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~ 白い花 ~

ボ ワ ァ ~ ァ ~ !


卵形の石から 真っ白な煙が 立ち昇り


公園のベンチで


物思いに更ける 弘を包み込んだ…


弘 は 急に眠気に襲われ …


コックリ コックリ と 眠り始めた …



サワ~サワ~ サワ~ サワ~


凛とした 空気の漂う


大樹が繁る森の中に 弘は立っていた …


「此は … 夢 … ?」



何処からか 音が聞こえる …


コンッ ! コンッ ! コ- ンッ !!


誰かが 大樹に


何かを打ちつけているような 音が響く …


弘 は 音のする方へ


誘われるように歩き始めた …


暫く歩くと


子供の頃に


「お母さんに 会いたい … 」と


そう願った あの大樹に


そっくりな大樹が現れた …


だが 少し 様子が違う …



大樹の前に 女が立ち 白装束で …


コ ン ッ ! 「死ネ … 」


コ ン ッ ! 「死 ネ …」


コ~ ン ッ !! 「死 ネ ェ-!!」



と 藁人形を打ちつけていた …


弘 は ガタガタと 震える躰を押さえながら 息を潜めた …



コ ン ッ ! 「人ヲ呪ワバ …」


コ ン ッ ! 「穴 二 ツ … 」


コ~ ン ッ !! 「承 知 -!」


コンッコンッコンッコンッ!!


「ダカラ 死ネ! 今 死ネ! 直グ ! 死 ネェ - !! 」



振り乱れた 髪 …


鬼のような 形 相 …


併し その姿は …


紛れなく 母の姿だった …



弘 は 顔を 強張らせながら …


「お母さん … 止めて下さい … 何 が … 何が そんなに憎いのです … 」



女は ゆっくり と 弘 の 声 に 振り返った…


弘 は 力が抜けたのか 両膝を地面にゴンッと落とし 涙を流した …



「母 ? 私ハ オ前ノ母等デハナイ … 末代迄 佐野家ヲ 呪ウ者 … 」



女 は ギロリッ と 弘 を 睨みつけた …



「そっ … そんな … でも お母さんは … 」


目の前の状況に 弘は困惑した …



「オ前モ 呪イ殺シテヤル !! 佐野家ノ末裔 !! 私ハ 佐野家ノ人間ニ殺サレタ … 恋仲ダッタ 伊三郎ハ 私ニ ヤヤ子ガ出来タ事ヲ知リ祝言ヲアゲルト 誓ッタ … ナノニ … 伊三郎ノ父 宗十郎ガ 反対スルト 掌ヲ返シタヨウニ 冷酷トナリ … 私ニ 子ヲ降ロセト迫ッタ… 拒ム 私ヲ 疎マシク思ッタカ … 伊三郎ハ 村ノ男達ヲ使イ … 私ヲ 追イ回シ … 川ヘト追イ込ミ … 躰ヲ押サエツケ 凍エル 川水ニ浸カラセタ… ヤヤ子 ヲ 流 ソウト … 其デモ ヤヤ子ガ 降リヌト知ルト … 今度ハ アノ木ノ元デ … 腹ヲ 皆シテ 散々蹴リツケ 腹ノ上ニ石ヲ積ンダ … 何十モ 皆シテ… ヤヤ子 ハ 流レ … 私モ 死ンダ!!憎 イ !! 憎イゾ !末代迄 呪ッテヤルワ !! 」



女は グワッ!っと


今にも 咬みつく勢いで 弘に迫った …


弘 の 瞳から 滝のような涙が溢れた …



「そう… ですか … では 貴女は … 佐野家の末裔である 私を 呪い殺しに 現れたと言うのですね … ははっ!ははははっ! 此は とんだ茶番ですね … 私を殺そうと思えば 何時でも 殺せたではないですか! 私は 貴女のように 魂だけの存在じゃないんだ ! 眠っている時に キッチンから包丁を飛ばして胸をグサッ!と突けば其で 終わりだ! 何十年も 何百 否 何万夜も 貴女は 夕飯を作り 私を気遣ってくれた … 其が呪いですか! … 一つ… 伺いたい … 私 を … 佐野家の末裔を 殺したなら … 貴女は成仏出来ますか? 」



