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御伽噺の英雄はクズだった?  作者: 白谷 衣介
元騎士は天才魔術士である
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通りすがりの神

 なんだかんだで、俺が帰って来てから半年以上の月日が経っていた。

 千年も生きていると、時の流れは馬鹿みたいに早く感じるもので、俺からすればこの半年は濃密ながらも一瞬だった。


 そして、今日、俺は漸く第一目標を達成する。


「協司、留守番頼むぜ。怪しい奴が忍び込んだら脅かすなりなんなりして追い出しといてくれ」

「あいあいさー。兄貴が帰って来て早々に潰されねえようにしまっす」


 冷蔵庫の中身が尽きたら、なんていう俺の勝手な取り決めはなかったことになり、だらだらと過ごしていた俺は先日のアシンの宣言を受けて、協司を除いた全員で旅に出ることにした。


 協司は屋敷から離れられないので、留守の間の警備を任せる。


「……なんか、悪いわね」


 アシンの目的はクリスタリアも幸も知っている。エルフの社会的地位向上が目下の目的であり、おまけで竜探しだ。


 前者は手っ取り早く用事が済む。世界を脅かしている――とは思えねえが――魔王モドキをアシンが倒せばいい。

 俺の存在が広まると俺が倒したことにされそうなので、王やエイクにも釘を刺した上で、たまたま特徴が一致していて、たまたま同姓同名だった一色で通す。何と言われようともゴリ押す。


 武器や調理器具など、必要最低限のものだけ荷造りして、食材は現地調達で賄う。


 各々動きやすい恰好や自分に合った恰好だ。主に前線に出るのは俺だろうから、後の三人はかなり自由が利く。


「トバンやルアニキス以外の国に出るなんて初めてなのですが、服装は大丈夫でしょうか」

「大丈夫と言えば大丈夫、大丈夫じゃねえと言えば大丈夫じゃねえ」


 一国の姫様がメイド服着てるって時点で何かがおかしい。メイド服自体は何もおかしかねえのに、着てる人物がおかしい。


 一方幸はがっつり私服だ。自由な幸は自分のしたいようにすると分かっていたから、何も言うことはない。


「どこに行くの?」


 幸が問う。そういえば、旅に出ると決めただけで、これといった目標があるわけじゃなかったな。

 行き当たりばったりってのもいいが、女三人も連れているとそういうわけにもいかないだろう。幸に言われてから俺はポケットに仕舞っていた地図を取り出す。


 魔王モドキのいる場所が分かれば一目散に向かうんだが、まったくもって手掛かりがない。今度総司が襲って来た時にでも問い質すか。


 ここから一番近いのはローガンだ。王曰く、魔術を学ぶことができる学校がいくつかあるらしく、それを中心に栄えているらしい。


 学園ファンタジーができるような年齢はとっくに過ぎてるし、外見的にも学生を取り繕うのはどう足掻いても不可能だが、幸いうちには学生相応の年齢な女が二人もいる。適当に弁舌垂れりゃなんとかなるだろ。


「じゃあまず、ローガンに行くか」


 漸く、俺の、俺たちの旅が始まった。





 旅を初めて数時間。気が付いたことがある。


「馬車欲しい……」


 何日かかるんだよこれ。いくら道が舗装されているからって、変わり映えのしない景色をいつまでも眺めているのは堪える。

 

