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12 試練



 予定よりもかなり早く会議が終わり、主のもとへと戻る騎士が速足で廊下を進んでいる。

 騎士アムレットは、セイトの部屋へ一直線に戻ってきた。


 セイトの部屋の前に立ち、アムレットは顔色を変える。今すぐ扉をけ破りたい衝動を抑え、いつもより力を込めてノックというよりは殴るように扉を叩いた。


「アムレットです、入ります!」

 飛び込むように部屋に入ったアムレットは、中にいた人物を素早く確認する。立っている護衛2人、いても問題ない人間。そして、あと一人。それは、アムレットの主セイトでなければならないが、全く別の人物がソファでくつろいでいた。


「へ、陛下・・・!?」

「聖女の護衛騎士か。聖女はここにはいないぞ。」

 ソファでくつろぐ人物は、つまらなそうにアムレットにそう伝える。

 この国の王であるハインリヒは、先ほどハーニスとアリスを襲ったものと同一人物だ。セイトを気絶させてハーニスとアリスを担いで隣部屋に待機し、セイトが神官たちに連れていかれるのを確認した後、再びこの部屋に戻ってソファの上でくつろいでいたのだ。


「なら、一体どこへ!」

「さぁな。ただ一つ言えることは、すぐに助けなければ聖女の身は危ういということ。これはお前たちに与える試練だ。」

「試練・・・そんなことで、彼の身を危険にさらしたのですか!」

「落ち着きなよ、騎士さん。目星はついているから、今から行けば間に合うよ。」

「影か。お前、心配ではないのか?なぜ、お前は平然としていられる!?」

「落ち着けって、言っているでしょ。冷静さを失えば、それだけ危険度は増す。僕だって、今すぐにでも助けに行きたいんだ。だから、まずおち」

「これが落ち着いていられるか!俺は、行く!」

 王にあいさつもせず退室しようとするアムレットを、マリアが止める。


「行くって、どこにですか!」

「・・・あの方に、夜這いを仕掛けようとしたクズどもの家を周る!」

「はぁ。試練を課せられるだけのことはある。」

 呆れた様子の王は、好きにしろとでもいう風に手をひらひらと雑に振った。


「騎士さん、僕は神官が怪しいと思うよ。」

「神官だと?あいつらは、聖女様に一番期待していた。そんなことがあるわけ・・・」

「だからだよ。わからないの、騎士さん。期待してたからこそ、裏切られたと思ったんじゃないの?」

「・・・」

 アムレットの脳裏には、セイトの性別や魔法を使えず努力している姿が浮かぶ。


「神官の一部に、怪しい動きをしている者もいた。普段神殿に出入りしないものがいたり、聖女についてさらに調べるものがいたり・・・まぁ、セイトがあれだから、仕方がないかもしれない。もしかしたら、新しい聖女様を迎えるとか・・・あーもう、とりあえず!」

 影は、アムレットに向かって何かを投げつけた。それを受け取ったアムレットは、それが小さな青い石の付いたネックレスだと知る。


「それ、通行許可証!さっさと、神殿に行って!」

「・・・わかった。」

 神殿は、部外者立ち入り禁止だ。立ち入るには許可が必要だが、これがあれば入れる。

 アムレットは、神殿へと向かった。ハーニスの話は不確定だが、夜這いに来た男たちよりも、神殿の方が怪しいのは確かだ。

 悩んでいる暇はない。



「これでよろしかったでしょうか、陛下。」

「あぁ。あいつだけに向かわせる・・・それに意味がある、だったか。」

「それは、ヘレーナ様がおっしゃったんですか?」

「あぁ。これでレナのおつかいも済んだことだし、俺は戻るぞ。」

「あの、ハインリヒ様。ヘレーナ様は何の意図があって、このようなことをなさったんですか?ハインリヒ様までお使いになられてまで・・・」

「俺と、顔を合わせて話がしたかったから・・・だと嬉しいんだがな。」


「おそらく、護衛との信頼関係を作らせるため。あとは、神殿のグレーを黒にするためだ。怪しいだけだとこちらから手が出せないからな、あちらから手を出してもらう必要がある。」

「・・・つまり、神官たちはヘレーナ様の罠にかかったと?」

「そういうことだ。あんな見え透いた罠にかかるやつがいるとはな・・・さて、今度こそ俺は戻る。執務が残っているからな。」

「はい。お仕事頑張ってください、ハインリヒ様!」

「あぁ、お前たちもな。」

 王が退室した後、残った護衛の2人はただ主人と騎士の帰りを待った。この試練は、2人のために用意されたものなのだ、彼らにできることは待つことだけだった。




 俺は、アムレットがかぶせたマントのせいで、周囲の状況を把握することができなかった。それは、俺を思ってやってくれたことなのだろうが。


「ぎゃっ!」

「化け物がっ!」

「や、やめてくれ!」

「神よっ!神よっ!」

「うわあああああああっ!」

 グシャ。ボキ。ドンっ!


 怖い、マジで怖い。

 何も見えないから、妄想が広がってしまうから、きっと見えているより怖いぞ!


 肉がつぶれる音とか、骨が折れる音とか!気のせいだよ、そんなことするわけないだろ?ただの妄想だよ、ほんと。

 明らかに戦闘向きではない神官たちにそこまではしないだろ。全く、紛らわしい音だなぁ。ははっ!


「・・・」

「・・・」

 ぐちゃっ。くちゃっ。ぐちゃっ。

 もう、誰も声を発さない。聞こえるのは、規則正しく聞こえる生々しい音だけだ。


 浮かぶのは、神官が化け物に捕食されている姿・・・な、わけないな!化け物なんていなかったし!まぁ、化け物とか・・・叫んでいたけど。


「・・・あ、アムレット・・・」

 ぐちゃっ!

 ひときわ大きな音が鳴って、先ほどまで聞こえていた音がしなくなった。怖いんだけど!


「い、いるよな?アムレット・・・っ」

 やばい。マジで化け物が現れたのか!?そしたら、声をかけたことは間違いだ!まずい、まずいどうしよう!


 何かが、こちらに近づく気配がした。

 あ、アムレットだよな!・・・だよな?


 かちゃっ。


 腕を拘束している枷が外された。

 次々と外される枷。全てが外されて自由になった俺は、かぶせられたマントに手をかけたが、その手を掴まれた。


「なっ!?」

「申し訳ございません、どうかこのままで。部屋まで俺がお連れしますから。」

「っは、はい?うわっ!」

 アムレットの声が聞こえたかと思えば、俺は背中を支えられてひざ下に腕を入れられた。そのまま、体が浮く。抱きあげられた!?


「え?ちょ、待てよ。」

「軽い・・・」

「・・・は?」

「きちんと、食事はとってください・・・いいえ、すみません。俺がいけないんですね。俺が、頼りないから安心して食事もとれない・・・」

「は?」

 こいつ、何言ってんの?

 今朝だって、出された朝食は残さず食べたぞ?昨日は、おやつも食べたし・・・てか、ほぼ毎日おやつ食べてるし・・・


「とにかく、出ます。ここは空気が悪い。」

「あ、あぁ。」

 俺は抱えられているので、抵抗することもできないし、別に抵抗する気もなかったので、そのままアムレットに任せた。




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