女の躰が ビクッ!と震えた …



「応えて下さい ! 貴女の思いを遂げられたなら 貴女は成仏出来るのですか!」



サ ワ ~ サ ワ ~ ザ ワ ザ ワ ~


森の大樹が 大きくしなり …


大樹達が …


ヒラヒラ ~ ヒラヒラ ~


と 真っ白な 花を降らせ


女の 頭に 肩に と 降りた…


「ウギャッ ! グ~ ウ ェ -!! 」


女 は 苦しみ始めた …



「止めて下さい! ! 誰です!! 花を止めろ ー!! 」



弘 は 夢中で 女の元へ駆け寄った …



「グ エッ ! ギ ィ ャ ー !! 」


真っ白な花に 幾重にも包まれた 女を抱き上げると


弘 は 走り出した …



「出口 ! 此の森の出口 ! 」



女の躰に重なった 花弁を払い


弘は夢中で 森の出口を探し走った …



弘 … 止メナサイ …




真っ白な花に包まれた


女の優しい声が響いた …


「何故です! 一緒に帰りましょう!!」



私 ヲ 降 ロ シ テ …


少シ 離 レ テ …



其の声が …


あまりに優しく 清んでいたので …


弘は 声のままに 女を ゆっくりと地面に降ろした …



ザワ~ ザワ~ ザワ ザワ ~


大樹達が 大きく揺れた …



古樹(こき) … 名残ハ 無イナ …


森を 地を這うような 低い声が 木霊した…



エ ェ … 無 イ ワ … 鎮 守 …



女は 優しく そう言った …



ザワ~ ザワ ~ザワ~ ザワ~


観 ~ 自~ 在 ~ 菩 ~ 薩 ~



真っ白な花に 包まれた女は…



行~ 深~ 般 ~ 若~ 波~ 羅~蜜~多~時 ~


サワ~ サワ~ザワ ~ザワ~


経 の 声 と 共 に …


姿が 薄れていった …



ネェ … 弘 … 見 テ …


私 … 行 ケ ル ノ …


サ ヨ ウ ナ ラ … 弘 …


救 ッ テ ク レ テ …


ア リ ガ ト ウ …



ザワ~ ザワ~ ザワ~ ザワ~



弘 は 只々 涙を流す ばかりだった …




ガ ク ッ ン !



公園 の ベンチで 眠ってしまった 弘 が 起きると …


すっかり 夕陽が 傾いていた …



「不思議だったけれど … 素敵な夢だった… 」


夢心地が 抜けないまま


弘 は 裏野ハイツへと急いだ …


101号室のドアを開けると …


女物の 黒のパンプスが 玄関に揃えられていた…


「あっ! いや 失礼!」


弘 は 部屋を間違えたのかと


一旦 ドアを閉めた …


「間違いないな … 裏野ハイツ … 101…」


ドアを確認すると 間違いはない …



ガ チ ャ ッ!



ドア が 開き …


会社の 部下である 古川 清美 が 弘 を 迎えた



「あっ? えぇと … 古川さん … 此処 私の家だけど … 何しているのかな?」



古川 清美 は


社内で ファンクラブがある程に 可愛らしく 可憐な 女子社員だった…



「あっ … はいっ … 先程 … お母様にも お話ししましたが … 部長が 退職されるとメールが届きまして … その … 私 … 」


清美の話によると


差出人は不明だが …


弘 が 明日で会社を辞めると言う メールが 届き …


慌てて 弘の家を訪ねてしまったと言う …


「はははっ!デマですよ ! すいません 心配させてしまって … あのぅ …ところで 母は ?」


弘 は 不思議そうに 室内を見渡し 清美に聞いた …


「はい … 其が … お母様に書きなさいと言われましたので … メモを取りましたので 読みます… 故郷に帰るので 弘の事は 全て貴女に お任せしますから … 煮るなり 焼くなり 好きにして下さい … あの子は お米もとげませんし 洗濯機にも 色を分けずに なんでも入れて回すので 油断なりませんからね … と … 」


清美 は メモ 紙を読み上げた



「あっ … まぁ … 私は そうですが … あの古川さん 取り敢えず 駅迄 送りますから行きましょう!」



弘 は どうして良いのか解らないが…


二人きりの室内は 気まずいと思い そう言った…



二人は 駅へと向かい歩き出した …


清美 は 恥ずかしそうに俯き



弘 は 何か 話さなければ …


と 焦り 冷や汗を流しながら 歩いていた …



「あっ ! 部長 それ何ですか?胸ポケットの 白い… 」



弘 は ポケットを見て …



胸ポケットに 指先を入れ 中の何かを取り出した …



ポケットから …


白く 可愛らしい花 が 二つ …



「まぁ~ 可愛い~ ♪ 一つ 頂いちゃ駄目ですか?」



弘 は 苦笑いし…



「いやぁ ~ 何処で入ったんだろう? 公園かなぁ~ はははっ!」



と 照れて笑いながら …



清美の手のひらに



そっと 白い花 を 一 つ 乗せた …



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