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32 滞在先



 パンっと、手を叩いたのはハーニスだ。俺たちが視線をハーニスに移すと、彼はにっこり笑った。


「ま、方針は決まったし・・・隣国に行こうか。」

「は?」

「え?」

「お前、セイトの話を聞いていなかったのか?」

 俺は、この国の人を救いたいと言った。それは、ヘレーナから逃げるために隣国に行くことは、しないという意味だ。

 ハーニスが言ったこととは真逆のこと。


「聞いていたよ?セイトは、この国を救いたいんだよね?だけど、別に隣国に行かないとは言ってないでしょ?」

「いや、まーそうだけど。でも、隣の国に何をしに行くんだよ?」

「え、普通に滞在するだけだよ。まさか、ヘレーナが来るまでこんな場所にいるつもりなの?」

 こんな場所・・・店が開いてないばかりでなく、領民のいない建物だけの土地。人はいても、巡回の騎士や兵士。


「ないな。」

「ゴーストタウン・・・怖いです。」

「いやいや、それは言いすぎだろ。確かに、幽霊が住んでいそうな雰囲気だけど。」

「このような場所では、気が滅入ってしまいますね。隣国かどうかは抜きにしても、滞在する場所は王領以外がいいでしょう。」

 全員の意見が一致した。当り前だ、こんな場所に長居はしたくないし、まして滞在なんて・・・夜一人でトイレに行けないぞ・・・まぁ、アムレットが付き添ってくれるし、ハーニスも勝手についてくるけどな。


「隣国以外の候補は?」

「ないこともないけど・・・きた道を戻るよ?ここまで来たら、隣国の方が近いんだよね。」

「ですが、検問はどうするのですか?私たちはホイホイと国を移動できる立場でもありませんし。」

「俺はわかるけど、お前らにもそんな制限があるのか?」

「一応、職務中ですからね。冒険者や護衛だったらいいですけど。・・・私たちは護衛ですが、セイト君の護衛なので、セイト君が公式に隣国に赴く理由がなければ、私たちが行くのも変ですからね。」

「隣国とは友好関係ですから、行き来はそこまで厳しくはありません。ただ、身分を証明するものが、宮廷魔術師のものだったりするので・・・普段は、通行許可証と身元保証書のようなものを発行してもらって、隣国に行くのですよ。そこには細かい職業などは書かれていないのです。」

「つまり、隣国に行くことはできるけど、ものすごく目立つってことだよ。」

「いや、それだったらやめよう。」

「待ってよ、セイト。僕が何の用意もなしに、隣国へ行こうって言ってると思っているの?」

 得意げに懐から紙束を出したハーニス。


「随分用意がいいですね。」

「さっき言っていた、通行許可証とかか?」

「はい。これなら目立つことなく隣国に行けますが・・・いかかがいたしますか?」

「俺は別にどっちでもいいけど・・・ハーニスはその様子だと、隣国に行きたいんだよな?」

「別に?ただ、セイトが隣国に行けるいい機会かと思って。これを逃したら、なかなか隣国に行く機会はないし・・・いろいろな場所に行きたいかと思って、手配しといたんだ。」

 隣国に行けるチャンス・・・か。

 確かに、この国の中を旅することになっているから、隣国に行こうなんて話はこれ以降出てこないかもしれない。

 せっかく異世界に来たんだし、色々なところを周ってみたいという気持ちはある。しかし、大丈夫なのだろうか?


「俺が隣国に行くって・・・不都合はないのか?」

「なんで?」

「なんでって・・・俺は一応、重要人物だろ?アムレットやハーニス、マリアみたいな大層な護衛がついているわけだし。だから、大丈夫なのかって。」

「滞在地は指定されていません。ただ、セイトが言う通り、あまりいいこととは思えないので、グレーゾーンと言ったところですね。」

「・・・隣国は、やはり別の国なので・・・この国にはない楽しみがたくさんあります。細かいことは気にしないで、セイト君が楽しめるのなら、隣国へ行ってもいいと私は思いますよ!」

 それぞれ意見があるようだが、別に賛成でも反対でもないようで、俺の意見を尊重してくれるようだ。

 俺は少しだけ考える。隣国、最近よく聞く言葉だ。確か、そこには転生者がいるという話だ。

 今回行ったとしても、会える可能性はほとんどない。別にそれを目的に行くわけではないし、隣国を周るわけではないから、滞在する町にいなければ会えないだろう。


 そういえば、この国は禁書の発動の影響で土地が痩せたんだったな。もしかしたら、この国って、発展が遅れたりしているんじゃないか?まぁ、2年の話だから、それほどじゃないと思うが・・・

 隣国には、恐らくその影響は出ていない。状況が違う国の様子を見るのも面白いかもしれないな。


「隣国に行く。」

「りょーかい。よかった、これが無駄になるところだったよ。」

 紙束を叩いて、ハーニスがうれしそうに笑った。やっぱり、隣国に行きたかったんだな。


「実はいうと、隣国には最近行ったばかりなんですよね。案内は任せてください!」

 ポンっと、胸元を叩いたマリアは、相変わらず可愛かった。案内か、一体どんなところに連れてってくれるんだろう?マリアとなら、どこでも楽しそうだが・・・性転換の店だけは勘弁してほしいな。


「・・・」

「アムレット?」

「いかがなさいましたか?」

「あんまり隣国に行きたくないのか?」

「そんなことはありません。ただ、何か違和感を感じて・・・何か忘れているような気がします・・・が、思い出せないので、大したことではないのでしょう。」

「そうか。なら、滞在は隣国でいいか?」

「はい、問題ありません。」

 こうして、ヘレーナが来るまでの間、隣国に滞在することが決まった。





明日から「愛に殺された殺人鬼」というものを連載します!

魔物が出るファンタジー世界ですが、写真や列車といったものもある世界観です。

数話で終わる予定なので、気軽に読んでいただけると嬉しいです。



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