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御伽噺の英雄はクズだった?  作者: 白谷 衣介
呪われた農家は英雄だった
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小金村真空はチートだった? 4

「というわけで、うちの屋敷にまた一人入居者が増えましたー。はいぱちぱち」


 口と手で拍手をしたが、歓迎ムードなのは協司だけだった。その協司が拍手できないせいで拍手をしているのは俺だけという異質な雰囲気が出来上がった。


 アシンは王族というだけで若干の嫌悪感を示し、幸は女が増えたことが遺憾なのか不機嫌そうに口を尖らせている。


「じゃあ、クリスタリア、適当に自己紹介」

「はいっ。私はクリスタリア・ローン=シェイブと申します。この度真空様のものになりました。よろしくお願い致します」


 クリスタリアの自己紹介を聞いたことで、アシンの嫌悪感は薄くなり、幸は頬を膨らませた。


「今日の晩飯は、お姫様がやって来たということで、ワイバーンの肉をふんだんに使った肉料理になりまーす」

「最近ずっとそうでしょ」

「お前ちょっと黙ってろ」


 確かに、ワイバーンの肉が思ったよりも食える部位が多いせいで、持て余している感がある。昼と夜の飯には必ずワイバーンの肉のどこかが出る。なまじ味が良いだけに誰も文句は言わず、黙々と食べている。


 先日大量発生したとはいえ、亜竜の肉は一般家庭からすれば高級食材だ。それを出すということは特別な日でない限りはまずない。

 だからわざわざクリスタリアの前で言ったのに、アシンの空気の読めない一言で台無しになった。


「お気遣いいただき有難う御座います。ですが、私は大丈夫ですのでお気になさらず。真空様が仰られるのならば、私は土でよろしいので」

「虐待じゃねえか」


 どんな鬼畜なら土を食えって命令を出すんだよ。クリスタリアの中の俺は本当に英雄なのか?


「えっと、クリアさんって呼んでいいすか?」

「ええ、構いません」


 協司の馴れ馴れしい発言にも笑顔で応じたクリスタリアは快く承諾した。


「クリアさんは、仮に兄貴に恋人がいたらどうするんすか?」


 その質問にいち早く反応したのは幸。次いで俺。アシンは興味がないのか、肘をついて自分の爪を見ている。


 恋敵とでも言うのだろうか、幸はクリスタリアのことをやたらと敵視している。後者はともかく、前者は俺に惚れている理由が分からないが、TPOを弁えて引っ付いてくる幸はまだ好意的に捉えている。逆に、クリスタリアは引っ付いてくるというか、俺の話を聞かないので苦手だ。


 この質問を受けたクリスタリアは依然として微笑んでいる。


「どうも致しません。真空様がお選びになった方なら、どうも」


 そう答えたクリスタリアは「ですが」と付け加えて、


「妾になれるのなら、なりたいですね」


 真っ直ぐすぎる好意が眩しい。今までの人生で、ここまでストレートに好意をぶつけてきた奴はクリスタリアが初めてだ。幸は好きとも何とも言わずに俺の傍にいたがる程度で、言葉には決して表さない。


 ぐぬぬという表情の幸は見ていてとても面白い。自分にはない素直さが羨ましいのかもしれない。


「はい質問タイム終わり。ワイバーンの解体ができる奴は俺に着いて来てくれ」


 三日かかって漸く一体分を処理し終わったので、次は二体目を捌かなければならない。レオンは何の気を利かせたのか、冷凍保存された亜竜を三体送っていたので、すべて消費するには軽く一週間はかかるだろう。


 クリスタリアへの質問を打ち切り、屋敷の裏に放置されている氷漬けの亜竜の解体を始めようと、五人集まってもまだ広さを感じるリビングを出た。

 後ろを振り返れば、着いて来ているのは幸だけだった。


「お前本当に解体できんの?」

「できる」


 俺としては、アシンかクリスタリアのどっちかは解体できると踏んでいたんだが、思わぬダークホースが現れた。

 騎士団で宿舎に入り、まともに料理もせずに暮らしていたはずの幸が、曲がりなりにも竜種である亜竜の解体ができるということは意外も意外だった。


 屋敷の勝手口から出ると、目の前はいきなり森だ。先日亜竜が大量発生した森とは別物だが、どうにも警戒せざるを得ない。いくら安いと言っても、高い買い物をしたんだ。万が一それを燃やされたりしてみろ、俺はこの世からワイバーンを絶滅させる。


