陰陽の里 ①
今日も天気は快晴。東の里「陰陽の里」の陰陽寮では、今日も修行に励んでいた。
陰陽寮の朝は4時頃に全員起床、、支度が終わり、全員で外に出て座禅を組み、朝日に向かって呪符のようなものを唱えていた。
「元柱固具、八隅八気、五陽五伸・・・・」
これ、みんな毎日やっているのだ。長く陰陽寮にいれば、どうってことないというが、素人はとてもできることではない。頑張ればできるかもしれないけど。これが終われば、もっときついものが待っている。
陰陽師の使う術は、肉体的にも精神的にも自らを削る激しいものだ。そのため、それに耐えるための身体を普段は練り上げている。肉体の訓練は柔道や空手、居合道などの稽古に励んできた。そして、精神の修業は、苦しいものなのだ。例えば、よくあるのが数日間の断食、一日中木の上から吊るされたり(そこに石を投げてくるいたずら者もいる)、森林をひたすら歩きまわったり・・・・・。
こんなことをほぼ毎日やっているのだ。想像できるか。
朝の日課を終えた春香は、この陰陽寮の師の指示を待っていた、そこへ「姉ちゃん!」と元気な声がする。
「あら、明楽」。
「へへっ」という声を漏らしたこの少年は「土屋 明楽」である。そう、あなたたちはほとんどがお察しだと思うが、春香の弟である。
「姉ちゃんは今日何すんの?」
「まだ指示はもらってないのです。」
「ふぅーん。俺は柔道をやるんだぁー。」
「まあ、がんばってね。」
「姉ちゃんよりも強いから、俺、そんな心配はいらないぜ。」
「な、なにを・・・」
姉弟喧嘩が始まろうとした時、また春香を呼ぶ別の声がした。
「はるかーー!」
春香と明楽は声のしたほうに顔を向けると、こちらに走ってくる女の子がいた。
「酒井 楓」、春香よりも早くこの陰陽寮にきた春香の先輩的存在だ。春香をずっと引っ張ってきた。春香にとっては楓は陰陽寮の中で一番かけがえのない存在だった。
「はい、なんでしょう。」
「師匠が呼んでたよ。」
「はい、わかりました。」
春香は走っていった。
「師匠!」
春香はその高い男を見つけると、彼を、師匠と呼んだ。
「土屋春香、遅いぞ、何やっていたんだ。」
彼は「安陪 和陽」、この陰陽寮の師である。彼は、伝説の陰陽師の血を引いているという噂があるが、伝説の陰陽師のことは十分に残されていないため、何もわからないのである。
「す、すみません。今日の指示を・・・」
「はぁ、もういい、お前は一週間洞窟の中で暮らしてもらう。」
「そ、そんなぁ!?」
「さあ、いくぞ。」
「はい・・・・・。」
春香は和陽に連れられ、陰陽の里の外に出て行った。
時と場所が変わり、ジメジメした洞窟にやってきた。和陽は、春香を洞窟の中に入れると鋼鉄の分厚い扉を閉めようとしたとき、春香はこう呟いた。
「どうしてこんなことを・・・。」
その声を聴いた和陽は、どこか悲しげな顔をし、
「俺だって、やりたくてやってる訳ではない。」
と言って扉を閉めた。
鍵がかかる音が洞窟内に響いたとき、春香は一人ぼっちだった。
これも、修行の一つだ。何も持たせずに洞窟の中に閉じ込め、一人で生きさせる修行。どの修行もたくさんの人間が死んでいったが、この修行が一番死人を出した修行だ。春香はここで一週間生きていかなければならなかった。