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御伽噺の英雄はクズだった?  作者: 白谷 衣介
呪われた農家は英雄だった
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小金村真空はチートだった? 5

 クリスタリアがやって来てから、幸のスキンシップが目に見えて増えた。

 紫乃のように抱き着いたりはしないものの、手を握ったりなど、積極的に俺との距離を縮めようと頑張っている。


 好意に気付かれているかいないかは本人にとって関係ないようで、拒否さえされなければ満足そうだ。事前に言っておけば添い寝まではしてやるつもりでいるのだが、幸はまだそこまでいく勇気がないようだ。


 何にせよ、好かれるというのは悪い気分じゃあねえ。クリスタリアも、適度に命令しておけば、気品のあるメイドのような感覚で接することができる。

 最近はアシンも協司に慣れてきたし、我が家にも安定期が漸く訪れた。


「真空」


 旅に出ることは最早諦め、最近は屋敷の中でだらだらしているだけの俺に幸が声をかけてきた。いつの間に買ったのか、可愛らしい服を着ている。


「お出かけしよ」

「ええ……」


 亜竜退治をしてから、俺の外に出ることへのモチベーションは下降の一途を辿っている。日頃の鬱憤を一気に発散したあの日から、俺は片手で足りるほどしか外に出ていない。


 買い物はクリスタリアにメモを持たせて買いに行かせている。あれから亜竜は大量発生していないようで、騎士団から声がかかることもなく、一日中寝たり、何か魔術でも改造しようかと試みて結局やめたりする日の繰り返しだ。

 あっちの世界の道具を開発して一儲けしてもいいんだが、変に産業革命が起こると面倒事が増えるだけだからなあ。


 いろいろと御託を並べたが、返事としては限りなくノーに近い。


「新しい武器が欲しいから、一緒に来て」

「武器の選定なら、俺よりもアシンの方が」

「真空がいい」


 俺の台詞を食ってまで俺を求めた幸は、ベッドの上に転がっている俺を見て頬を膨らませていた。

 不相応に物静かなクセして、そんなところだけ年齢相応なのか。


「はいはい。分かったよ。支度するからちょっと待ってろ」


 折れて着替え始めた俺を、幸は部屋から出ることなく見張っている。そんなに見なくても逃げねえし、面白いもんでも……ちょっと面白いかもしれねえ。

 下着だけになっても右腕の包帯を取らない変人の着替えに、興味が湧く気持ちは分からないでもない。


 肉体年齢が二三歳で止まっている俺の体は、普段のふざけた態度と比べるとあまりにも古傷が多い。背中の傷は云々とは言うが、仲間を助けてできた傷なら名誉の負傷っていいと俺は思っている。


 助ける仲間なんぞいなかったが。


「真空は楽しい?」


 そんな傷を見てか、幸が変な問いかけをしてくる。もちろん、俺の答えは決まっている。


「無理にでも楽しまなきゃ、不老不死とかやってらんねえよ」


 事実、俺は祝福を授かってから、感情表現が少しオーバーになったきらいがある。面倒臭がりで不真面目な性格は生来のそれだが、もう少し静かだったような気がしないでもない。


「さあ、デートに行こうか」


 そう言って左手で幸の頭を撫ででやると、幸は顔を真っ赤にして倒れた。


「……はい?」


 初心かよ。初心すぎかよ! 普段の積極的なスキンシップはどこに行ったよおい! あれか? 相手から来られると引くパターンの奴なのか!?

 つーか、俺の乗り気になった気持ちはどこへ向かえばいいんだ?


