21 近づく闇
少しの間暗い話になりますが、数話後(25話くらいに)元に戻ります。
あれだけ楽しみにしていた異世界。うまくいかないことばかりで、少しくじけそうになるがそれでも俺は、この世界が好きだ。
ここには、俺を必要としてくれる人がいるから。
いるはずだから
「痛い・・・」
激痛で目覚めた俺は、固い木の床で寝転がっていた。
こんな目に合うのは初めてだ。
「ずっと、守られていたんだな・・・本当に。」
神様は、どこまでも俺を甘やかしてくれているようだ。望んだ異世界に召喚されて、守る者がそばにいる。確かに、勇者じゃないのは残念だし、チート能力の一つもないのはがっかりだし・・・美女がヘレーナ一人でハーレムとは程遠いし・・・あれ。
おかしいな、不満の方が多くないか!?
いやいや。死ぬような目にも合ってないし・・・息子は危険な目に合ったけど・・・今、ちょっと死の危険を感じるけど・・・あれ。
「駄目だ、考えがネガティブになってる・・・寒いし、一人だし、痛いし、誰もいないし・・・誰か・・・アムレット・・・ハーニス、マリア、ヘレーナ・・・」
俺はあたりを見回す。
薄暗い洞窟・・・小さな穴から射す光だけが頼りで、奥は真っ暗で何も見えない。
「寒い・・・」
濡れた服・・・氷のつぶてが体温で解けたのだろうか?とにかく服が濡れていて、寒い。これはまずいな。こういう時って、人肌で暖を取るものだが・・・おかしい、美少女がいない。
「とにかく、歩くか。奥に行くのは怖いし、このあたりを歩いていよう。」
立ち上がると、体のあちこちが痛んだ。それでも俺はぐるぐると円を描くように歩き始める。少しだけ暖かくなる。
一時的にはこれでいいが、服を乾かす手段を考えないと。それか、着替えを手に入れる・・・そこらへんに服は落ちていないかな?
てか、なんでこんなことに。
確か、洞窟で雨宿り・・・氷が降ってきたから、それから逃れるために洞窟に行って、その洞窟の奥から獣が出てきた。それに応戦するため、アムレットが俺から離れて・・・アムレットが離れている間に、俺は何かに引きずられるように、洞窟を出た・・・だったよな?
何か・・・俺をここに連れてきた奴は、どこにいるんだ?
周囲を見回しても、そこには誰もいない。だが、何かに見られているような気がして、真っ暗闇の中からこちらを覗く目があるような気がして、怖くなる。
「・・・誰か、いるのか?いないよなっ!?」
声が裏返った。寒さだけでない、恐怖による震えが俺を襲って、立っているのも辛くなる。
「苦手なんだよ・・・暗いのは・・・」
夜、ベッドの中に入って目を瞑る。俺はそういう時間が苦手だった。
誰もいない、何も見えない暗闇。それは、余計なことを考えてしまう要因となる。
「誰か、来てくれよ。」
耐えられない。漠然とした不安が襲う。
おかしいな、異世界に来てから、こんな気持ちになったことがないのに。
いつも、誰かがそばにいたからな。
今、俺の近くにはだれかいるのか?いたとしても、きっと俺が望む誰かではない。
漠然とした不安、誰かに見られているかもしれないという、荒唐無稽な恐怖。交互に襲い掛かってくる負の感情が、俺を弱らせる。
その場でうずくまる。
「怖い・・・嫌だ、もう嫌だ!」
おかしい。何かがおかしい。そうは気づいても、俺は漠然とした不安に押しつぶされそうになって、それ以上を考えられない。
これから、俺はどうなる?
俺は、周りからどう思われている?
俺は・・・ただのピエロだ。
楽しいことを全力で楽しんで、傷つくことなど知らないという顔をして、人が集まるところに飛び込んで・・・
なんで、俺は異世界に行きたかった?
「やめろ。やめろ、今はそんなこと考えている暇はない・・・ない。早く、ここから出よう。」
あの暗闇に入ったら、もうここには戻ってこれないかもしれない。それくらいの真っ暗闇に飛び込むのか?
「でも、おかしいから。ここはおかしいから・・・」
おかしいだろ。だって、唐突に負の感情が襲ってきた。確かに、俺は今一人で周りは暗闇だ。だが、だからといってこれはおかしい。何かあるはずだ。
「・・・」
ここにいるのはよくない。でも、ここを出られる自信がない。それに、出たとしても・・・
「外に出ても・・・帰り道なんてわかんねーよ・・・」
まさか、この場所が城の中にあるわけでもないだろうし、俺はここから出たとしてどうやって帰ればいいんだ?
俺は、闇に負けていた。だから、闇に入ってすらいないのに、闇から出た後のことを考えて、一歩も進むことができない。
俺・・・このままここから一生出られないのか?
光の射さない真っ暗闇に目を向ける。ペンライトでもあれば・・・ゲーム機とかでもいい、光を放つ物があれば、俺だってあそこを進んでいけるのに。
何もない今の俺は、怖くてあの先へと進めない。
ここには、まだ光がある。あの暗闇で迷うよりはましだ。
だめだな。こんなの、こんな人間が、勇者になんてなれるわけがない。だから、俺は勇者召喚されなかったのか。いや、聖女・・・とにかく、人から尊ばれる人間なんて、俺にはなれっこないんだ。
だからこそ、異世界を望んだんだろ。
どれだけさえない人間も、異世界に行きば主人公で・・・
なんて、戯言をほざいていた。
変わらなければ、俺はずっと俺のままだ。一人ぼっちで、誰も俺を必要としない、ただの人でしかない。
必要とされたい・・・でも、十分すぎるほど、俺は必要とされる人間ではないことを理解していた。
だって、これが答えだろ。
俺の隣には、誰もいない。
俺は一人だ
今日から再開します!
こちらを止めていた間に書いていた小説「悪魔勇者」、連載中「見世物少女の転移逆転記」「裏生徒会のジョーカー」もよろしくお願いします!