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19 マリアは・・・



 子爵領を出た俺たちは、次の目的地である国の領土・・・貴族ではなく国が管理をしている領土に向かっているところだ。しかし、突然の悪天候により、これ以上は進むのが困難ということで、近くにある洞窟へと避難し野宿をすることになった。


 それにしても、氷が降ってくるなんて・・・


「こんな現象初めてです。隣国ではまれに起こる現象ですが、この国ではめったに雪も降りませんのに。」

「異常気象かって・・・こっちの世界にはないか。」

「それは温暖化でしょう?逆ではありませんか。」

「まぁ、そうか・・・いや、でも異常な気象だから、これも異常気象って呼べるだろう。暑いだけが異常気象ってことはないだろ。」

「確かに、夏なのに気温が上がらないというのも、異常気象と呼ばれていますものね。」

「だろ?・・・え?」

 こっちにも、異常気象って言葉があるのか?いや、あってもおかしくない言葉ではあるのか?異常な気象ってことだし・・・うん、あってもおかしくはないな。


「お2人方は、お召し物が濡れてはいませんか?濡れていらっしゃるなら、こちらで乾かしますが・・・」

「俺は大丈夫だ。ありがとうマ・・・マリア!?」

「あなた、何という格好をしているの!」

「へ?」

 俺たちに声をかけたマリアは、濡れ鼠状態だった。馬車を氷・・・ひょうから守るために、外へ出て魔法を使っていたのだ。そのせいで、細かい氷が服に付着してそれが解けたのだろう・・・なんてどうでもいい!

 問題は、透けて見えるマリアの体・・・


「お前、男だったのか・・・」

 女性らしい膨らみのない、平らな男らしい胸板。体のラインこそ女性らしいが、胸は完全に胸板だった。


 マリアは男・・・可愛いのに、男。




 俺は、一人になって呆然と岩壁を見つめている。


「いかがなされましたか?」

「・・・マリアが男だったんだ。お前は知っていたのか、アムレット?」

「男・・・マリア・・・あぁ、あの方が噂のマリア様だったのですか。」

「噂?」

 あれだけ可愛いくて、名前まで女性の名前なんだ。それで噂になるのは当然のことかと納得して、俺は火の傍まで歩きだした。寒いわ。


「聖なるお方・・・なぜ、そこまで落ち込まれるのですか?」

 火の傍まで来て座り込めば、アムレットも俺の隣に立って話しかけてきた。


「なんでだろうな。まぁ、普通にショックだった。何か騙された気分というか、なんだろうな。マリアの性別とか、俺には関係ないのに。」

 そうだ、別にマリアが女の子だから俺は一緒にいたというわけではない。別に婚約者というわけではないんだ、性別なんて関係ない。


 あーでも、なんで俺はこんなに落ち込むんだ?わかっているはずなのに。

 ただの友達というか、俺の護衛だろ?俺のこと守ってくれれば、それでいいじゃないか。


「セイト、ずいぶん落ち込んでるね~これは、チャンス?」

 明るい声がすぐそばから聞こえて、俺は驚いて振り返った。すると、頬に柔らかいものが触れて、すぐに離れていった。

 唐突に現れたハーニスは、俺の頬に口づけをしたのだ。


「影!」

「うわっと!危ないな、剣を振り回さないでよ。」

 怒鳴ると同時に、アムレットはハーニスに剣を振うが、ハーニスはおどけた様子でよけて笑う。


「なーに怒ってるの、騎士さん?ただの親愛のキスでしょ?」

「親愛だと!ふざけたことを!」

「あー嫉妬?騎士さんもしたかった?すればいいじゃん、子供じゃないんだし、親愛のキスくらい。」

「そんなふしだらなこと、聖なるお方にできるか!」

「キモ・・・そういうこと言う方が、意識してるってことだよ。その言葉がセイトを・・・聖なるお方を汚してるよ!」

「な、お、俺はそういうつもりは・・・」

 勝ち誇った顔をするハーニスに、動揺して僅かに頬が赤くなるアムレット。俺は何を見せられているのだろうか。


「セイト様の取り合いですわね。」

「本当ですね!セイト君ヒューヒュー!」

 遠くの方で女性陣・・・ではなくて、女性と女性に見える男性が面白そうに眺めている。止めろよ!片方剣を抜いているんだぞ!


「俺は、純粋に!その、護衛対象として、聖なるお方をお守りしたいだけだ。そして、お前は悪だ、影。だから切り捨てる!」

「ぷふっ!!まさか、本当に・・・ぷっ。騎士さん、騎士ってそういう人多いよね~君もそっち側だとは。」

「何の話だ!本当に切り捨てるぞ!?」

「本当に何の話だよ。ハーニス、それ以上アムレットを意味の分からない言葉であおるな。アムレットも、仲間に剣を向けるなんてやめろよ。物騒だぞ。」

「これは失礼いたしました。」

「ぷっ。」

 素直に剣をしまったアムレットを見て、ハーニスが噴出した。だから、あおるなって。


 再び手を剣にかけて身構えるアムレットを、手を振って止める。


「やめろよ!お前もすぐに激情し過ぎだって・・・ふぐ!?」

 アムレットは俺の口をふさいでから、俺を背にかばうような立ち位置に着いた。鋭い視線はハーニスではなく、洞窟の奥、光の届かない暗闇に向けられている。

 ハーニスを見れば、彼も笑みを引っ込めて同じ方を見ていた。


「騎士さんはセイトを守って。僕が行くよ。」

「気を付けろ。」

「わかってるって。セイト、騎士さんから離れないでね。」

 軽く俺に目配せをしてから、音もなくハーニスは消えた。


 この奥に、何かいるのだろうか・・・



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