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29 再び旅へ



 ヘレーナとお茶を終えて、俺は部屋で考え事をする。

 考えるのは転生者ではなくマリアのこと。転生者については、会う気もないので考えることはしない。隣国にいる同郷の者と、すぐ近くにいるマリアだったら、マリアのことを考えるのが普通だろ?


 マリアは、ハインリヒのことを・・・どう思っているのだろうか?本当に友情か?いや、それを証明するために・・・というより一緒にいるために、男になったんだよな?

 あれ、かなり好きだよな?


「マリアって、かなりハインリヒのこと好きだよな?」

「性転換しても一緒にいたいくらいには好きだよね~」

「だよなー・・・」

「落ち込みすぎだよ、全く。彼女のどこがいいんだか。」

「マリアの悪口を言うな!」

「はいはい。狂信者さん。」

「・・・別に、俺はマリアをあがめていたりなんてことはしていない。」

「まぁ、好きになってしまったんだから、仕方がないよねー。安心しなよセイト。彼女の愛はとっても軽いから。」

「どういう意味だよ。」

 隣にいるハーニスを睨みつけると、ハーニスは俺の頬に手を当てた。


「なんだよ・・・」

「もし、君が性転換をしてまで一緒にいたいと思う人がいたら・・・それはどんな関係の人だと思う?」

「はぁ?」

「関係は違うね、どれだけ君が思っている人か・・・僕なら愛している人かな。」

「・・・愛とか、お前の口から出てくると薄っぺらく感じるな。」

「ひどい~。僕、本気だけど。ま、それはいいや。彼女はね、好きってだけで・・・性転換するんだよ。」

「・・・」

 それはつまり、ハインリヒのことが好きだということだ。マリアは、ハインリヒのことが好きで、男になった。


「セイト・・・好きって色々あるでしょ?マリアの好きは・・・友達として好きという程度なんだよ。それで、性転換しちゃうような子なんだよ。」

「なんで断言できるんだよ。」

「だってさ、セイトの時も性転換したでしょ?」

「あっ!」

 そうだ、マリアは俺のために性転換をした。ハインリヒのために性転換して男になったマリアが、俺のために性転換して女に戻った・・・


「ねぇ、セイト。マリアがハインリヒを本当に愛していたとしても、そうでないとしても・・・どうでもいいことじゃない?」

「・・・そうだな。」

 マリアは、ハインリヒより俺を選んでくれたんだ。俺を選んで、性転換をして女に戻ってくれた・・・その事実が、俺の悩みを消し去る。


 彼女の性別こそ、俺を選んだことの証明だ。


「元気になったようで良かったよ。3日後には旅を再開するしね~」

「・・・聞いていないんだが。」

「今言ったでしょ?」

「アムレット、お前も知っていたのか?」

「はい。昨日決まりました。ヘレーナ様が、セイトの調子が戻ったらすぐに出発できるようにと手配していたようですね。」

「・・・お前らなぁ、そういう重要なことなんで俺に話さないんだ?」

「セイトは、その日暮らしがあっているからね~計画とかは全部俺たちに任せてくれればいいよ。」

「だとしても・・・出かけることくらい教えろよ!」

「次は気を付けるよ。」




 そして、あっという間に3日が過ぎて、一週間が過ぎた。

 特に何事もないまま、俺たち・・・俺と護衛3人と世話をする多くの者たちは、隣国に最も近い、王族が管理する王領に着いた。


 王領って、城付近にあると思ったが、こんな国のはずれにもあるんだな。


 王領と聞けば、想像するのは栄えた街並み、城下町と変わらないようなものを想像していたが、馬車から見た外の光景に俺は目を疑った。


「ここ、本当に王領なのか?」

「はい。」

「・・・こんなところに人が住んでいるのかよ?」

 外に広がる風景は、枯れた木に、乾いた大地。緑というものが全くない、人が到底住めるとは思えないような場所だ。

 街中に入っても、古びた建物が並び、土埃が舞っていて人っ子一人見当たらない。


「必要最低限、盗賊など悪事を働く者が利用しないよう、巡回する騎士が住んでいます。ここにいた領民は、他の領へそれぞれ移り住んでいます。」

「・・・子爵領は、ここまでひどくなかった・・・」

「ここは、最も被害の出た場所です。」

 少しだけ迷ったそぶりを見せたアムレットだが、ここがどういう場所なのかをはっきりと俺に告げた。


「禁書が最初に発動された土地・・・かつて、ヘレーナ様の公爵家が治めていた土地です。」

「・・・ヘレーナの故郷ってことか。」

 こんな、枯れた・・・誰もいない土地が。


「なんで、真っ先にここに来なかったんだ。」

「ここには誰もいませんから。今は元領民の生活も安定しています。急いで土地を潤す必要がないと・・・ヘレーナ様自身がおっしゃいました。」

「・・・なんで。」

「セイトは、ヘレーナ様を勘違いしていらっしゃるのですよ。」

「勘違い?」

 アムレットの言葉に、俺は外を眺めるのをやめて、アムレットの方を見た。


「ヘレーナ様は、民のことなどどうでもいい。いいえ、彼女の大切な人以外には無関心で、恐ろしく残極なお方です。あの方が動かれるのは・・・大切な人のためだけ。」

「アムレット、どうしたんだよ一体?」

「セイト、あなたは・・・利用されているだけです。必要がなくなったら、恐らく切り捨てられるでしょう。」

「いや・・・何言ってるんだよ。」

「騎士さんは、セイトを逃がすつもりかな?」

 唐突に現れたのは、ハーニスだ。いつの間にか俺の横に腰を下ろしているハーニスを、アムレットは睨みつけた。


「邪魔をするつもりなら、排除させてもらう。」

「・・・僕は、セイトの望みのままにするつもりだよ。」

「ちょっと待ってください!」

 声を上げたのは、今まで黙って話を聞いていたマリアだ。マリアはなぜか今回の旅で俺の隣ではなく、アムレットの隣に座っている。嫌われたのかと心配したが、そこはハーニスにそんなことがあるわけないって、わかっているでしょと言われ、マリアの性別が女であることを思い出して、ただの杞憂だと思っている。


「さっきから、なんなんですか!ヘレーナ様はお優しいお方です!切り捨てるだとか、残酷だとか・・・さっきから失礼なことばかり言って、最低です!」

「お前は、ヘレーナ様と同じ学園に通っていたと聞いたが?」

「はい。通っていましたよ?」

「なぜそれで、あの方の恐ろしさが分かっていないんだ。」

 頭を抱えるアムレット。ハーニスは苦笑しているが、それはマリアに対してのようで、ヘレーナについての意見はアムレットと同じようだ。


 一体、どういうことなんだ?




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