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御伽噺の英雄はクズだった?  作者: 白谷 衣介
呪われた農家は英雄だった
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永遠の魔女は自己中だった? 3

 朝食を終えた俺たちは城の目の前までやって来て途方に暮れていた。


 理由は城の前に立てられた看板にある。普段見かけるそれと大きさこそ変わっていないものの、文面が激しく違っていた。


 『本日他国との会食のため一般開放を禁じます。御用の方は最寄りの駐屯地まで』


 正直すげえ帰りたい。他国とか嫌な予感しかしねえ。

 最寄りの駐屯地がまずどこか分からねえ。聞けば済む話ということは自分でも分かっている。聞けばいいと思いもする。だが、しかし、この金色は、そういった回りくどいことを嫌う。


 絶対に何かやらかす。その予感はアシンにもあるのか、紫乃を挟んだ俺たち二人は冷や汗を流していた。


「何が会食か。ただ飯を食うだけに何の気を払うという。まったく、腹が立つ」


 言葉の端々から苛立ちが伝わってくる。これはもう止まらないと、俺は一足早く諦めた。


「先に言っとくぞ。魔術を使うな」

「断る。〈獅子炎牙〉」


 俺の忠告をガン無視して、火炎の獅子を生み出す。木で出来た城の扉は、耐火の魔術がかけられているにも関わらずいともたやすく燃え落ち、その光景を見た住人たちは何事かと視線を注いだ。


 騎士たちが集まってくるが、紫乃の姿に気付いた者は一定の距離で足を止める。流石は悪名高い永遠の魔女、若い騎士たちにも認知されているらしい。


 足を止めて狼狽えている騎士たちの中に、いつか見たレオンだかシオンだか言う騎士を見つけた。

 知らない顔でもないし、現在進行形で多大な迷惑をかけているので、謝罪ついでに挨拶でもしておこうと思い、レオンに歩み寄る。


「久しぶり」

「お、お久しぶりですマソラ様。あの、この惨状は一体……」


 最初から見ていなかったのなら無理もない。耐火の魔術が掛けられたものを燃やそうと考えるような馬鹿がいるとは普通思わない。

 普通じゃない馬鹿がいるから、こうなった。


「ババアが癇癪起こして燃やした。修理費はツケといてくれ。すまねえ」


 騒めく騎士たちから紫乃たちに視線を戻せば、そこには騎士に囲まれた二人がいた。


「永遠の魔女よ! 何の目的があっての攻撃か答えろ!」


 団長らしき壮年の男が一歩前に出て声を張り上げる。


 理由なんぞ最初から決まっている。『腹が立ったから』という、傲慢にもほどがある理由以外にない。


 騎士たちの行動に更に腸を煮えさせている紫乃は男を睨んで言う。


「吾は王に直接用があって、わざわざアスマリアまで足を運んでやったのだから道を開けろ」


 嘘吐け俺に会いに来ただけだろ。


 このまま傍観していても事態が悪化する一途であることはそれこそ火を見るよりも明らかなので、袖を巻くって左肩を露出させながら、騎士の包囲網をかき分けて俺が紫乃とアシンの前に出る。


 紫乃と行動を共にしている黒髪黒目の男に心当たりがあるのか、男は俺の姿を視認するなり表情を変えた。


「あー、別にこいつは敵対心があって魔術をぱなしたわけじゃねえ。結界の張り替えに来てやったのに、どうして城に入れねえんだっつってキレてるだけだ」


 説明していて、紫乃の精神は子供のそれと変わらないのではないかという疑問が生まれる。


 俺の弁解を聞き届けた男は抜刀していた剣を収めた。


「あくまで敵対の意思がないのであればいい。だが、永遠の魔女、貴様はもう少し懐の深さというものを持てないのか」

「ふん、劣等の塊である貴様らに、何故吾が気を遣ってやらねばならぬ。せめてここにいる二人の足元にでも届いてから吾に命を下せ」


 紫乃は俺たち二人のことを大きく評価している。俺に関して言えば、それは過大だと訂正しなければならない。

 俺は戦う人間ではなく殺す人間だ。攻撃系魔術も一撃必殺と銘打っているものばかり。いざ戦争となれば悪くない戦力といえるが殺すなというルールが追加されると俺は途端に弱体化する。