 少し歩くと、氷漬けにされている亜竜が二体転がっている。

 〈アイシクル・アブソリュート〉で凍ったものは術者の意思でしか解凍できない。しかも、解凍してもよっぽど寒さや氷に耐性がない限り凍死している。


 亜竜はというか、竜と名付けられている魔物は原種である竜種を除いて、すべてが寒さに弱い。俺が〈アイシクル・アブソリュート〉を習得した理由も、竜を倒すためという意味合いが大きい。


 亜竜と同じように放置されている鉈を手に取って、亜竜を一体解凍する。


「じゃあ幸、これからまずどうするか、やってみろ」

「ん」


 短く返事をした幸は俺の手から鉈を取り、亜竜の翼を根元から叩き切った。

 幸のとったその行動は数ある解体法の中でも、最も簡単で、しかし覚えるのに時間がかかる方法だ。そもそも広まっていない亜竜の解体法の中でも、特に知られていないもの。


 どこでそんなやり方を教えてもらったんだろうか。まさか、独学でここまで辿り着けるはずがねえ。誰かに教えてもらって、実践して、漸く習得できるのが解体というやつだ。


 部位ごとに切り分けていくところまでいくと、他のそれと変わらない。翼を切って、頭を切って、不要な、食べられない部分を先に捨て置く。そして、食べられる部位だけが残った亜竜の鱗を剥いでいく。


「んしょ、んしょ」


 身体強化があるとはいえ、小さい体で成人男性よりも大きい体を持つ亜竜の鱗を剥ぐのは辛そうだ。


「代わるから鉈貸せ」

「いい。やる」

「幸が解体できるのは分かったから。これだけデカいと疲れるだろ?」

「……むう」


 代わってやると言うと、幸は渋々鉈を返してきた。二振りあればこんな面倒も起こらなかっただろうが、屋敷に元々あったのが一振りだけだったので仕方ない。


 今度買って来るかな。ホームセンターみたいな店があれば楽に見つかるのに、こっちには武器屋にすべて纏められているせいで簡単には見つからない。武器の系統ごとに分けられているのはいいが、それでも数が多すぎる。


「幸、別に無理して俺の役に立とうとしなくていいからな」

「……」

「変に気取らずに、いつも通り欠伸でもしときゃあいいんだよ」


 自分が普段していないことをしても大抵失敗する。農家風に言うと、畑が違うってことだ。


 鱗を剥ぎ終え、次は後ろ足の爪を剥ぐ。続いて尻尾の先。鱗がなくなったことで切りやすくなった亜竜の体は身体強化なしでも易々と切り落とせた。


 血液すらも凍っているせいで血抜きはまだできない。外に放置しておくと別種の魔物を呼び寄せかねないので、屋敷の倉庫に一時的に保管する。倉庫が血の池になっても気色悪いので、吊った亜竜の肉の下にタライを置いておく。


 これで亜竜の解体は半分終わった。後は血液の解凍が終わるのを待って、血抜きをして、食べる部位に応じて肉を切り分けていく作業だけだ。一番面倒な鱗剥ぎが終わったことは精神的に大きい。


 幸と二人で戻って来ると、リビングにはクリスタリアとアシンだけが残っていた。

協司の行方が気になったが、あいつなら死んでも数日後に復活するから、心配する必要はないだろう。


「お帰りなさいませ、真空様」

「昼御飯はどうするの?」


 アシンが言った通り、俺たちは昼飯をまだ食べていない。亜竜の解体をしている間に昼は回っていたようで、俺の腹が空腹を訴えていた。アシンはどうするか問いかけてきたが、薄々何が出てくるか分かっている。


 昼飯は、一昨日店長から押し付けられた亜竜の血入りパンだった。

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