青い髪の少女III
―――翌朝―――
昨夜、負傷したシスター達は、回復魔法を使えるシスター達に早急に掛けてもらった為、朝までには目を覚ました。聖堂の中は昨夜の戦いでぐしゃぐしゃになってしまった為、立ち入り禁止になっている。動ける上位のシスター達が、教会の総本山に連絡を入れ、新しい神父の派遣と、調査と教会の浄化の為の神官を申請した。
早朝にサトミと依頼を受けた冒険者達と出発する手はずであったので、部屋でコウタは荷造りをしていた。コンコンとノックの音がし、コウタは扉を開けた。
「朝早くに御免なさいね。」
「いえ、大丈夫です。」
訪ねて来たのはシスターマリーであった。
「昨夜は教会の問題に巻き込んでしまい申し訳ありません。そして、有難うございます。」
マリーは頭を下げて続けた。
「昨夜の事と、今回お願いしていた事についてお話しさせて下さい。」
マリーは、コウタとサトミを近くの教会まで連れて行く依頼を受けた冒険者に、昨夜の内に説明に行ったそうだ。エドワードを倒した事で、今回のシスターが精気を抜かれて倒れる事件は幕を下ろした。そして、サトミを非難させる為に旅に出さなくてもよくなった事。冒険者達は、非難させる心配がなくなって良かったと言って、契約破棄に関する違約金を受け取った。
「冒険者の方々と契約は無くなりましたが、その後、サトミと話をしたら、貴方と旅立つと言ったのです。」
マリーは、思い出すように目を瞑った。
マリーは意識が戻って直ぐに冒険者達と依頼に関して話して自室に戻って来た。深夜も回り、エドワードとの戦闘に巻き込まれて、疲れているであろうコウタへの依頼に関しての説明は早朝になった。コウタはエドワードとの戦闘後、事後処理、調査をしていたシスターから、事情聴取を受けていたのもある。
「マリーさん、お加減はいかがでしょうか?」
「あら、サトミ、いらっしゃい。もう大丈夫よ。心配かけたわね。」
自室に戻って、ベッドに腰を掛け一息つくと、部屋にサトミがやって来て、体調の心配をしてきた。サトミは返事を聞いて、良かったと呟き、肩の力を抜いた。
「サトミ、私の所に来たのは、心配していたことの他に何か話す事があるからじゃない?」
「マリーさん、私…」
サトミは一度うつむき、一呼吸置いて、マリーの瞳を見つめ言った。
「私は旅に出ます。」
「それは貴女が私達に迷惑をかけない為というわけではなく?」
サトミは思っていた事を当てられ、少し狼狽えたがそれだじゃないと伝えた。
「そう…時期が来たのね。やはり彼がそうなのかしら?」
マリーの言葉に頷く。
「勇者と共に旅に出る、それが貴女の使命。魔王を倒す為…貴女から聞いてはいたけども、寂しいものね。ここが危ないから、前任でいらした神父様の所に避難させようかと思っていたけれど。」
寂しげな表情を浮かべてクローゼットへと歩いて行った。クローゼットの中から鞄と服を取り出し、サトミへ渡した。
「これは、前々から貴女が旅立つ時の為に用意していたものよ。貴女への餞別です。遠慮なく使いなさい。」
「シスターマリー、ありがとうございます。」
「貴女は私の娘も同然です。いつでも帰って来て良いですからね。」
「ありがとうございます。」
その声は搾り出した様に掠れて、マリーに抱きついたサトミの体は震えていた。
マリーは、閉じていた目を開けて、コウタに向き直り頭を下げた。
「改めてサトミの事をよろしくお願いいたします。」
昨夜の事もあり、一泊して旅立つ事になった。コウタとサトミは目的地を決めるたりすることになった。
「ここから一番近いのは、年老いてしまって転任された神父様がいる町ですね。」
「そうだね。先日の冒険者さん達もこの道にはあまり強いモンスターは出ないといっていたよ。」
「魔王に関しての情報を集めつつ、レベルも上げて、仲間を増やした方がいいですね。」
地図を広げて、今後の方針を固めた。そして、コウタは気になっていたことを聞いた。
「神託の少女って、いったいどんな神託を受けるの?」
「神託ですか?魔王の復活の兆しがあることや、勇者が現れることを頭に直接伝えられるんです。勇者と共に魔王を封印もしくは退治するようにと。そして、旅をサポートする共に戦う仲間を集めるように。」
「そうなんだ。僕が勇者だと気がついたのは…」
「昨夜の光魔法です。それを使われなければ気がつけなかったです。コウタさんの事、普通の男の子だと思っていました。会えばわかると神託を受けていたので…」
コウタの質問に答えるサトミは出会った時の事を思い出しているようだ。コウタは苦笑いを零した。
「うん、僕も自分が勇者とか思えないしね。…昨夜、魔法を使って…ようやくわかったし…」
最後の方はぼそぼそと口を動かしていて、誰にも聞き取れなかった。
「マリーさん、教会の皆も今までお世話になりました。」
「いつでも帰ってきていいですからね。体に気をつけて…」
「皆さんも、お元気で…」
チチチチッ、チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる朝早くにコウタとサトミは教会の門に立って、見送りに来たシスターマリーをはじめとする数名と別れの挨拶をしていた。天気は晴天で二人の旅立ちには幸先が良い。挨拶を済ませると二人は歩き出した。その二人の後ろ姿を見えなくなるまでシスター達は見送り続けた。