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御伽噺の英雄はクズだった?  作者: 白谷 衣介
呪われた農家は英雄だった
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小金村真空はチートだった? 6

 胃の破裂程度では致命傷と判断されないのか、千死蛮行(インフィニティア・バーサーク)は発動せず、俺はひたすらに喀血し続けている。


「大丈夫ですか?」


 通行人が駆け寄り、俺の安否を問うてくる。それを俺は手で制すが、俺でない人間がこれだけ血を吐いていて大丈夫なはずがない。

 胃の破裂による激痛ではなく、失血により気が遠くなり始めた頃、漸く体の修復が始まった。アシンは駆けつけた自警団により取り押さえられ、連行一歩手前の状況だ。早く回復して俺が弁解しないと、事態の収集がつけられなくなる。


 エルフが一色に怪我を負わせたなどと知れ渡れば、特別な事情がない限りまず死刑は免れない。しかも今回はどう見ても重傷。どんなに優秀な弁護人がついたとしても、判決はまず覆らない。


「ちょっと待て」


 抵抗の意思すら見せないアシンが自警団の男二人に連行される直前、俺はやっとの思いで声を出した。


 周りの人々が信じられないといった様相なのは当然として、何故アシンまでもが驚いているのかが分からない。


「これはあれだよ、路上パフォーマンス的な、ドッキリ的なあれだよ。だからそいつは悪くねえ」


 アシンが驚いた顔から、呆れたそれに変わる。必死に言い訳考えて助けてやろうとしているのに、その顔はないだろう。


 アシンを連れて行こうとした自警団は、まさか一色がエルフと友人だとは思わなかったのだろう、目を丸くして動きを止めた。


「血は、本物のように見えますが」

「真に迫るためには本物ぐらい使うだろう。いろいろかかってっからな」


 主にアシンの貞操とか命とか。当時の一色と同視するのなら、エルフには人権がないと言っても過言ではない。自警団に捕まれば非人道的な扱いを受けるのは必至。

 特に、アシンは見てくれがいいこともあって、そりゃあもう悲惨な目に遭う未来が見える。


 自警団は一色がそう言うのならと、拘束していたアシンを解放した。


「これからは、あまり騒ぎにならないパフォーマンスをお願いします」

「ああ、すまんね」


 心にもない謝罪を自警団に送り、周りの一般人にも迷惑をかけたという旨の謝罪を送る。


 一部の奴らは嘘だと見抜いているだろうが、一色とエルフのこのコンビはアスマリアではよく見る二人だと、少しだけ有名になっているおかげで、そこを突かれることはない。


 アシンの手を引いてそそくさと細道に入る。近道に加えて、人目を避けることもできる。若干不衛生なのが欠点だ。

 暗い細道に入って少しすると、アシンが申し訳なさげに口を開いた。


「……ちょっと、やりすぎたわ」

「お前のちょっとは内臓破裂か」


 かなりになれば胴に穴でも空くんじゃねえのか。セクハラしたら首飛びそう。


「過激な突っ込みに苦言を出すわけじゃねえが、もう少し場所を選べ。お前、自分がどういう目に遭いそうになったか分かってんのか?」

「分かってるわよ。だから、ごめん」


 目を逸らして目に見えて反省しているアシンはやけに周りを気にしている。こんなところに人がいるわけもないのに、何をそんなに気にしているのか。


「謝りついでに、もうひとつ言っておくわね」


 今日のアシンは真面目な日なのか、これまたマジなトーンで話し始めた。

 謝りついでと言われるとさっきよりも深刻な話になりそうで、やはり身構えてしまう。


「この前、ワイバーンが大量発生したの、多分あたしのせい」

「どういうことだよ」


 亜竜を操ることができるのは、生まれてからそういう訓練を受けてきた一族だけだ。世界中にそういった部族は点々と存在するが、その中にエルフはいなかった。

 亜竜を操るのは、人間が過酷な環境で生きるためにだ。人間よりも魔力路が長く太いエルフに、その必要はない。そもそも現代では習えない。


 ということは、責任の所在はアシンにはない。


「あたしが魔王の配下っていう話は覚えてる?」

「一応。それ以上は何にも知らん」

「あたし、自分の意思でなったわけじゃなくて、流れっていうか、人間が嫌いだから、楯突く人間を片っ端から殺してたら、いつの間にかそう言われるようになってたのよ」


 紫乃直系のエルフの実力なら、まず勝てる人間はいないだろうな。最初に会った時のことを鑑みるに体術もそれなりにできるようだし、祝福抜きだとマジで俺より強いかもしれん。