 前回の魔王討伐のための旅は行き先が決まっていたからまだモチベも保てたが、今はそうではない。どこにいるとも知れぬ魔王モドキを探すところからこの旅は始まっている。


「甘えてんじゃないわよ。これぐらい歩いたうちにも入らないわ」

「それでも、真空様の仰ることにも一理はあると思います」

「疲れた……」


 アシンを除いたインドア勢がことごとく弱音を吐く。旅に出ると言った手前、不甲斐なさすぎる俺たちの姿に、アシンはため息を吐いた。


 おじいちゃん最近引きこもりがちだったから体力落ちてるの。


 鬱屈とした空気が俺たちを包む中、俺たちの背後から馬の足音が聞こえてきた。

 あわよくばヒッチハイクでも狙おうかと思い振り返ると、その馬にはどこかで見覚えがあった。

 俺多分、あいつの背に跨ったことがある。


 馬車は俺たちの隣で止まると、その戸を開いた。


「なんだ貴様たち。こんなところで何をしている」

「お前が神か」

「はあ?」


 エイクが輝いて見えた。


「どこへ向かうのかは知らんが、今からアンシェイルまでなら乗せられるぞ」

「お前ほんと神」


 エイクの提案に従って、俺たちは馬車に乗り込んだ。元々そこまで大きい馬車ではないので、エイクの隣にクリスタリアとアシンが座り、警護で乗っていたレオンの隣に俺が座った。そして、幸が俺の膝の上に座った。


 クリスタリアはともかく、アシンの視線が痛い。ロリコン疑惑をかけられていそうだ。

 アシンの視線を知ってか知らずか、俺の膝の上でご満悦気味に鼻を鳴らした幸は楽し気に揺れている。


 冷や汗を流している俺の隣に座っているレオンは、空気を読めずに俺に話しかけて来た。


「マソラ様は何用で外出されていたのですか?」

「魔王モドキでも倒しに行こうかと思ってな。それで、一旦ローガンに行く」


 確か、エイクの言っていたアンシェイルはローガンと方角が同じで、かつより遠くに位置していた。順当に向かえば、ローガンを中継地とするはずだろう。


 馬車の中は手狭だが、歩くよりはマシだとプラスに考える。


「魔王討伐か、私も参加したいがなあ……」

「エイクは厳しいでしょうね」


 そう、エイクはクリスタリアと違って一人娘だ。故に政治的なことに駆り出されることも少なくない。今日のアンシェイル訪問も、そういった目的があるのだろう。まったく、偉いってのも面倒くせえもんだな。


 その分、俺は王族にして王族にあらず。日本で言うところの御三家が一番近い。ルアニキスの王族の血筋が完全に途絶えた時の保険のようなものだ。その保険が丸千年留守にしていてもルアニキスは滅びていなかったことから、その間は比較的平和な時代だったのだろう。


「ああ、父上と母上が励んでくれれば……!」

「え、エイク様……?」

「兄や姉が欲しいなどという無茶は言わん。だからせめて弟をだな……」


 国民の目の前で何言ってんだこいつ。レオンもドン引きしてるし、アシンもジト目でエイクを見ている。クリスタリアは苦笑しているし、幸は俺を背に眠っている。


 まとまりがなさすぎるこの空間は一体何なんだ。


 俺たちの統一性のなさにため息を吐きながら、なんとなしに窓から見える景色を眺めていると、窓の外に羽ばたく一匹の亜竜が見えた。


 もちろん、その背に乗る黒い少年も一緒に。


 また面倒を引き起こされるのは御免被る。あちらがこちらに気付いていない今のうちに撃墜するのが吉と見た。


「真空?」


 唐突に魔術の準備に入った俺にアシンが怪訝な視線を送る。そんなアシンにジェスチャーで黙っているように告げてから、俺は魔術の名を口にした。


「〈クリムゾン・アサルトショット〉」


 窓の外から亜竜に狙いを付けて掌を向けた俺は、その右掌から無数の火炎で形作られた弾丸を放つ。


 完全に総司の不意を突いて放たれたそれらの弾丸は、そのほぼ全弾が亜竜に命中し、周りに他の亜竜を従えていなかった総司は亜竜と共に森の中へ墜落した。


「何か御座いましたか?」

「あったけど解決した」


 何が起こったのかいまいち理解できていない者たちを代表して、クリスタリアが俺に問いかける。一々アシンを不安がらせるのも良くないので、適当に内容をはぐらかし、解決した旨を伝えた。


 こうして、俺は人知れず魔王軍幹部を撃退したのだった。

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