青い髪の少女II
戦闘シーンが入るんですが、かっこ良くは書けなかったです。センスや語彙力の無さがヒシヒシと身に感じます。
―――16年前―――
ザーと絶え間無く雨が降る夜更けの事だった。その日は夜になってからポツポツと雨足が強まり始め、夜更けには激しい雨となったのだ。居住区から外に繋がる裏戸を叩く音がした。一人のシスターが執務室で当時の神父と仕事の話をしていて、部屋に戻ろうと裏戸の近くを偶々通り、その音に気がついた。裏戸に近づき、誰かを訪ねた。
「夜分遅くにすみません。私は旅の者です。お願いがあります。」
女性は言った。シスターは、雨が激しいので、建物の中に入ってもらうことにした。
応接室でシスターと神父は、女性に温かい飲み物とタオルを渡し、席へ促した。女性は、感謝を述べたが、外套を着たまま、すぐ出るからと立ったまま話に入った。よく見ると彼女は籠を大事そうに抱えていた。そこまで濡れてないところを見ると、外套で庇いながら来たらしい。
「雨が激しく困っていたのです。中に入れてくださり感謝いたします。」
女性は深々と頭を下げた。
「困っている方を助けるのが我々の使命です。お気になさらず。」
神父は穏やかに微笑んだ。籠の中から微かに声が聞こえた。
「そちらの籠は…」
シスターは女性に尋ねた。女性は籠にかかっていたタオルを取り、シスターに渡す。中にはふかふかのタオルに包まれた可愛らしい…
「赤ん坊です。名前はサトミと申します。この子の両親に頼まれまして、こちらの教会を訪ねさせていただきました。この子の事をここで預かって育てて頂きたいんです。」
女性は真剣な顔つきで言ってきた。シスターや神父は親がいるのにどうしてなのか問うと、
「言い訳かもしれませんが、捨てるわけではないのです。育てられなくて捨てるわけではないのです。この子の母親も父親も手放したいわけではないのです。ですが、私から理由は述べられません。失礼を承知しています。お願いです。この子を預かって頂きたいのです。こちらはこの子の両親からの手紙です。時期が来るまででいいのです。」
女性は必死にお願いをしてきたのだ。神父は赤ん坊を預かることにした。サトミには預かっているということを伏せている。シスター見習いではないのはそのためだ。
「これがサトミが来た経緯です。今は私以外知りません。その場にいた当時の神父と私だけが知っている内容です。」
シスターマリーは語り終えると、一息吐いた。コウタはマリーに疑問に思った事を聞いた。
「サトミさんは時期が来るまで教会に居るんですよね。何故、今、教会から出すのですか。そして、その女性が渡したご両親の手紙とは…」
「何故、今かと申しますと、先程話した事件もありますが、貴方が現れた事もあります。詳細は話せませんが…手紙は当時の神父様と私だけが知る内容です。申し訳ありませんが、他言する事はできません。お約束なので…サトミも知りません。」
話せない内容が多いが、マリーはサトミの事をだいぶ心配している事が分かる。
「明日、サトミを連れて出てください。サトミの荷物は私が用意しいてます。お願いします。」
「サトミさんは明日出る事を知っているんですか?」
深々と頭を下げるマリーの頭を見つめて問いかけた。
「明日の早朝に話して、そのまま旅立って頂くつもりです。万が一のためです。サトミが旅支度をしていると知られたくないですから…」
「僕たちに話しても同じじゃ…」
コウタは瞳を揺らす。
「私は、本日のこの時間、個別相談、治療する為に冒険者の部屋に訪問していることになっています。内容を貴方が漏らす事はないでしょう?」
「僕に話しても承諾するかは…」
コウタは目を伏せた。マリーは自分の性格を把握しているのだろう、不安事項である護衛も探してある。ここまでして断られる事はないと。
「貴方は引き受けてくれると思っております。」
真剣な眼差しでコウタを射抜く。
「サトミは私がずっと育ててきた娘の様な存在です。お願いします。」
コウタはお人好しだ。こういうのに弱いのだ。
「わかりました。サトミさんを連れて教会を出ます。」
マリーに押し切られ、コウタは一つ息を吐き出した。
「ありがとうございます。サトミの事宜しくお願いします。」
マリーの瞳に光る粒が見えた。
マリーはコウタに明日の出立時間とサトミを連れて行く場所について書かれた紙と手紙を預かった。
「この場所に着いたら、この手紙はそこに居る当時のここの神父に渡して下さい。」
そうしてマリーは部屋から去って行った。
聖堂に一人の人影がある。祈りを捧げているのか、膝を着いて、手を合わせて俯いている。
