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7 初めての魔法



 聖女召喚。それは、人類の助けとなるたぐいまれなる能力を秘めた女性を召喚するという、禁術。その禁術は、現在禁書「奪いの書」として存在している。


「人類の助けとなる能力・・・か。ずいぶん曖昧なんだな。」

 確か、土地に魔力が必要で、その魔力を土地に与える人間を求めていたはずだ。別に、たぐいまれなる能力を持つ人間でなくていい、必要なのは魔力の多い人間。

 なぜ、聖女召喚をしたんだ?


「はい。ですので、セイト様の能力がどういったものなのか、それを調べる必要があります。」

 応えたのは、俺に向かい合って座る司祭、エルズムだ。

 神殿の混乱も収まったということで、俺に話していなかった説明の続きを話に来てくれたそうだ。実際助かる。

 こういう詳しい話は、護衛の2人は知らなかったからだ。


「調べる・・・とは、具体的にどういったことをするのですか?」

「そうですね。魔法の素養を調べるのなら、実際に魔法を使っていただいた方が早いでしょう。この国では、実際に魔法を使い、自分に合った魔法を見つけるのです。」

「・・・わかりました。とりあえず、魔法を教えていただけますか。」

「もちろんです。実は、準備もできていますので、今から行いましょう。」

 これで、魔法の素質が分かる。けど、聖女の条件・・・俺は男だから適用されるのかわからないが・・・たぐいまれなる能力とやらが、魔法の素養を確かめるだけでわかるだろうか?


「とにかく、やってみるしかない。」

 俺は、エルズムに連れられて、アムレットと2人演習場に連れていかれた。姿は見えないが、たぶんハーニスも一緒に来ているだろう。



 演習場にはまばらに人がいて、手から火の玉を出したり、水の壁を作っているものなどがいた。あれが魔法なのだろう。

 わくわくしてきた。やっと、異世界ファンタジーの世界に来たって感じだ!


「まずは、陛下も使う火の魔法からにしましょうか。」

 そう言って、もっていた水晶玉を俺に渡してきた。

 陛下・・・この国の王様は、火の使い手なんだな。そういえば、王様と会ってないことに気づく。普通は、王様から世界を救ってくれって頼まれるもんだよな?ま、普通とは言っても、フィクションの話だけど。


「この水晶玉は、念じるだけで魔法を使うことができます。ただ、込められる魔法は一つで、重さはあるし、かさばるものなので実践向きではありません。これは、魔法の適性を知るためだったり、魔法の使用感になれるためのものです。」

「わかりました。」

「まずは、見本を・・・」

 エルズムは、控えていた神官の一人に目配せをする。すると、その人物が俺の前に立つ。


「では、その水晶に込められている初歩の魔法、点火をお見せします。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

「・・・火種を、点火。」

 神官が立てた人差し指の先に、小さな火が現れた。


「・・・これが、魔法。」

 先ほど見た火の玉より小さく、インパクトがない魔法だ。でも、初めて間近で見た魔法に俺の胸は高鳴る。


「はい。では、彼のような火を作るイメージで、集中してみてください。」

「・・・とりあえず、イメージすればいいのか?」

 水晶を片手に、見本の通りに人差し指を立てる。この指先に火が現れる。火が現れる。この指先に、火が現れる。


「・・・」

「・・・」

「どうやら、火は合わないようですね。」

「え、でもまだ始めて3分もたっていないですけど?」

「素養があれば、すぐにできるものですから。お気を落とさず、次は光の魔法を試してみましょう。」

 手に持った水晶を別の水晶に交換されて、別の人が見本を見せてくれた。


 光の魔法、水の魔法、闇の魔法、風の魔法・・・どれも何も起こらずに終わった。


「風もダメ見たいですね。次、お願いします。」

 俺は、水晶をエルズムに返すが、エルズムの様子がおかしいことに気づいた。


「どうかしましたか?」

「・・・今のが、最後の魔法です。」

「え・・・?」

「・・・どうやら、セイト様には魔法素養がないようです。」

「・・・嘘。」

 俺に魔法の才能がない?待って、俺がここに呼ばれたのって、土地に魔力を与えるためだよな?魔力さえあればいいんだ。魔法が使えなかったとしても、魔力があれば!


「ま、魔力は?魔法が使えなかったとしても、魔力はあるかもしれないですよね?」

「魔力量を測るには、魔法が使える必要があります。おそらく、魔法が使えないというのは・・・魔力がないということかと。」

「・・・」

 魔力がないだって?


 俺は、エルズムを見た。困ったような顔をしている。その背後を見た。エルズムの背後の神官たちは、明らかに落胆していた。


 これは、まずい。

 今は、落胆しているだけだ。でも、これからそれが怒りに変わるだろう。いや、これからなんてないのかもしれない。国の役に立てないと分かってしまえば、俺の立場はない。


 たとえ、俺がたぐいまれなる能力を持っていたとしても、今のこの国が求めているのは、土地に魔力を与える、膨大な魔力の持ち主だ。


 これから楽しい日々が待っていると信じて疑っていなかった俺の足場が、崩れた気がした。これから待つ未来が、不安で仕方がなくなる。

 これから、俺はどうなるんだ?


「何をしているのですか!」

 血の気の引いた俺の耳に、厳しい言葉が届いた。俺は、自分が叱られたのだと思い、震える。厳しい言葉を発して現れたのは、ヘレーナだった。


「エルズム、あなたは何を勝手なことをしているのですか。」

「ヘレーナ様。勝手とは・・・セイト様の能力を把握することは早急にするべきことです。そして、今結果が出ました。」

「早急ですか。確かに、あなたの言っていることは間違っていません。しかし、それを・・・セイト様のことは私に任されることになったはずです。それを決めるのは私のはずですが?」

「間違っていないのなら、問題はないはずです。そして、結果は出ました。セイト様に魔法の素養はございませんでした。」

 エルズムが告げてしまった。ヘレーナに知られてしまった。

 俺は、怖くて仕方がない。昨日まで優しく接してくれたヘレーナ。今、どんな目を俺に向けるのだろうか?怯える俺に、ヘレーナの平坦な声が届いた。


「左様ですか。」

 あまりにあっさりとした反応に、俺は戸惑った。それはエルズムも同じようだ。


「わかっているのですか?魔法が使えないということは、魔力がないということです!これでは、痩せた土地に魔力を注いでもらうことができません!」

「・・・それは、使い手でない私を貶めているのでしょうか?」

「いいえ!滅相もございません!ただ、早急に土地に魔力を与える別の方法を考えるべきかと!」

「・・・それを決めるのは、あなたではありません!」

「そういう話ではないでしょう!国の危機ですよ!わかっているのですか!」

「そうです。もとはといえば、あなたの公爵家が!」

「!やめなさい!」

「ですが。」

 エルズムを擁護するように言った神官だが、当のエルズムにその言葉をとがめられた。

 もとはといえば、あなたの公爵家?そのまま聞けば、ヘレーナが公爵家の人間で、その公爵家が土地を痩せさせたという風に聞こえた。

 しかし、確かヘレーナは王族だとアムレットが言っていた。

 どういうことだ?


 俺は、自分のことも忘れて、疑問に思った。




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