陰陽の里 ②
現在、春香は洞窟の中に閉じ込められて、一週間生きていかなきゃならない。
これも、陰陽師の修行の一つなのだ。とはいえ、これをまだ子供である春香にさせるのはあんまりだと思う。
「どうして、こんなことしなくちゃいけないの、私たちは。」
そう、陰陽師になるということは陰陽寮の全員が望んでいる訳ではなかった。
「陰陽の里に生まれた者は幼き時から陰陽師の修行に励め」
里の決まりなのだ。成人するまでは陰陽師の修行をしなければならない。3歳のうちに親に陰陽寮に預けられ、
20歳に親の元へ帰る。なので、親に返されるずっと前には誰もが親の顔をを忘れてしまうのだ。親の存在も忘れてしまった者も何人かいる。春香ももう、親がどんな顔をしていたのかも、どんな声をしていたかも、親とは何なのかさえ忘れていた。何度か、自分の顔も声も知らない親を恨んでいた時があった。弟の明楽が来た時もピンと来なかった。それは、明楽も同じではあったが、明楽はすぐに春香を姉だと認識し、「姉ちゃん」と呼ぶようになった。
春香と同じくらいの年の女の子は今頃、買い物を楽しんだり、店の手伝いをしたり、自分のやりたいことをやったりしているだろう。それなのに、自分は暗くて何もない洞窟の中で一人で過ごさないといけないのだ。
だがしかし、春香はこの人生を最悪だとは思わなかった。こんなことがなければ、得られないものがあったからだ。春香は結界術を完全にマスターしていた。式神も使えないわけではない。それ以外にもできるようになったことがあった。何より、恵瑠やミア、たくさんの人に出会った。特にミアは大の友人だし、恵瑠だってかけがえのない友人だった。そして、彼女たちがいたから人々の優しさに触れることができた。
「ミアさんに、恵瑠ちゃんに会いたい。そのために、ここで、生き抜かなきゃ・・・!」
春香は大切な友人のために、この修行を、いや、この試練を乗り越える決意をした。
閉じ込められてから、閉じ込められてから、数時間がたった。春香は喉が渇いて、どうすればいいか考えていた。すると、春香の脳内に小さな声が響いた。
「お・・・に・・・・ずが・・・・・・・。」
「え?」
始めは小さすぎて聞き取れなかったが、繰り返し聞こえていくうちに声は大きく、はっきりと聞こえてきた。
「おくに、みずが、あるよ。」
奥に水があるよ。そう聞き取った春香は周りを見渡してみた。すると、春香の後ろに洞窟の奥への道があった。春香は、その道をまっすぐ進んでみると、行き止まり。のところに水たまりがあった。その上から、水がぽたぽたと少しずつ垂れていた。春香は、水たまりの水を両手ですくった。水たまりは浅いため、春香の両手の水はとても少なかった。春香は両手の水を飲んだ。水をすくっては飲み、またすくっては飲み、を繰り返していた。しばらくすると、春香は水を飲むのをやめた。喉が十分潤ったのだろう。
今度は腹を空かせていた。ここは暗くて狭い洞窟の中。たべるものなんて、ない。
「食べるものは、周りにあるよ。」
まただ。また小さな声が春香の脳内に響いた。春香は周りを見渡した。そして、春香は小さなあるものをつまんだ。
昆虫だ。白くて小さな幼虫らしき生物が洞窟で暮らしていた。春香は手でつまんだ昆虫を口に入れた。口の中をもぐもぐと動かすが、吐きそうになっていた。ごっくんと喉をならす。春香は昆虫を食べたのだ。
これから一週間、こんな生活をするのだった。
一週間後、春香は暗い洞窟の中でボーっと座っていた。すると扉の向こうから、ガシャリと、一週間前に聞いた音が再び聞こえた。ギイィィと、一週間開かなかった扉が開き、まぶしい光が差し込む。
「土屋春香。生きていたか。」
扉の向こうにいたのは、阿部和陽。
「し・・・・・しょ・・・・・・・。」
春香は、もうこの生活が終わるのだと思うと、ポロポロと涙をこぼした。
「今まで、よく頑張った。お前には三日の特別休日をやろう。」
「はい・・・。」
それからの三日間、春香は飯をもりもり食べて、恵瑠やミアに会いに行ったりと、楽しい三日間になったのであった。




