

「・・・そういうことではありません。セイト様を、どのように扱うつもりで?これから、セイト様は何をなさればいいのでしょうか?」

 ヘレーナは、俺のことを考えてくれていた。でも、エルズムは俺ではなく、国のことを考えていた。それは、正しいけど俺にとっては悔しいことだ。


「もちろん、セイト様のことも考えています。やはり、王城ではなく神殿に迎い入れましょう。魔法の素養がないとわかれば、風当たりは厳しいでしょう。しかし、神殿ならば。」

「聖女を語ったに偽物・・・そう言われて虐げられる未来しか見えませんわ。神殿は、特に聖女に対しての期待が高まっていましたもの。」

「それは、神殿に対する侮辱ととらえても?」

「単なる予測ですわ。とにかく、これ以上の勝手は私が許しません。セイト様への接触は、今後私を通してくださいませ。」

「・・・わかりました。ですが、早急に土地の問題については考えていただきたいものです。土地が痩せて困るのは、我々人間・・・それも民が大半なのですから。」

「参りましょうか、セイト様。」

「あ、うん。」

 ヘレーナと共に、俺は部屋へと戻った。

 俺、これからどうなるんだ?


 俺は、ヘレーナと向かい合って座る。ヘレーナの背後には、護衛のディー。俺の背後には、アムレットがいて、お茶の用意を終えたメイドが去った今、部屋にはこの4人だけだ。


「セイト様、そのようなお顔はなさらないでください。」

「だけど・・・俺は、魔法が使えなかった。てことは、魔力もないんだろ?とんだ役立たずになっちまった。」

 ヘレーナと目を合わせることが辛く、俺は視線を下へ向ける。

 すると、ヘレーナが立ち上がって俺の隣に座り、俺の固く握られた手を握った。


 嬉しいけど、それどころではない俺は、視線を下に向けたままだ。


「みな、傲慢なのですよ、セイト様。魔法が使えなければ、魔力はないだなんて・・・あの神官たちに言われたのでしょう?それは、彼らが知らないだけなのです。いいえ、思い込んでいるだけ・・・ですね。」

「どういうことだよ?」

 少しだけ顔を上げてヘレーナを見れば、彼女は微笑み返してくれた。


「魔法が使えれば、魔力があるわけではありません。魔力があるから、魔法が使えるのです。魔法が使えなかったからといって、魔力がないわけではないんですよ。」

「よくわからないけど、俺に魔力はあるのか?」

「・・・そこまでは私にもわかりません。魔力量を知るには、魔法を使える必要がありますから。」

「・・・」

 それで、魔法が使えなければ、魔力がないと勘違いされるのか。測ることができないもんな。でも、それだと魔力があるとも言えないんじゃ?


「セイト様。実は、私は魔法の使い手ではないのです。」

「・・・そういえば、そんなことを言われていたな。でも、それに何か問題があるのか?」

「そうですね、平民であれば問題はありませんでした。しかし、貴族は魔力があって当然、何かの使い手であって当然なのです。しかし、私はどの魔法の素養もなく、魔力量が少ないと思われていました。」

「それは、大変だったな。」

 絶大な権力を持っているヘレーナだと思ったが、そんな弱点があったのか。


「それでも、私は努力しました。私は手に入れたいものがあったのです。そのために、私は努力をして・・・すべての属性の初歩程度の魔法を使うことができるようになりました。素養がなくても、魔法は使えるようになります。魔法が使えるようになって、私は自分に魔力があることを知りました。」

「・・・そうだよな。できないことだって、努力すれば少しはできるようになるはず、だよな。勉強だってそうだし、運動だってそうだ・・・魔法だって。」

「そうですよ、セイト様。そして、たった一つ魔法が使えればいいのです。そうすれば、魔力を測ることは可能です。」

 そう言って、ヘレーナは人差し指を立てた。


「点火。」

 ヘレーナの人差し指にろうそくの火程度の火が現れ、消えた。


「一般的に、点火が使える程度では、魔力量がぎりぎりある程度、と思われます。そこから、ファイアーボール、ファイアーウォールなど段階を上げていき・・・つまり、使える魔法によって魔力量を測っています。ですが、それは正しくありません。」

「正しくない?」

「はい、例外は付き物ですよ。もう一度、見ていてください・・・少し離れますね。」

 立ち上がったヘレーナが、同じように人差し指を立てる。


「点火。」

 ぼうっと、今度は松明のような火が現れた。


「うわっ!?」

「わかりましたか?」

 ヘレーナは微笑んで火を消し、俺の隣へと戻ってきた。


「点火を最低限使う以上の魔力があれば、その魔力を込めることで魔法の力を強めることができます。そのことに、いまだに皆さん気づいていないのですよ。」

「・・・魔力を込めれば込めるだけ魔法の威力が上がる。なんで、そんな簡単なことに気づかないんだ?」

 これは、結構一般的なことだと思うが。異世界モノ小説好きの間ではと付くが。


「魔法を理解しているつもりなのですよ。すべてを知っていると、思うことはよした方がいいですね。私も気を付けなければ。」

「・・・そうだな。」

 知識があれば、知った気になってしまう。そういうことだろう。


 とにかく、今後俺がやることは決まった。


「ヘレーナ、魔法の練習って、何をすればいいんだ?」

「そうですね、先ほどの水晶を使ったり、魔法の知識を深めたりすることで、使えるようになるでしょう。魔法がどういったものか、知識としてとらえるのもいいですし、感覚やイメージで捉えるのもいいでしょう。人それぞれだと私は思いますよ。」

「・・・なら、俺はイメージトレーニングをしてみる。」

 妄想は得意だ!


「魔法にもいろいろありますから、どの魔法を使えるようになりたいか、考えたほうがよろしいかと。先ほどご覧になったようですし、何か目星は付いていますか?」

「そうだな・・・」

 強そうなのは火。勇者なら光のイメージだな。闇は闇で、俺の血が騒ぐし・・・風はスカートめくりとかに便利そうだな。あとは・・・水か。いざという時に飲み水に困らなそうだ。


 正直、どれでもいいな。だとしたら、バランスを考えるか。


「アムレット、お前は何かの使い手か?」

「!・・・俺ですか?風の使い手ですが・・・?」

「ハニーはどうだ?」

「え、ハニー!?」

 驚きの声を上げたのはヘレーナだ。そういえば、ヘレーナの前では初めて呼び出すな。


「僕は闇だよ。」

「やっぱりな。」

「ハニーって、影のことでしたか。」

「そうだよ。まさか、彼女かと思った?」

「はい。手が早いと驚いていたところです。」

「・・・」

 微笑みながらこういうこと言われると、居心地悪いな。もっと顔を赤くしたりとか・・・ないか。ないよな。


 俺の護衛は、風と闇か。あとは、まだ決まっていない護衛だが、決まっていないものはわからないか。


「魔術師の護衛は、水と光の使い手ですよ。」

「え、もう決まったのか?それに、水と光?」

「はい。今夜には顔合わせができるかと。彼女・・・は優秀で、2つの魔法の使い手です。貴族の中で使い手であるのは普通のことですが、2つも使えるものはそういません。」

 何か、隠されている気がするが・・・とりあえず、優秀な護衛が来てくれるのはありがたい。俺の命の安全が確保されるからな。


 それに・・・彼女ってことは、魔術師は女性だ!


「・・・それで、使いたい魔法は決まりましたか?」

「あぁ。火だ。」

 俺が火を使えるようになれば、俺の周りは全属性がそろうからな!




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