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23 俺じゃなくても



 特別、不幸な人生だと語れるほどの不幸を、俺は体験したことがない。

 それでも、異世界に行きたいだとか、本気で語るのは・・・何もチート無双をしたかったわけではなかったんだ。


 もちろん、チート能力は欲しいし、成り上りたい。ハーレムだって作ってみたいし、国を救った英雄だとたたえられるのだって、とってもいいことだと思う。


 想像しただけで、わくわくする。


 でも、異世界に行きたかったのは、ここに居場所がないと感じたから。




 学校では、仲がいい友達がいて、馬鹿なことを言っては周りに笑われて、それでも輪の中に入れてもらって、一緒に笑い合っていた。

 家では、両親がいて、家庭環境に問題はない。虐待もなければ、生活に困っているなんてこともない。


 順風満帆・・・とまでいかないだろうけど、問題のない人生だ。ただ、俺の考え方が異常なだけで。いや、もしかしたらみんなそうなのかもしれない。だから、異世界の物語に惹かれるのだろうか?



 ふと思うんだ。


 ここにいるのは、誰だっていいんじゃないかって。


 クラスで笑い合って、帰り道にカラオケで歌いまくって、家に帰って用意された飯を食う。だるい宿題を片付けて、風呂に入って、ゲームをして・・・


 きっと、これは俺じゃなくてもいい。


 クラスの輪に入っている奴は、俺じゃなくていいし、カラオケに行く奴も同じだ。家族だって、たまたま俺がこの家に生まれたってだけで、きっと俺じゃなくてもいい。


 俺って必要なのかな。

 答えは簡単、どちらでもない。必要か不必要かなんて問いかけること自体おかしなこと。別にいるからいるだけで、いるからいることを許されているだけで、必要だからいるとかそういうのじゃない。


 別に、俺が特別というわけでなく、世の中の人間ほとんどがそうだと思う。


 でも、異世界に行ったら何か変わる・・・なんて、誰もが思うことを俺は思って、本気で異世界に行きたいと望んだ。その結果がこれだ。




 この世界に来てから、俺の周りには、常に人がいた。でも、それは俺だからという理由ではなく、聖女として召喚されたからという・・・誰でもいいような理由。


「俺じゃなくても、よかったんだ。」


 美人のヘレーナが、様付で呼ぶのも。

 アムレットが必死に守るのも。

 ハーニスが面白そうにかまうのも。

 マリアがきらきらとした目を向けるのも。


「なんで、俺はいるんだろう。」

 答えは簡単、生まれたから。そして、異世界に召喚されたから。それだけだ。


「・・・」

 なんで俺、怖がってたんだろう?別にどうだっていいじゃないか。



 それから何時間たったか。俺は唐突に突き飛ばされた?いや、抱きしめられた。勢いがすごくて、突き飛ばされたのかと思ったが、しっかりとした腕が俺の体を支える。


「セイトっ!」

「・・・アムレット?」

「よかった、無事で・・・」

 冷え切った俺の体、アムレットの体温が温める。暑いくらいの体温だ。息も上がっているから、走ってきたのか・・・


「出よう。この洞窟に長居するのはよくない。」

「あぁ・・・」

 アムレットは、俺をそのまま抱えて立ち上がる。しかし、衝撃が襲って、俺を抱えたままアムレットは倒れこんだ。


「くっ。」

「・・・どうした?」

「くそっ。何かがいる。」

 忌々しそうにあたりを睨みつけるアムレット。俺も同じように辺りを見回したが、何も見えない。


「何もいないぞ。」

「姿が見えない魔法がかかっているんだ。実際、さっき攻撃を受けた。」

「・・・」

「セイト。」

「なんだ?」

「・・・お前、まずいな・・・早くここを出なければ。」

「まずいって、俺のこと食べたことないだろ。」

「当たり前だ。俺は人食いではない。」

「・・・」

「少し、耐えてくれ。」

 アムレットが立ち上がった。するとまた衝撃が襲う。でも、アムレットは倒れずに歩き出した。それを阻むように衝撃が襲うが、アムレットは歩みを止めない。


「くっ・・・」

「大丈夫か?」

「お前の方が大丈夫か?」

「俺は、平気だ。」

「ならよかった。こんな細い体で・・・少し心配だったんだ。」

「お前も細い・・・と思っていたが、案外筋肉がついているんだな。」

「当たり前だっ!」

 アムレットは俺を何かから守るように抱きしめている。俺は、動きにくいが衝撃が何度か襲ったときに地面に足がついたので、アムレットに合わせて歩いている。


 光の射さない暗闇に入っても衝撃は続いて、アムレットの息は上がる。


「はぁはぁはぁ・・・大丈夫か、セイト?」

「お前こそ・・・なぁ、アムレット・・・」

「どうした?」

「さっきから・・・鉄の匂いが・・・」

 そう、先ほどから鉄の匂いが・・・血の匂いがする。最初は、アムレットの剣とか防具の匂いかと思っていた。でも、これは・・・


「お前・・・」

「剣の錆の匂いでしょう。」

「・・・やっぱり血の匂い。」

 さらりといつもの口調で言われ、それが嘘だと分かった。アムレットは怪我をしているんだ。それはそうだ、こんなに何かが襲ってきているのに無傷でいられるわけがない。


「行けよ、アムレット。」

「・・・」

「お前ひとりなら、助かるんだろ?」

「・・・いいえ。」

「嘘をつくなよ。」

「嘘ではありません。」

「嘘だ。」

「違います。」

「いいから、行けよ。」

「・・・嫌です。」

 俺をここに置いて行けば、きっとアムレットは助かる。そんなのアムレットにだってわかっているはずなのに、なぜ?


 話している間にも衝撃が襲う。どうやら、前から何かが突っ込んできたようで、俺をかばうようにアムレットは俺と立ち位置を変えた。アムレットの背中から鈍い音がする。


 いつまで続くんだ。




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