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30 過去の事件



 1年前、アムレットがヘレーナの護衛騎士だった頃。ヘレーナには、アムレットの他に5人の騎士がついていた。その騎士をまとめるのは、ベネディクト・・・ヘレーナが最も信頼を置き、ディーと呼ぶ騎士だ。それを補佐する役割にアムレットはいた。


 ベネディクトがいないときは、アムレットが最もヘレーナに近い存在だった。しかし、それでもヘレーナからベネディクトに与えられるような信頼など得られない。ベネディクトの補佐という立場ながら、たんなる騎士としかヘレーナはアムレットのことを見ていなかった。


 淡々と書類仕事をこなすヘレーナ。常に3人体制でヘレーナを守る騎士らも、同じように書類仕事をこなす。護衛は城の中の執務室では、扉の外に控える騎士だけで事足りる。


 時々ベネディクトと談笑して笑うことがあるヘレーナだが、ベネディクトがいないときは、表情一つ変えない。アムレットが話しかけても、ベネディクトがいるときは表情に変化があるが、いないときは全く変化しない。


 認められていないのだと思った。

 アムレットは、ヘレーナとベネディクトの主従関係がうらやましく、どうにか自分もそのような関係を作りたいと努力することにした。

 仕事のミスを減らし、ヘレーナをよく知るために、ベネディクトから情報を得て、ヘレーナの求めるものを探る。すると、ヘレーナは国をよくすることを第一に考えていることに気づいた。


 当たり前のことだが、それをできる人は数が少ない。そのような希少な人間に仕えることができて、最初は喜んだアムレットだったが、ヘレーナという人間を見誤ったことを後に知ることになる。



 国のために、民のために、最善の行動をするヘレーナだが、ハインリヒの意見を尊重することが何度かあった。特に気にも留めていなかったことだが、それが異常であることに気づいたのは、とある事件・・・ヘレーナの護衛騎士が犯した情報漏洩のときだ。


 家族を人質にとられた護衛騎士が、機密を漏らした。あってはいけないような事件が起こって、ヘレーナは迅速に動いた。


「どのような情報を渡したのかしら?」

 情報を漏らした騎士を縛り上げて、アムレットはその騎士を床に押さえつけていた。

 問いただしたのは、ヘレーナだ。縛り上げられた騎士を見下ろして、片手で扇をもてあそぶ。


 騎士は正直に漏らした情報を答えた。そして、その中にハインリヒが絶対に漏らすなという情報が入っていた。どうでもいい・・・機密に比べれば些細な情報。


「マリア・・・イサオに、誕生日のサプライズパーティーを企画している。よかったら手を貸して欲しい。」

「お手伝いしたいのはやまやまですが、今週は手が空きません。来週なら・・・」

「そうか。なら、このことは秘密にしておいて欲しい。誰にも漏らさないように・・・パーティーの日程は後で伝えるから、出席はしてくれるか?」

「それはもちろん。」

 そんな、どうでもいい会話だ。

 だが、ヘレーナにとって、それが一番漏らしてはいけない情報だった。


「情報の受け渡しは本日でしたね?もちろん、やってくれますね?」



 いつものように、情報を渡すために、人が寄り付かない森の中へと入って行った騎士は、すぐにいつもの場所でいつもの人物を見つけ、軽く右手を上げた。

 それが、合図だった。


 アムレットは、騎士から情報を受け取ろうとした男を捕まえた。多少は抵抗があったが、縛り上げると素直に何もかも男は吐いて、男たちの拠点が知れた。


「ヘレーナ様、いかがいたしますか?」

「拠点を攻めるわ。情報を今かと待っているお馬鹿さんたちを、一網打尽にします。アムレットは先に向かってちょうだい。」

「わかりました。」

 ヘレーナとベネディクトを残し、アムレットは残った2人の騎士と共に拠点に向かった。



 拠点の様子を探り待機していると、ヘレーナが現れた。


「人数は?」

「4人です。人質の2人もいます。」

「そう。なら、犯罪者は任せたわ。私は人質を。」

 役割が決まって、拠点に飛び込み、騎士たちと4人を捕まえたアムレット。すぐに尋問し他に仲間がいないか確かめ、いないことが判明した。


 情報が悪用される前でよかった、これで解決だ。


 そう思ったアムレットの耳に、ドサリと、何かが倒れる音が届いた。アムレットはすぐさま臨戦態勢を整えて、音の方に体を向けたが、驚きに固まった。


「へ、レーナ様?」

「もう、用はないわ。殺しなさい。」

 人質の親子が、ピクリとも動かずに床に転がっている。

 その胸の辺りには、氷で作られた杭のようなものが突き刺さっていた。


「何を・・・彼らは人質ですよ?」

「でも、情報を聞いてしまったかもしれないわ。ハインリヒが秘密にしたい情報を・・・」

「はい?」

「もう、いいわ。」

 ヘレーナがその場をどくように指示を出したので、混乱した騎士たちはそのまま素直に従った。

 すると、縛られてろくに抵抗もできない4人の首が、あっけなく切り落とされる。風魔法によるものだった。


「・・・なっ、まだ、尋問が・・・」

「必要ないわ。これ以上絞ったところで何も出てこないでしょうし、それよりもサプライズパーティーのことを漏らされる方が大変だわ。」

 真面目な顔で、冗談を言っている風でもなく言い切ったヘレーナに、アムレットの思考は追いつかない。ただ、背中に冷たい汗が流れるだけだ。


 おかしい。


 サプライズパーティーの秘密?そんなことのために、犯人たちだけでなく、人質の親子の命まで奪うのか?いかれている。


 この人は・・・おかしい。



 ヘレーナの異常性に気づいたアムレットは、その日からヘレーナを見る目が変わった。すると、ヘレーナがハインリヒとベネディクト以外に心を開かず、開こうとも思っていないことがよく理解できた。


 国に尽くすのも、民のことを考えるのも、ハインリヒが望むから。


 どこにも、国を一番に考える英雄などいなかった・・・すべては、まやかしだったのだ。



「情報を漏らした騎士は、殺されました。3人の騎士も、耐えられないと異動願いを出して、俺とベネディクトだけが残りました。そして、俺も今はセイトに仕えて・・・今はヘレーナ様に仕える騎士はベネディクトのみになります。」

「まぁ、つまりは・・・ヘレーナ様の傍には常に危険が付きまとうって話。」

「そうです。だから、もうこの国を出ましょう、セイト・・・今なら、隣国へ逃げることが可能です。」

 確かに、今の話が本当なら・・・ヘレーナのそばにいるのは危険かもしれない。今は、俺がいることでメリットがあるから危険はないだろう。でも、俺がいることがデメリットと感じたその時は、あっさりと捨てられる。悪くて殺されるか・・・でも。


「マリアは、どう思う?」

 俺は、何か言いたげなマリアに話を向けた。




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