緋色の魔導士
ご無沙汰してます。
「たあっ!」
「えいっ!」
戦闘中の掛け声が聞こえる。コウタは剣を振り、サトミはロッドを振り回して、モンスターを叩いて攻撃していた。
「これで最後のようですね。」
サトミは辺りを見渡して、モンスターがいないか確認した。
「ここ何日か、大分歩いた気がするよ。街までもう少しかな?」
「今日中には着けそうですね。」
コウタはこの付近の地図を取り出して道と交互に睨めっこを始めた。二人はこの数日の間に大分打ち解けたみたいで、会話が砕けるようになった。
「街に着いたら、先ずは宿探しかな?」
「そうですね。このペースだと休憩を挿めても、遅くとも夕刻頃には到着できそうですね。」
サトミも横から地図を見て、地図に記載されている目印を見て答えた。
「どいて、どいて、どいてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
いきなり、焦った女性の声が聞こえて来た。その声は二人に向かって近づいて来ている。二人はきょろきょろと辺りを見渡した。すると二人の頭上を勢いよく風が通り抜け、ドゴンッともの凄い音が聞こえた。コウタとサトミは顔を見合わせて、音がした方へと振り返ると、木にぶつかったのか、女の子が倒れていた。
「エルステヒルフェ」
サトミの手が光り、少女の傷を癒していった。少女から呻き声が上がり、眉間に皺が寄る。少女はうっすらと目を開け、一度閉じ、また目を開け、勢いよく起き上がった。
「きゃっ!」
サトミは、その勢いに吃驚して、小さな悲鳴を上げた。少女はぶつぶつ呟いている。
「…勢いよく起き上がって大丈夫ですか。」
コウタはいきなり起き上がった少女を心配して声をかけた。少女はコウタとサトミの声に気が付いて二人を視界に入れると頭を掻きながら苦笑いをした。
「ごめんね。吃驚させたよね?あははは…」
苦笑いを零しながら少女は、フラーと倒れそうになり、コウタが支えた。
「いきなり起き上がると良くないよ。さっき木にぶつかって倒れたでしょ…頭をぶつけているかもしれないから少し安静にした方が良いよ。」
「そうですね。回復魔法はかけましたが、もう少し安静にした方が良いですね。」
二人に言われ、少女は横になった。
「いや、ほんとにごめんね?魔法ぶっ放して移動しててさ、軌道上に人がいて焦ったよ。怪我させなくてよかった。止めようと思ったんだけど、スピード付きすぎてて止めらんなくて…」
横になりながら少女は謝罪をした。
「あ、そうだ。自己紹介してなかったね。私の名前はナミ・ガーネット、御覧の通り魔導士だよ。と言っても、魔法学院に通ってるから見習いみたいなものだね。」
ナミと名乗った少女は快活に自己紹介をした。ナミは緋色の髪をポニーテイルにして、赤いローブを着ている。首にはペンダントをしており、ペンダントトップは三角形の金細工の中央に赤いガーネットと三つの隅に翡翠がついている。
「私はサトミと申します。」
「僕はコウタ…です。」
ナミの自己紹介に乗って、二人も名乗る。
「ふむ、サトミとコウタね?よろしく!所で少年、こんな美少女と二人旅とは、恋人なのかな?」
ナミはニヤニヤしながらコウタのお腹に肘でグリグリと突っついて来た。
「いや、違うよ。」
少し頬を赤らめ、即答する。
「なんだぁ、つまんなーい。」
ナミはがっかりだよ!という様にあからさまに残念がった。
「そんなに残念がらなくてもいいんじゃないかな。」
「いやいや、男女二人パーティーだよ。ロマンスがあるかもしれないじゃない!二人で危機を乗り越えて結ばれる絆…『君は僕が守る!』その言葉にときめく少女、『守られているだけじゃ嫌なの、貴方と共に戦いたい』お互いに助け合い愛を育んで行く二人…素敵じゃない?」
両手を広げ、目を輝かせるナミにコウタは少し引いた。
「僕も小説とかは好きだよ。だけど、貴女は少し恋愛小説に毒されてないかな?」
コウタは重い溜息を吐いた。
「コウタさん、大丈夫ですか。お疲れのようですけど…」
サトミはため息をついたコウタをただ心配した。
「さながら、鈍感系ヒロイン?」
「やめようね。違うからね。」
また一つため息を吐いた。ため息を吐くと幸せが逃げるというが、コウタはこの短時間で幸せが二回分は逃げて行っている。
「君は苦労性主人公?」
まだ小説に例えたキャスティングをするナミに、コウタは呆れ返ってしまった。
話しているうちに辺りが暗くなって来たため、野宿をすることになった。