ひたひたと聖堂内に音が聞こえてきた。その音は祈りを捧げている人物に少しずつ近づいていく。
「誰かいるのですか?」
聖堂に凛とした声が響いた。ひたひたとした足音は祈りを捧げる人物の三メートル程前で止まった。祈っていた人物は後ろを振り返った。
「―――でしたか。」
振り返った人物が口を開いたとたんに雷が鳴った。その光に少女と黒い男の姿が照らされた。
コウタは雷にびっくりして起きた。もう一度寝ようと目を瞑るが目が覚めてしまって眠れない。何か、不安に駆られる様な気がする。眠れないので前にサトミから聞いた様に、この時間に開いている聖堂に行って、心を落ち着かせようと思い、部屋から出た。
廊下はしんとしている。この静寂に包まれる暗い廊下が何か不穏な空気を醸し出している感じがした。少し不気味さを感じながら、コウタは廊下を進んで、階段を降り、聖堂にたどり着いた。
聖堂の中から人の気配を感じ、コウタは扉を開けた。
「おや、この様な時間にいかが致しましたか?」
黒い男が少女にニコニコと人好きしそうな顔を向けて尋ねた。
「寝付けない為、祈りを捧げていました。」
「この様な時間に部屋から出るのは頂けませんね。」
少女の返答に黒い男は窘める様に声をかける。
「聖堂にはいつでも祈りを捧げれるようにと立ち入りは禁止されていません。」
「貴女もシスター見習いならば、就寝時間を守りなさい。私が部屋まで送りましょう。」
男は優しい笑顔を浮かべ、更に近寄って来た。
「申し訳ありません。もう少ししましたら部屋に戻りますので結構です。」
少女は距離を置こうと離れた。しかし、男はしつこく距離を詰めてくる。一定の距離を置くため一歩後退しては男も一歩詰めてくる。
「どうしたんですか、距離を置いて。」
「いえ、そちらが近付いて来ますので…」
少女は一定の距離を置いていたが、とうとう壁際に置いやられてしまった。
「何故、距離を置くのです。」
「何故、距離を詰めるのでしょうか。」
会話も変わらない。男は少女に手を伸ばした。
「何もしませんよ?ただ部屋に送るだけです。」
「貴方は本当にエドワード神父でしょうか?」
「どうしてそう思うのです。」
「………」
少女は沈黙し、男を見た。だが、視線は男を見ている様で背後や頭に行っている。
「私は、エドワードですよ。間違いなく。」
エドワードの手が触れそうになった瞬間、キィィィンと見えない壁に弾かれた。
「くっ!?」
エドワードは目を見開き、口角を上げた。
「当たりか?漸く見つけた、し…」
男が呟いたのと同時に聖堂の扉が開いた。男は扉へ振り向いて、入って来た人物に声をかけた。
「おや、旅人の少年ですね。貴方も祈りを捧げにいらしたのですか。申し訳無いのですが、本日は聖堂を解放…」
途中まで話していて、入って来た少年―コウタ―の視線がエドワードの姿を信じられない様に見つめているのに気がついた。
「え、神父様?その姿はいったい…」
問いかけられたエドワードは自分の姿がいつもと同じ姿に見えていない事に焦る。コウタと少女の二人の瞳には、異形の者に映っている。頭には山羊の様な角、背中には蝙蝠の様な羽、所謂悪魔の様な姿。
「魔族…」
「コウタさん逃げて下さい!」
少女の言葉に、エドワードを見つめていたコウタはエドワードの影に隠れていた少女に気がついた。
「サトミさん?」
恐る恐る名前を尋ねる。サトミであると返事をして、再度、コウタに逃げる様に言う。
「今の私達では魔族に敵うかどうか、シスターを呼んできて下さい。この人が狙っているのは私です。」
コウタは、少し躊躇いを見せたが、シスターの所に駆けていった。
コウタは聖堂から出ると真っ先に執務室がある廊下で大きい声を出した。すると三部屋の内の真ん中の部屋からシスターマリーと奥の部屋から夜勤のシスターが姿を見せた。コウタは、マリー達にサトミが聖堂で魔族と対峙していることを伝えた。夜勤のシスターは部屋の中に入り、部屋の中にいるシスターに声をかける。一人のシスターは、聖堂とは逆方向に廊下を駆けて行った。残った四人のシスターとマリーは、聖水やら何か道具を持って聖堂へと続いた。
コウタを見送ったエドワードは問いかける。
「戦力として一緒に戦って頂いた方が良かったんではないですか?」
「コウタさんは新人の旅人さんです。実践経験に乏しい方がいきなり魔族と戦うのは困難です。」
「あなたは壁に追い込められているのですよ?状況がわかっていないのですか?」
サトミはペンダントを服の上から握る。
「あなたは先程、私に触れませんでした。時間稼ぎにはなるはずです。」
サトミから光が発し、エドワードはよろけ、道を開けてしまった。サトミはその隙をついてエドワードの横をすり抜けて離れた。