 その俺を、守り戦う騎士と同じ畑で比べることはおかしい。


 純粋な力で言うのであれば、この場にいる誰よりも強い自信がある。もちろん、神の呪いと悪魔の祝福込みの話で。


「道を開けい。どこの国にしろ、国であるのなら吾の世話になっておらぬ国は存在せん。文句は言えんじゃろう」


 そう言って先行する紫乃は未だ燻る黒い門を潜って城に堂々と侵入した。

 傍若無人、唯我独尊を地で行く師の背を見たアシンは吐こうとしたため息を呑み込んだ。


「変わってないことは、いいことよね」

「昔、偉い人は言いました。『不変は怠惰、変化は罪悪、人が真に目指すべきは進化である』ってな」


 俺が生きていた頃から伝わる格言のような言葉を告げると、アシンは自嘲気味に薄く笑った。


「それもそうね」


 紫乃に続いて城に入ると、中はもぬけの殻だった。騎士は現状外に出払い、従者たちは他国とやらの関係者の対応に追われているのだろう。加えて今回は会食。広間のような場所以外で人の姿を見ることがまず難しい。


 内装はこれといって変わっておらず、強いて言えば今回は立ち入り禁止区域へと続く廊下の前にバリカーが立っていなかった。


 しんと静まり返った大きい廊下はそれだけで不気味さというか、居心地の悪さを与えてくる。誰かがいれば気も変わるというのに、人の影すら見えやしない。

 俺はともかく、無意識に俺の右手を握って震えているアシンをどうにかしてほしい。


 未だに腹が立っているのか、紫乃はずんずんと先に進んで行く。そして、とある部屋の戸を乱雑に数度ノックしてから、返事も待たずに開く。

 ノックをするという習慣は染みついているが、他人を気にしない紫乃の生来の性格がマナーを結局ぶち壊す。


 ちなみに、俺は前回の通り、ノックをする習慣はない。村の家全部が自分の家みたいな感覚だったおかげで、そういったマナーは全部吹き飛んだ。


 部屋の主が不在だったのか、紫乃は舌打ちをしながら部屋の戸を思い切り閉めた。

 追いついてその部屋を見てみれば案の定王の自室。そして、戸には若干罅が入っていた。


「後で弁償しろとか言われても知らねえからな」


 余計な被害を被らないように、あらかじめ予防線を張っておく。それを聞いた紫乃はふうとため息を吐いた。


「分かっとるわい。貴様らには無駄な迷惑はかけん」


 ならさっさと縁を切ってほしい。存在自体が迷惑の擬人化のような奴なんだから、どう足掻いても迷惑をかけられることぐらいこっちは分かり切っている。


「のう、王がどこにいるか分からんか?」


 ジト目で睨んでいることなど気にせずに、紫乃は俺に問いを投げかけてきた。


「知るかよ。お得意の探知で探せばいいだろ」


 俺は再三言っているように高い技術力を要する魔術を扱うことができない。探知なぞそれの代表格だ。紫乃が分からないというのなら、この場にいる誰も、王の居場所は分からない。


「王が魔術を使えば楽に見つかるのだがのう……」


 ここに来て、俺たちは再びアテがなくなってしまった。


 適当に散策してみるのもありだ。それか、入り口まで戻って騎士に城内の地図を貰うか。

 前回王から貰った地図を置いて来てしまったことを、こんな形で後悔することになるとは。


 うろ覚えの道で進んでもいいが、万が一とんでもないところに出てしまうと指名手配されかねない。


 どうすべきか案を探っていると、袖が引っ張られた。

 アシンがまた何か霊的なものを見つけたのかと思い、引っ張られた左の袖を見た。


「や」


 俺の袖を引っ張ったのはアシンではなく幸。誰にも気付かれず、気配と魔力を隠して俺たちに接触したことは流石と言える。


 だが、俺の内心は。


 またなんか面倒そうなのが出てきた……

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