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18 狩り



 子爵領の広大な畑の上に、俺たちは立っていた。

 もちろん、この土地に魔力を流すためだ。そのために用意された魔法陣の上に立ち、俺は言われるがまま祈りを捧げる。ポーズだけだけどな。


 近くで子爵一家と共に、いつもの顔ぶれが俺を見守っている。遠くからは、ここの領民たちが俺と同じように祈るようなポーズをしている様子が見えた。こちらは本当に祈っているのだろう。


「手をお上げください。」

 俺の背後に立つアムレットが、俺だけに聞こえる声量で次にやるべきことを指示する。俺は、その指示に従って手を上げた。

 すると、辺り一帯を包み込む光が発生する。


「おぉ!」

「神の御業だ・・・」

「聖女様・・・」

 ざわざわと遠くから感嘆の声が上がるが、ただのマリアの魔法だ。マリアが光の魔法を使っただけで、この光自体には何の効果もない。あるとしたら目つぶしの効果くらいだ。


「戻ります。子爵について歩いてください。」

「・・・これだけかよ。」

「ただのパフォーマンスですから。」

「まぁ、必要もないことに時間を取られるよりはいいか。」

 こうして、俺の子爵領での任務は終わった。

 実際に魔力はヘレーナがすでに土地に流したという話なので、そのうち効果があらわれるだろう。次回は豊作とまではいかないが、凶作にはならないことを祈る。


 効果がなくて悪く思われるのは、表向き儀式をした俺だもんな。




 儀式が終わって、ヘレーナから次の目的地を言い渡された俺たちは、子爵に領地を出ることを伝えた。すると、俺は子爵から狩りの誘いを受けた。

 狩りか。異世界ぽくっていいな!やるに決まっているだろう!


 2つ返事で受けた俺は、浅はかだった・・・




 馬に乗ること1時間・・・またが痛いし、とても恥ずかしい思いを俺はしていた。何でかって?俺が馬に乗ったことが無いからという理由で、アムレットと馬の2ケツをしているからだよ!


 俺は、アムレットの前に座っている。何でかって?俺の方が身長が低いからだよ!


「聖なるお方、乗り心地はいかがですか?」

「最悪だよ。」

「申し訳ございません。」

「お前のせいじゃねーよ。俺が考えなしなのがいけなかった。」

 狩りという響きに惑わされて、ここが現実ということを忘れていた。ゲームじゃないんだから、移動に時間はかかるし大変だ。


「あ。」

「どうかいたしましたか?」

 そうだ、ここは現実だ。ボタン一つで攻撃ができる世界ではないんだ。


「・・・アムレット、狩りってどうやってやるんだ?」

「・・・まさか、やったことがないのですか?」

「ない・・・現実ではない。」

 ゲームではあるけど、現実で狩りなんて今どきやらねーよ!

 だからこそやりたいと思ったんだけど。


「狩りは、貴族の男のたしなみですが。」

「残念ながら、俺の世界ではそうじゃなかった。詳しくは知らないが、おそらく狩りは禁止されていると思う。生き物を殺すことはよくないことだと教えられたからな。」

 だいたい、動物自体あまり見かけないし・・・いや、犬猫は見るけど、食べ物じゃねーしな。あと、狩りといえば猟銃だろうし、まずそんなものお目にかかったこともない。


 てか俺、血とか大丈夫か?動物の死体なんて・・・殺されるところなんて・・・俺が殺すなんて・・・うわ、考えただけでも気持ち悪い。


「アムレット、まずい・・・」

「どうかいたしましたか?」

「俺、生き物を殺せないかも。いや、殺されるところを見るのも無理かもしれない。」

「・・・なぜ、誘いを受けたのですか?」

 本当に、それだよ。俺が浅はかだった。


「アムレットは平気か?血がわっと出て、内臓とか飛び出たりするのを見たり・・・断末魔を聞いたり・・・恨みがましくこっちを見る目とか。さっきまで生きていたやつが死ぬとか・・・無理だ。想像だけで無理だ。」

「・・・俺は平気です。」

「強いんだな。俺なんて・・・はぁ。」

「強いですか?俺には当たり前のこと過ぎて、別に感じることはありません。ただ、聖なるお方がそう思われると聞いて、あなた様が慈悲深いのだと感じましたよ。聖なるお方は、そのままでいいと俺は思います。」

「いやいや、駄目だろ普通に。これから何が起こるかもわからないのに、血が怖いとか、生き物が死ぬのが怖いとか・・・」

 おかしいな。人間を襲う魔物とか殺して、悪人を切り捨てて・・・とか、異世界生活での妄想をしていたのに、俺にはできそうにないな。


 結局、アムレットから子爵にうまく断りを入れてもらい、狩りは森の散策に変更になった。

 馬から降りて、舗装されていない道を歩くのも大変だったが、これ以上のわがままは言えないと思い、なんとか2時間のハイキングを終えた。長かったわ・・・




 この際、アムレットの説明によって、聖なるお方は血を嫌うという設定が加わった。ま、本当のことだし、「聖」と付くものは血を避けるべきという考えが俺にもあるから、甘んじてその設定を受け入れよう。


 ただ、肉料理が減った時は声を大にして言った。


「俺、肉大好きだから!肉は、身体を作る大事な食材だから、絶対に一品は肉料理にしてくれ!」




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