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28 転生者



 お茶の時間、久しぶりに時間を作って来てくれたヘレーナと共にお茶をする。部屋には、俺とヘレーナ、ハーニスがソファに座ってお茶を楽しみ、俺の背後でアムレットが立っている。前から思っていたが、なんでいつも背後にいるんだ?ま、いいか。


 マリアは、いなかった間にたまった仕事を片付けている。ちょっとした書類仕事があるようで、護衛の面々は空き時間にそれをこなしているらしい。

 俺の護衛だけが仕事じゃなかったんだな・・・


「そういえば、セイト様・・・昨日はお楽しみだったようですね。」

「ぶふっ!?」

 思わず紅茶を噴出して、テーブルを汚す。それをため息をついたアムレットが掃除してくれた。


 ヘレーナ、絶対異世界の本を熟読してるだろ!


「申し訳ございません、ほんの冗談のつもりで・・・もちろん、お2人の間に何もなかったことは、存じておりますわ。残念なことに。」

「え?」

「セイト様は、ハーニスなどがお好みなのかしら?」

「ぶふっ!?」

「・・・聖なるお方・・・」

「悪い、アムレット・・・でも、話題選びがまずいだろ。」

 アムレットがきれいにしたテーブルを再び汚した俺、そんな俺に非難のまなざしを送るアムレットに軽く謝る。


「ヘレーナは一体、俺を何だと思っているんだ?」

「ヘタ・・・こほんっ。ホモだと思っておりますわ。」

 あれ、ヘタレって言おうとした?しかも、取り繕ってホモはねーだろっ!


「冗談ですわ。」

「今日は冗談が多いな、ヘレーナ・・・」

「久し振りにお会いできて、嬉しいのですよ。ところで、マリアの話をざっくりとお聞きになったとか・・・複雑な思いでしょう?」

「いや、なんというか・・・この世界では、気軽に性別を変えるものなのか?」

「まさか、彼女が特殊なだけです。それに、性別を変えるなんて高等技術、行える人は限られています。まぁ、簡単にできたとしても、そうそう変える人はいないでしょう。」

「まぁ、そうだよな・・・」

「一応、彼女の他にも性別を変えた者はいますが。貴族の一人娘が、自ら家督を継ぐためなどといった、家のための理由などが多いです。あとは、楽して稼ぎたいと女性になって・・・いえ、これはお聞かせするのもあれですね。」

 楽して稼ぎたくて性転換って・・・しかも、女性にって・・・もっと稼ぎたいから、力仕事をしたくて男性にではなく、楽して稼ぎたくて女性にって・・・そういうことだよな?


「彼女のような理由で性転換を行う人は珍しいですね。」

「そういえば、マリアが性転換しなければいけない理由って何だったんだ?」

 男友達と一緒にいるためと言っていたが、俺にはよくわからなかった。この際、説明がうまそうなヘレーナに聞くとしよう。


「話は、彼女が学生だった頃・・・2年前ですね。」

 2年前・・・確か、禁書が使われたのもその時期だったな・・・


「彼女が通っていた学園は、貴族が多く通う学園です。通う貴族は婚約者がいても不思議ではない年齢で、婚約者のいる異性との交流は極力避けるべきという風潮があります。交流とは、2人きりで会う、昼食を婚約者抜きで異性と共にするなど・・・信じられないかもしれませんが、そういうものです。」

「ふーん、貴族って色々と面倒だと思っていたが、想像以上だな。」

「普通はそこまで言われることではないのですが、マリアは男爵令嬢だったこともあり、厳しく言われるのです。相手も悪かった・・・」

「相手ってのは、男友達だよな?」

「はい。・・・王太子、その側近候補といった、高位貴族の子息がマリアの友人です。」

「・・・王子にその側近って・・・」

 玉の輿狙いにしか見えないのだが!?いや、マリアは決してそんな子じゃない。


「そして、殿下とその婚約者の仲が良好でないことも、マリアが悪く言われる原因だったのでしょうね。」

「それは、マリアと関係ないだろ。」

「・・・彼らの間には、友情だけだと、本人たちは本気で思っているようでした。でも、周囲にはそうは見えなかったのですよ。」

 見てきたかのように語るヘレーナを見れば、彼女は苦笑してクッキーをつまんで口に入れる。


「ヘレーナ様もその学園に通っていたんだよ。」

「ヘレーナも?」

 横から口を出してきたハーニスの言葉で、俺は納得した。年齢も同い年くらいの彼女らが同じ学園に通っていても不思議ではないし、見てきたように話せるのは実際見たからだろう。


「私は、マリアの男友達の中の一人と、婚約関係にありました。私は、2人の仲を疑い・・・婚約者と距離を置きました。」

「そんなことが・・・」

「それくらい、彼らの仲が良かったのですよ。今思えば、マリアを崇拝する信者のような感じがありましたね。彼らは気づいていないようですが。」

「・・・」

「セイト様?」

「その、男友達って・・・今もマリアと?」

「はい。この城に努めていますから。セイト様も一人ならお会いしたことがありますよ。金の髪に赤い瞳の男性がそうです。」

「・・・あぁ、ハインリヒ・・・とかいう?」

 度々現れては、俺に罵声を浴びせる男。ヘレーナの名前を何度も口にして、ヘレーナに冷たくあしらわれている・・・


「まさか、ハインリヒって・・・」

「私の婚約者でした。」

「・・・」

 あいつが?いや、美形だしヘレーナと釣り合うだろうとは思うが・・・あいつ、マリアとも仲がいいのか・・・元から好かないとは思っていたが、殺意がわいてくるな。


「他の方も婚約者がいる身でして・・・そんな彼らと共に過ごすことを、周囲は許しません。それでも、彼らは強い友情に結ばれているようでして・・・周囲に許されるために、彼らと共に生きるために、マリアはイサオとなったのです。」

「・・・マリアの男名だったか。」

「はい。」

 丁度名前の話が出たので、ずっと気になっていたことを聞くことにした。


「マリアも、異世界本の熟読者か?」

「イサオ・・・という名前は友人からもらったと、言っていましたよ。おそらく、私が知っている転生者です。」

「転生者!?いるのか?」

「はい。」

 ヘレーナはにっこりと笑って、カップを手に取った。


「セイト様、お茶が冷めてしまいますよ。」

「・・・悪いけど、それどころじゃないっていうか。その、転生者って・・・身近にいるのか?」

「私が今話した転生者は、隣国にいます。それと、転生者という言葉は、周知されている言葉ではありません。普通は隠していきますからね。」

「そうだよな。」

 転生者・・・俺と同じ世界から来た奴か。


 そいつは、この世界に転生したことを、どう思っているんだろうな。




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