27 ハニー
「ま、りあ・・・」
「わ、私・・・セイト君に元気になって欲しくって!」
「っ!」
落ち着け!俺、落ち着け!元気になるな。絶対元気になるな!これはヤバイ、マジでヤバイ、最強にヤバイ!
マリアは男だ。マリアは男だ。マリアは男だ。最重要事項だ、忘れるな!
「その・・・私・・・イサオを捨てました。」
「・・・は?」
唐突に出た男の名前に、高鳴った鼓動が鎮まる。
「私、考えたんです。セイト君を救うか・・・イサオとして生き続けるか・・・どちらがいいんだろうって。」
「???」
「あ~魔術師さん、それじゃセイトにはわからないと思うよ?ほら、顔が間抜けになってる。」
「え、あっ・・・すみません。その・・・どこから話せばいいのか。」
あーでもない。こーでもないと、頭を悩ませているマリア。だが、やっと決心がついたのか、決意に満ちた瞳で俺を見上げた。
「つまり、私はセイト君が好きです!」
「・・・断る。」
「で・・・すよね。」
マリアは男。マリアは男。マリアは男。ちゃんと覚えている。
「セイトはもったいないな~魔術師さんのどこが気に入らないの?」
「・・・性別。」
「了解です!イサオに戻ってきます!」
「???」
「待った!待ちなよ、魔術師さん!」
飛び起きたマリアの腕を、慌ててハーニスがつかむ。俺もゆっくりと起き上がった。
「2人共、言葉が足りなすぎだよ~全く。いいかい、まずはセイト・・・マリアの性別がなんだったらいいんだい?」
「決まっているだろ。俺は男だ。求めるのは・・・女子。」
「なんで恥ずかしがるのかわからないけど・・・今の聞いた、魔術師さん?」
「はい!」
「だったら、今の君の性別を教えてあげなよ。」
「はい、女性です!」
「???」
「胸、触りますか!?」
「ふぇへ?」
「あ、やっぱり恥ずかしいので、無理です。」
「そ、そんな・・・って、え?」
マリアは男じゃない?あれ?胸触って確認していいって・・・あ、それはやっぱりだめで?え?
混乱する俺に、ハーニスが優しく丁寧に説明をする。
マリアは、もともと女性だった。しかし、とある事情・・・婚約者のいる男友達との友情を続けるために、男性に性転換した。
しかし、俺がクスティーア洞窟の影響で闇に染まった・・・というほどのことでもないと俺は思っているが、その闇から救い出したいという思いで、女性に性転換したそうだ。
「いやいや!なんで俺を救うことが、女性になることにつながるんだよ!?」
「そ、それは・・・彼が。」
マリアはちらっとハーニスを上目遣いで見る。可愛すぎだろっ!その目で俺を見てくれよっ!
「だって、女性に飢えていたみたいだしさ、セイト。実際元気になったし、僕が言ったこと間違ってなかったでしょ?」
「そうですね、確かにセイト君元気になったようです!」
「うるせー!女性に飢えてなんか・・・いたけど、それは、その、こんだけ男に囲まれていれば仕方がないことだろ・・・なぁ?」
「そうなんですか?」
「僕はよくわからないや。」
「嘘だー!」
ハーニスは、にやにやと笑って姿を消した。
絶対からかっていたな。
「それではセイト君、私はこれで失礼します~」
「あ、おやすみ~」
いつもの調子で挨拶を交わし、部屋を出るマリアを見送った。
「・・・あっ。」
俺、何普通に見送ってんだよ!?今のチャンスだった・・・か?
「・・・もう、寝よう。」
考えるのも面倒になって、俺はベッドに横になる。
ふと、鼻にマリアの匂いが届いて、残り香・・・に胸が高鳴って、どうにも寝付けなくなってしまったが、いつのまにか寝ていた。
朝が来た。
隣には、いつの間にかベッドに入っていたハーニスが、俺の顔をずっと眺めていて・・・朝からマジでやめろと思った。
マリアだったらよかったのに。
「いや、セイトがヘタレたせいだから。ここに僕がいて魔術師さんがいないのは、君がどうしようもないヘタレだからだよ?」
「うるさい。」
「あーあ。せっかく魔術師さんを騙して、ここに連れてきてあげたのに、こんな大チャンスを逃すなんてね・・・君は一生女性を知らないまま終わるんだろーな。」
「朝からケンカ売ってんのか!いいぞ、一回白黒はっきりつけようぜっ!」
「いいね~」
俺がベッドから飛び出すと、ハーニスも軽やかにベッドからジャンプして、床に綺麗に着地する。対峙してみると、やっぱり俺より背が低いし、小柄だ。
流石に武器は使わないだろうから、純粋な力勝負・・・いける!
「わけないよな。」
「結果は最初から見えていたよね~」
俺は床に這いつくばって、ハーニスはそんな俺の背中に優雅に腰を下ろしていた。
圧勝・・・ハーニスのな。
俺の護衛だもんな、強くないわけがない。
「馬鹿な君が戻って来てくれて嬉しいよ、セイト。」
「傷に塩を塗り込むな。」
「それは、セイトの世界の言葉?なんとなくわかるけど・・・わー、すごく痛そうだね。それだけ君も傷ついているってこと?」
「こんなチビに負かされて、馬鹿にされているんだ。めっちゃ傷ついているけど!」
「その言葉には、僕が傷ついた!確かに僕の方が小さいけど・・・力は君よりあるよ?それに、頭の出来も違うからね、そこんとこよろしく。」
「・・・まぁ、馬鹿には務まらないよな、お前の仕事は。」
「そうなんだけど・・・魔術師さんは、ちょっと頭が弱いところあるよね。だからこそ、君にお似合いだとは思うけど・・・心配だなぁ。」
「マリアを馬鹿にするな。」
「いや、だって・・・友達と一緒にいるためだって、性転換するんだよ?馬鹿だよね?」
「友達思いなんだ。」
俺の言葉にハーニスは爆笑して、俺の背中からどいた。そして、床に這いつくばっている俺に手を差し出す。
「なら、そんな友達思いの魔術師さんも入れて、まとめて守ってあげるよ。」
「ハーニス?」
「ハニーって呼んでくれなきゃ嫌だよ。」
「・・・ハニー。」
「そうそう。せめて、呼び名だけでもね・・・なーんて。」
俺は、なぜか悲しげに笑うハーニスの手を取った。引き上げられて立てば、少し下にあるハーニスと目が合う。
「・・・応援、するよ。」