「くぅっ、目が…油断しました。私の力として、ゆっくりと精気を吸い取っていこうかと思いましたが、覚醒しているみたいですね。まあ、まだ弱い内に殺してしまいましょう。」
エドワードは黒い波動を放ってきた。サトミはペンダントを握り締め祈ると、周りに光の壁が現れ、それを防ぐ。
「いつまで耐えられるでしょうか?」
黒い波動の勢いが増すにつれて、ペンダントを握る手が強くなり、サトミの眉間に皺が寄る。
「もう少し…」
バンッ、と聖堂の扉が勢いよく開き、マリーをはじめとするシスター達とコウタが入ってきた。聖水を持ったシスター二人は詠唱を始め、残り二人はナイフや銃を持ってエドワードに攻撃を仕掛けた。シスター達からの攻撃に気を取られ、サトミへの攻撃が止んだところにマリーとコウタが駆け付けた。
「大丈夫?」
「はい、助かりました。」
サトミは、力が抜け座り込んだ。マリーがサトミに怪我がないか確認し、コウタにサトミを連れてここから離れるように言った。
「シスターマリー、援助をお願いします。」
マリーは四人のシスター達の所へ駆けて行ってしまう。コウタはサトミを連れて聖堂を出ようとした。しかし、それに気が付いたエドワードに聖堂の扉の前に天使の像を投げつけられ、塞がれてしまった。
「シスター達を囮に逃げようとしても無駄ですよ。」
口の端を釣り上げて冷酷そうに笑った。
「まず五人まとめて片づけてしまいましょうか。」
強い波動がシスター達を襲った。防御が間に合わなかったシスターの二人が壁に打ち付けられる。二人は気絶しているのか意識はない。シスターの一人が急いで回復魔法を掛ける。マリーは聖魔法を掛けたナイフをエドワードに放った。マリーが放ったナイフに気をとられている隙に、もう一人が光魔法を放った。エドワードはナイフを避けたが光魔法を食らう。お返しにと手を振り上げた。エドワードの周りに熱風が吹き、近づけない。シスター達は防ぐので精一杯だ。さらにエドワードは熱風に混ぜて攻撃を仕掛けてきた。三人は防ぎきることができずに床に倒れてしまった。
「後は、そこの少年と貴女だけですね。」
エドワードは、風の刃を放って来た。コウタは、サトミを後ろに庇った。すると風の刃は見えない壁に遮られ消えた。
(え、俺、魔法使ってないんだけど…サトミさん?)
コウタは振り返り、サトミを見るが、サトミは驚愕した顔をしていた。
「何故⁉︎何故当たらないのです‼︎」
エドワードは何回も風の刃を打ち出して来たが、光の壁に遮られる。コウタは握った手が熱いことに気づいた。手を前に出すと、光が集まり剣の形になる。
「光の剣…」
背後からぼそりと聞こえた。コウタは光の剣を握るとエドワードまで駆けて行き、光の剣を振るう。距離を詰められたエドワードは接近戦に切り替えて、迎え撃とうとした。しかし、攻撃は当たらず、一振りされた光の剣による波動を受けた。
「くそっ!!何ですか、その力は?」
かなりのダメージを受けたエドワードは逃げようとしたが、ダメージを受けすぎて、動きが鈍くなった。そこにコウタは、もう一振り剣を振るった。
ぎゃああぁぁぁ!!と断末魔を上げてエドワードは塵となって消えた。
エドワードが消えた後、コウタははぁはぁと肩で息をし、床に座り込んだ。この力は何であるのか。いや、ある程度は想像できているのだ。認めれるかどうかは別として…
「コウタさん、ありがとうございます。」
サトミが立ち上がり駆け寄って来た。いつのまにか、聖堂と廊下を繋ぐ扉が開いていて、天使の像が避けられていた。シスターマリーと四人のシスターは駆けつけたシスターや冒険者達に担架に乗せられ、医務室に運ばれて行った。
それを横目に見送って、サトミを見つめる。少しの間、二人に静寂が訪れる。先に話出したのはサトミだった。
「私は、神託を授かりました。」
「神託の少女…」
「そうです。詳細は知りませんが、今回の事件、神託を受けた若い娘を探す為に起こったと考えるべきですよね。」
サトミの表情が曇る。
「また、狙いに来るのでしょうか。」
「…それは、なんとも言えない…かな…」
「…また、魔族が来るのでしたら、ここの人達を巻き込んでしまいます。シスター達、子供達と離れたくありません。ですが、離れないと…」
サトミの頬に光るものが見えたが、黙って聞いていた。そして、決意したかのように、目元を拭い、コウタと目を合わせた。
「勇者様、お願いいたします。私と魔王討伐の旅に出て頂けませんか。」
コウタは、魔王討伐の為に旅に出る事となった。
暗い室内に話し声が聞こえる。
「勇者の力が覚醒いたしました。そして、神託の少女と無事合流しました。」