 とりあえず、アスマリアの気候で眠ったまま放置すると九分九厘風邪をひくので、倒れた幸を抱えて俺のベッドで寝かせる。


 ため息を吐くと同時に肩を落とした俺はそのままリビングへ向かった。

 リビングではクリスタリアが早くも夕食の準備を始めており、俺の中の印象は早くも姫からメイドへと切り替わり始めている。


「? 真空様、お出かけになられるのですか?」

「ああ、まあ、うん」

「何かありましたか?」

「いや、何でも、うん、何でもねえ」


 クリスタリアの気遣いに歯切れの悪い言葉を返して、屋敷の外で魔術の鍛錬をしているアシンを眺める。

 そうだな、折角外に出る気になったんだから、幸に何か買ってきてやるか。


「ちょっと行ってくる。晩飯の時間までには戻る」

「はい。いってらっしゃいませ」


 クリスタリアに出かける旨を告げてから、庭で鍛錬をしているアシンに近付く。ある程度の距離まで縮まったところで、アシンは俺に気付いて立ち上がった。


「引きこもりが外に出るなんて珍しいわね。今日は竜でも降るのかしら」

「この前降って湧いたろ。早々降って堪るか」


 俺を小馬鹿にしながら、アシンは楽しそうに笑う。こいつはどこまでも俺のことが嫌いな体でいくつもりのようだ。


「じゃあ何の用よ」

「デート行こうぜ、デート」

「はあ?」


 若干ふざけた口調で言ったのに、マジトーンで威圧をかけられた。

 俺、アシンにだけはフラグが立つ気がしねえ。


 その道の人間には堪らないだろう睨みを受けて、俺は切にそう思った。


「新しい武器が欲しいって幸が言ってな。わけあって幸がぶっ倒れたから、アシンと買いに行こうかと」

「……真空、あの子があんたに惚れてるって分かってるの?」

「当たり前だろ。あんなあからさまな」


 あれに気付かない奴は頭の中身を疑うレベルで鈍感だ。難聴系でも鈍感系でもない俺は、人の好意にはしっかりと気付く。悪意は見て見ぬふりをする。そういう人間だ。


 うって変わってジト目で俺を睨んでいたアシンは、目を閉じて首を横に振った。


「まあいいわ。着いて行ってあげる」

「恩に着るぜ」


 さっきの質問の意義が分からないが、アシンが武器を買うのに着いて来てくれるのだから、深くは考えないようにしよう。


 俺が帰省してから早数か月。アスマリアの土地勘もかなり覚え、顔見知りも何人かできた。依然としてアシンは白い目で見られ続けているが、本人が気にしている素振りを見せないので、俺も我関せずというスタイルを貫いている。


 屋敷から武器屋まではかなり遠い。アスマリアの中央広場から見て北東に建っている我が屋敷と、南西に構えている武器屋はまさしく正反対の位置にある。


 街中を走る馬車を使えれば早いのだが、生憎とエルフは乗車不可。この世の理不尽さを目の当たりにしながら、俺たち二人は歩いている。


「ねえ、真空」


 中央広場まで会話もなしに歩いて来たがアシンが唐突に問いかける。


「真空はあの二人ならどっちを選ぶのよ」


 真面目な声色で言うものだから、どんな話が飛び出すのかと思えば実に女子らしい、いわゆる恋バナだった。


「どっちって言われてもなあ。幸だってまだ知り合って一か月ぐらいだろ? クリスタリアに至っては数週間。それで選べってのは無理難題だろ」


 俺はフィーリングではなく、しっかりと互いを知っておきたいタイプの人間と断言するほどではないが、流石に二人と付き合いを始めてから日が浅すぎる。

 恋愛感情があるわけではないが、距離感はアシンとのそれが一番心地良い。残りの二人はやや近すぎる。


「それでも、強いて言えばよ」

「強いて、ねえ……」


 しばらくの間逡巡し、どちらを選ぶかという問いに対する答えを模索する。


 幸は可愛らしい女の子って感じだな。ロリだし。流石に江戸時代とかの価値観は生きていないので、余裕で恋愛対象外。後五年は歳食え。

 クリスタリアは従順すぎて、俺が死ねと言えば自殺しそうな危うさがある。スタイルは悪かねえが良くもねえ、並。


 この二人の特徴を踏まえた上で、俺が出す答えは――


「おっぱい的にクリスタリアだな。この先第二次性徴の結果如何によっては、雪も十分に可能性があり得ぶっ!」


 抉るような右の拳が俺の鳩尾に叩き込まれた。捻りを加えられ、強化を受けたその拳は見事に俺の胃を破裂させた。

 道のど真ん中で吐血した俺はアシンに代わって注目を集め、自警団を呼ぶ声すら聞こえる。


 くっそ、おっぱいいいじゃねえか。サルから進化した人類が、ケツの代わりに男を魅了するために進化した神秘そのものだぞ。

 その理論で考えると、貧乳はサルってことになるな。

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