11 儀式
さて、今の状況を説明しよう。
俺は、たった一人薄暗い部屋で、寝そべっていた。なんか、部屋の中央に台座?みたいなもんがあって、俺はそこで寝そべっている。ちなみに、手足は拘束されてて動けねー・・・
マジで何があったんだっけ?
あ、そうだ。部屋で魔法の練習してたら、黒いローブの男が入って来て、マリアとハーニスを瞬殺・・・いや、殺されてないけど、倒されたんだよ。そしたら、2人を抱えてどこかに行こうとしているもんだから、俺はとっさに男に飛び掛かって・・・気づいたらここにいた。
つまり、俺は誰かに捕まったわけだな。
「・・・まずい。」
俺の護衛3人のうち2人が倒された。おそらく、俺と同じように捕まって身動きが取れないはずだ。そして、最後の希望となるアムレットだが、助けに来てくれるだろうか?
いや、命に代えても俺を守るとか言っていたし、助ける気はあると思う。だが、ここにいるって、わからないだろう。俺もどこにいるのかわからないし。
どうすることもできない俺は、ただ部屋の扉が開かれるのを待つ。
扉の先にいるのが、助けだと思って・・・
そして、ちょうど扉を見つめている時に、ゆっくりと扉が開かれた。
「お目覚めのようですね、聖女様。」
「・・・誰?」
中に入ってきたのは、白くゆったりとした服を着た男だった。エルズムが着ている服に似ているので、神官だろうか?同じような服装の男が、ぞろぞろと部屋に入り俺の周りを囲った。威圧感がすごい。
というか、さっきこいつ俺のことを聖女と言ってなかったか?そのとき、俺の脳裏によぎったのは、夜這いの件だ。俺を聖女、女と間違えた男が夜這いに来たという、あの話。
「お、俺は男だぞ!」
「左様ですね。」
「・・・あれ?」
「聖女様、ご安心ください。我々は聖女様が男性であると理解しております。」
「だ、だよなー・・・」
俺の姿を見て、あれ女子だよな?と思うやつはいないと思う。女顔ではないし、体型を見ればすぐに男だと分かるだろう。
「なら、俺のことを聖女って呼ぶのはやめてくれ。俺はセイトだ。」
「いいえ、あなた様は聖女様です。我が国を救う、慈悲深きお方なのです。ですが、私共は理解しております。あなた様には、我が国を救う力がないことを。」
「・・・確かに、俺に力はない。なら、そんな俺に何の用だよ?」
俺のことを聖女と持ち上げたり、力がないと事実を突きつけたり、こいつらが俺を縛り付ける理由が全く分からない。
「力の無いあなた様を、本来あるべき姿に戻し、力を発揮していただきたいのです。そのための儀式を、今から執り行います。」
「本来の姿・・・」
何それ、かっこいいじゃん!
「なんだ、そういうことならもっと早く言ってくれよ。何も聞かされていなかったから、これから何かのいけにえにでも捧げられるのかと思ったぜ。」
「滅相もございません。我らを救う救世主に、なぜそのような愚行を・・・ご安心ください、すぐに本来あるべき姿へと戻しましょう。ですが、聖女様にここまで理解していただけるとは思いませんでした。もっと早くに、お話しするべきでしたね。」
「まったくだぜ。話してくれれば、護衛たちが痛い目に合わずに済んだのによ。」
「・・・護衛とは、アムレットのことでしょうか?」
「いや、マリアとハーニスだよ。ぶっ飛ばされちゃって、痛そうだったぞ。」
「・・・」
俺と話していた男が、そばに控えていた男と二、三言、話をして俺に向き直った。
「どうやら、聖女様は混乱なされているようですね。我々が聖女様の部屋に侵入したとき、護衛の者はだれ一人としておりませんでした。聖女様は、ソファの上でうたた寝をしていらしたようですよ。」
「え?」
どういうことだ?確かに、マリアとハーニスはいて、部屋に侵入してきた男に倒された。夢じゃない、はっきりと覚えているんだ。
まさか、こいつらとは違う、別の手のものだったのか?
確か、アリアとハーニスが倒れた後、男は2人を抱えた。おそらく、何処かへ連れて行こうとしていたのだろう。あいつの目的は2人で、この神官たちの目的は俺だけだった・・・
2人は、無事なのか?
「聖女様、混乱しているところ申し訳ございませんが、始めさせていただきます。」
そう言って、男は銀色に輝くメスを手にした。
「な、お前!これから儀式をするって言ったじゃないか!」
「はい。今から儀式を執り行いますよ。あなた様を本来の姿、女性の姿になって頂く儀式を。ご安心ください、この儀式は神官も一部行っている、安全の保障された儀式でございます。」
「は?・・・俺を、女性に?」
冷や汗が流れ落ちた。
ビリビリっ!
俺の着ていた服・・・ズボンが、ナイフを使って破かれた。
「・・・じょ・・・冗談だよな?」
「恐れることはありません。穢れを落とすだけです。」
「落とす!?」
落とすって、何を!斬りおとすって意味だよな、アレを!
「ま、待ってくれ、話し合おうじゃないか。」
「儀式が終われば、言葉を交わす時間はいくらでもありますよ。」
「終わってからじゃ遅せーんだよ!」
ズボンは、完全に使い物にならない布切れと化し、俺は下半身にパンツと靴下だけという、情けない姿だ。そして、そんな俺のパンツを、最後の砦にナイフがあてられる。
「や、やめろ!」
ビリっ
「やめろぉおおおおおおおおおおおお!」
俺のむなしい叫びは、何の意味もなさなかった。パンツの破れる音が、部屋に響いた。
「セイト!」
ドカンっと、扉が吹き飛んだ。扉に巻き込まれて、何人かの神官が俺の視界から消える。
「許さないぞ、お前ら!」
ドンっ!またも、神官が視界から消える。地面に倒れこんだのだ。
「あなたは・・・アムレット!なぜ、会議中では!?」
「アム・・・レット・・・」
「セイト!・・・お前ら、覚悟はできているだろうな!」
情けない声を出した俺に、アムレットは自分のマントをかけてくれた。それは、俺の顔から太ももまで覆い隠す。
「耳をふさいでいろ。すぐに終わる。」
かっこよく言い放つアムレットに、俺は弱弱しく言った。
「いや・・・無理だから。」
俺、四肢を拘束されているからな?