ただ、それだけ。
初投稿です。語彙力はみじんこ並みです。
個人的に思った事をただ書きなぐっているのでご容赦を。。。
自分のことをどのくらい知っているだろうか。私自身ではマイペースで気分屋なんだと思う。他の人からどう思われているか気になり、思い切って職場の同僚に聞いてみた。
「んー、柏野さんは周りの事をよく気に掛けていてしっかりしているし。面倒見が良いと僕は思ってますよ!」
私を見下ろしながら目の前に立っている土井さんは、目を細め、はにかみながら答える。
「しっかり…面倒見が良い…」
顎に手を添え、そんな自分を私はイメージする。
「あれ?僕なんか変な事言っちゃいましたか?」
「え、いえ、…そう言われた事なかったので、少し意外でした」
「そうなんですね、まあ、僕から見た感じなので」
不思議そうに首を傾げる。そりゃ急にこんな事聞かれれば、どうしたのか気になるだろう。私はふむふむとうなづきながら、休憩室の壁に寄り掛かかる。
特に言葉を返す事は無かったが、彼は離れるでもなくスマホを片手にいじりだす。
電線とビルしか見えない窓を眺めていると、
「なんか、悩みですか?」
宥めるような、低い声がポツリと溢れる。
悩み…と言うほどでもないのだが、胸元がとてもモヤモヤしていてとても気持ち悪い。脳裏では薄気味悪い笑い方の奴の顔が浮かぶ。
私の返事が無いからか、彼はジャケットの内ポケットからタバコを取り出し吸い始める。
「…私あまりタバコの臭い好きじゃないです」
「ふふ、じゃあ離れればいいじゃないですか」
口角を上げて見下ろしながら得意げにこちらを見てくる。調子に乗り出したのだろう、私は呆れて小さくため息を吐き入り口へ向かう。
「僕、そうやってちゃんと態度に表してくれる人好きですよ」
「はいはい、先にデスクに戻るわ」
こんなやりとりは日常茶飯事になりつつある。彼には特別な感情も湧かない。だが、こんなたわいもない会話ができる数少ない人である。
なんとか残業も無く定時で上がれるだろう。荷物をまとめてロビーへ向かう。
「柏野くん!」
後方から呼ばれ背筋がゾクッとし、肩に力が入る。奴だ。
「いやぁ、君と会うのは実に久しぶりじゃないか」
「えっと、そうでしたね。佐々木部長もお元気そうで何よりです」
正直もう帰りたい。赤い帽子のおじさんのゲームにあるようなBダッシュを決め込みたい所だが、相手が相手だ。
表情筋を保つので精一杯だ。
「君も頑張っているそうじゃないか、このあいだの企画だって素晴らしかったよ」
まずい。また始まる。
「ただ、頑張りすぎる事が多いみたいだし前までは遅くまでパソコンに向かっていたそうじゃないか」
「そ、んなことはないですよ…」
部長の左腕が伸び、私の肩に手を置く。
「そう言うところ、まったく…でもそんなところも知ってるさ」
あの笑み。そして何より。
あなたは私の何を知っていると言うのだ。
「さて、私は行くよ。またね」
一礼をして私はすぐにトイレへ駆け込む。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪いっ!!!
まるで私の事を知っているかのような口振り。無性に気持ち悪い。
優秀でもない。しっかり者でもない。頑張り屋でもない。
何より、私自身の事が自分でもわからないと言うのに。
「うぐっ…」
こんな事で考え過ぎだろうか。おかしいのだろうか。普通だったら受け流せるものなのだろうか。
ただ私は、自分の事を知っているかの様に言われるのが嫌なのだろう。
…こんな所にいても何も解決しない。取り敢えず、早く家に帰って寝てしまおう。
まだ表情は酷いものだろうが、背筋を伸ばし出入り口に足を進める。
「顔、まだ酷いですよ」
通路の壁に寄りかかってこちらをじっと見てくる。
「…何でいるんです」
「帰ろうとしてる所を見かけて、そしたらたまたまですよ」
「土井さんって…私のストーカーですか?」
「うわぁ、さすがにそれは傷つきますよ」
そう言って近づき私のカバンを持ち歩きだす。
「ちょ、いいですって」
引き止めようとしたかったが、身体中あまり力が入らず任せる事にした。
そのまま、特に話題があるわけでは無く歩幅を合わせて歩いてくれるあたり社内の女性に人気があるのも理解できる。
いつの間にタクシーを呼んでいたのか、会社近くの公園で見送られる。
「柏野さん、また明日休憩所で。僕がコーヒー奢りますよ」
「…ふふっ、どうせ缶コーヒーでしょ」
「バレましたか、ではお気を付けて」
車のミラーに映る彼がどんどん小さくなっていく。
何やかんや、お節介なんだろう。
身体のだるさも少し引き、家に着くまで心地よい揺れに身を任せた。
終