31 重い
「言いたいことは、たくさんあります。だけど、聞いていいですか?セイト君。」
マリアはまっすぐな目を俺に向ける。
聞きたいこととは何だろうか?実際ヘレーナと接してどう思っているのか・・・本当にヘレーナが残酷な人間だと思うのか?だろうか?
ヘレーナに関してのことだろうと辺りを付けた俺の予想は、裏切られる。
「セイト君は、この国の人を救いたいと思っていないのですか?」
「え?」
この国の人を、俺が救う?
「思い出してください、セイト君。なぜ、あなたは子爵領に行ったのか?そして、なぜこの王領に来たのか・・・土地を潤すため・・・その土地に住む人々を助けるためではないですか?」
「・・・確かに、表向きはそうだったな。」
そう、俺が土地をめぐっているのは、その土地に魔力を流して、土地を潤すため。
2年前、禁書が発動した、その影響で土地の魔力が吸われてしまった。魔力の吸われた土地は実りに恵まれず、枯れた土地となる。
しかし、膨大な魔力を土地に流せば、以前の状態に戻すことができるのだという。俺は、そのために旅をしている。
だが、それをやっているのは俺じゃない。
「俺がいる意味なんて、ないよな。実際に動いてすくっているのは、ヘレーナだ。俺がいなくても、この国は救われる。」
「セイト君、私が聞いているのはそういうことじゃないんです。セイト君自身は、どう思っているのかを聞いているんです。」
「俺?」
「はい。あなたは、この国を救いたいと思っていますか?何ができるとか、そういうのは考えなくていいんです。私が聞きたいのは、あなたの気持ちです。」
俺が、何もできないことはわかっている。けど、そのことを考えずに、何ができるかとかは考えずに、俺はどう思っているのか。
この国を、どう思っているのか?
この国と俺の関係は、召喚した側とされた側。そのことに関して、俺は感謝しているし、今の扱いにも満足していて不満はない。衣食住が保証されてたとえ、ハーレムではないにしても、護衛がいて身の安全が確保されている。この世界で、これほど贅沢なことはないだろう。
そして・・・
「セイト?」
「どうしたの、セイト?」
アムレット、ハーニス。
融通の利かない男と迷惑な男。でも、俺のことを考えてくれて、そばにいてくれるありがたい男たちだ。美少女じゃなくたって、俺にとって2人は求めていた存在に近い。
マリア。
色々振り回された感じはあるが、俺はそれすらも楽しんでいた節がある。男だと分かっていても、やっぱり気になっていたし・・・性別が戻った今、やっぱり気になるって思う。
好きなんだよな。
「あー・・・ごちゃごちゃ考えるのはやめた。」
そうだ。俺はお気楽で、直感に生きる。思うまま、楽しいことに全力を尽くす。
国を救うなんて、大変だとは思うけど・・・素直になって口に出してしまおう。
「救いたい。俺は、この国を救いたいよ。」
「セイト君!」
「ヒューヒュー!さすが、セイト!」
冷やかす様に言ってきたハーニスの頭を、とりあえずひっぱたく。
「いったーい!」
「ふざけすぎだ。俺、結構本気なんだからな。」
「わかってるって。まーつまりは、今まで通りでいるってことだよね、セイト?」
「あぁ。自慢じゃないが、俺には何の力もないからな。ヘレーナが、俺の力ということでなら、土地に魔力を流すっていうなら、俺は利用される。それが、俺のできる、国を救う行為だと思うからな。」
「セイト君なら、そういってくれると思っていました。」
「・・・ヘレーナの件は、気になるところだけどな。でも・・・」
俺は、正面に座るアムレットに顔を向ける。
「守ってくれるだろ?」
「・・・!」
目を見開いたアムレットは、相当驚いたようですぐに言葉を返さなかった。その間に外野がうるさくなる。
「おやおや、これは・・・」
「あぁ!なぜ、ヘレーナ様はここにいないのですか!一緒にニマニマしたかったです!」
「いや、ニマニマしてるのって、魔術師さんだけだからね。」
「いいえ!ヘレーナ様もニマニマしています!」
「いや、ヘレーナ様がニマニマなんてするわけないでしょ。」
「セイト・・・」
やっと口を開いたアムレットの言葉に、外野も静かになって聞き耳を立てる。
「やっぱり、お前は聖なるお方だな。俺はそれがうれしいが・・・なんだろう、怒りもわいてくるな。」
「え、なんで?」
「さぁ?だが、俺は絶対お前を守る。・・・こほんっ。俺は、あなたを生涯かけて守り抜きます。なぜなら、あなたには永遠の忠誠を誓いましたから。」
「・・・」
「聞きました、奥さん!」
「奥さんではありませんが、しっかりと聞きました!帰ったら、披露宴ですね。」
「いや、それは違うだろ!てか、いつ永遠の忠誠を誓ったんだよ!?重すぎだ!」
重すぎて迷惑だ。
自然と口元が緩んでしまうのを必死に隠して、俺はアムレットに説教じみた話をする。重いだの、堅苦しいだの。
でも、嬉しいな。
日常で言われたら、重くて引くような言葉。でも、それが俺の憧れていた関係だ。
どうかこのまま、ずっと・・・本当に守り続けてくれたらいいのに。そんなこと叶うはずもないと、諦めながら・・・今は幸せをかみしめた。