 嫌なものを思い出すように語るアシンの表情は見ていて痛々しい。だが、尋ねてしまった以上は最後まで聞かなければならないだろう。


「別に悪い気はしなかったし、勝手にさせてたんだけど、いつだったか本物の魔王の軍の幹部に見つかって……」


 そこで言葉を区切ったアシンは心底気持ち悪そうにしていた。今にも吐きそうな、ゴキカブリを見てしまった幼女のような、そんな表情。


「惚れられたの」


 はい?


「そこまでは良かったわ、顔は悪くなかったから。でも、どこに行っても先回りされてたり、気っ持ち悪い手紙をあたしの服の中にいつの間にか忍ばせてたり……」


 ああ……うん、察したよ。俺はすべてを理解した。


「本っ当に気持ち悪い! 何が『お前は俺のものだ』よ! ああもう! 思い出しただけで鳥肌立ってきた……!」


 今の状況も似たり寄ったりじゃね? 『死にたくなかったら着いて来い』は『お前は俺のものだ』よりもキモさランクが下なの?


 身を抱いて震えているアシンの顔は真っ青だった。気の強いアシンが、幽霊を見た時と変わらず怯えるほどに気持ち悪い奴の正体が気になるところだ。


 亜竜使いということは人間だろう。そして顔はまあ良し。んでもって若干ナルシスト気味。

 キャラ濃いな。


「そいつが好んで操ってたのがワイバーンなの。……やっと撒いたと思ったのに、どこで知ったのよ……!」


 苛立ちからか思い切り地面を踏むアシン。踵からいったのか、地面には丸い窪みができていた。

 今まで見たことがないベクトルでキレている。このまま会わせると、出会い頭に必殺級の魔術をぶちかましそうな勢いだ。


 もしそいつが街中でアシンを見かけたのだとすると、人気のない道に入って正解だったな。


 怒りか恐怖からか、しばらく震えてながら歩いていたアシンは、何かを思いついたかのようにはっとし、俺の方を向いた。

 どうしてそんなに嬉しそうな顔をしているんですかね。不思議です。


「ねえ、真空。あいつが、総司(そうじ)がもし出て来たら、あんたがなんとかしてよ」

「なんとかって言われても……」

「あたし、あんたが森でワイバーン一掃したの知ってるんだから」


 逃げ場ねえじゃん。


 英雄としての小金村真空を知っているということは〈我が身映す姿違えし鏡〉の効果についても知っているだろう。加えて、俺の右腕が呪われているということも知っている。

 そして、先日の亜竜退治で〈偽・万象宿す隔世の剣〉を使ったことも知られているのなら、俺が一対一、一対多の両方で化け物染みた実力を持っていることがばれている。


 加えて不老不死という特性、それによる実質反動のないオーバーロードの乱用等々……俺の実力すべてがアシンに筒抜けになっている。


 森での一件は、大方クリスタリア辺りが吹聴して回ったんだろう。あいつは俺の熱狂的なファンみたいなもんだから。まったく、余計なことをしてくれる。


「はした金かもしれないけど、あたしの今持ってるお金全部あげるから、お願い」


 そう言ってアシンは懐から袋を取り出した。出会ったあの日から変わっていない、財布とも言えないその財布が、とても懐かしく思えた。


「友達の頼みに金なんざ取らねえよ。総司だかは〈我が身映す姿違えし鏡〉をぶちこんで黙らせてやるから、大船に乗ったつもりでいろ」


 財布を突き返して、安心させることを目的に大げさに言ってやる。


「格好いいこと言ってくれるじゃない」

「英雄サマだからな。格好いいのは当たり前だろ?」


 格好つけた台詞を言うと、アシンは機嫌よく歩き出した。しかもご機嫌な鼻歌まで歌っている。


 お前武器屋の場所知らねえだろ。

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