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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ワールドエンド、しかしてハッピーエンド、みたいな?

息抜きに書いた短編です。

よろしくお願いします。

連載の予定は、有馬、線、世?




 その日、俺こと日村誠一はひっそりとパソコン室で大量の菓子パンを頬張っている。

 ぽっちゃり系オタクの俺はクラスから浮いているせいで高校三年間のほとんどをボッチで過ごしていた。

 友人はおらず知人も少なく、かといって幼馴染はいなくはないが俺といると迷惑だからと疎遠になる状況にしていた。

 キーボードをカタカタと片手で打ちながら、最近のアニメ情報やゲーム情報、ネット小説なんかを読み漁るのが日課な俺はその日、人生における大転機を迎える事となった。



『全世界の生物に告げる』

「うわぁっ!?」


 突然、頭の中に声が落ちてきて、俺は慌てて飛び上がると辺りを見回す。

 薄暗いパソコン室には目を凝らしても人なんて見当たらないしそんな影はない。

 パソコン室の鍵は一つだけで今は俺が持っている、いる筈がない。

 アニメとかゲームばっかりやってはいるが、俺はメガネを必要としないくらいには目が良いのだ。

 やはり、パソコン室には誰もいない。

 さっきのリアルな声は幻聴だったのかととっさに落としてしまったハムマヨパンに目を向けたとき、またあの声が聞こえてきた。


『全世界の生物に告げる、私は神だ』

「…ま、またあの声!!

 か、かみさまだって?」


 パソコン室の外からは防音設備も備えているはずなのに慌しい喧騒と地響きが聞こえてくる。

 神様か、今まで一度も何かしてもらったことはないから特に信仰したり感謝したりしたことのない相手だ。

 生まれてこの方孤児な俺にとって、親への愛とか隣人への感謝とかするよりもバイトと勉学に励んで将来公務員、出来れば官僚になって静々と生活できればいいからな。

 それがこんな異常事態になって…俺は念の為、外の状況を知るために少しだけ部屋の扉を開けておく。



『お前達の世話には疲れた、旅立たせてもらう。

 かつて私が十なる戒告をしても守る者は少ない。

 神たる私の名を利用し他者を殺め従える愚か者のなんと多いことか。

 地獄の釜はいつまで経っても溢れ天の扉を叩くものはこの数百年で片手ほどしかいない。

 ただただ、お前達は地に満ちるだけで世界を食い物にする。

 そんなお前達の世話を愛だけでこなすせるものか、愛想も尽きたわ』

 「…愚痴ってるよ神様、全知全能じゃないのか?」



 なんとなくだけど、この神様の名前…というかどんな類の神様かは分かった。

 西欧中心に広まった世界最大の宗教で、彼らが崇めている神様だろう。

 前回は世界を水浸しにしてリセットしたようだけど、二回目は許さなかったご様子だな。

 世界終了のお知らせ、というやつだろうか?

 世紀末開始のお知らせ、と言い換えてもいい。

 人生設計が根本から終わったじゃないか、参ったな。

 グラップラーへ転進するには、この肉体じゃ遅すぎるぞ。


『既に地獄は機能を停止して死者が現世に留まっていよう。

 悪魔どもも半年ほど経てば地上を跋扈するやも知れぬな。

 止めたければ完全に破壊するしかない。

 天の扉も閉ざした、もはやこの世界に救いの手などありはせぬ。

 最後の施し(・・)をして、私はこの世界を旅立たせてもらう』

「施し…?」



 死者が現世に…それってゾンビの事か!?

 動く死体(リビングデッド)、映画じゃ出てくる腐乱臭のする化け物が現実世界にご登場って事か?

 いや、化け物と言っても心配機能が停止するだけで地獄に行かない、ある意味不老不死になったとも言える…のかもしれない。

 まぁ、細胞が永遠に続くはずもない、細胞には寿命がある。

 ただ肉体が死を迎えても、魂が地獄に行かないだけだ、その後は腐りもするしまともな思考回路が可能かどうかも不明だ。

 というか、地獄の管轄は悪魔だろう、対抗勢力のいなくなった世界に好き勝手悪魔が出回るって世紀末にもほどがあるよ。

 実物を見なければ…襲われたくないからどこかで望遠鏡を確保しないとな、ぽっちゃり系にハードワーク(物理)はきついのだ。

 最後に…何だ、さっき神様とやらが言った施しとやらは?

 手元には何かやってきた形跡はない、パソコンの画面にもおかしなものは映っていない。

 身体的なものかと考えてみて試しに机を殴ってみるが常識外れの腕力で机をブチ抜いたこともなく、ぽっちゃり系男子の範囲の威力しか見られなかった、痛い。



『さらばだ、私の愛した子供たちよ。

 生きても死んでも地獄のこの世を生き延びよ。

 ではな』



 そう言い残して、神様とやらの声はこれ以降一言も落ちてこなくなった。

 言いたい事だけいって次の世界に向かったのだろう、もっとこれまでの恨み辛みを言いまくると思っていたんだが、神様はそれすら言うの嫌だったんだろう。

 過去形で言いやがった、とかなじるつもりはない。

 俺だって無償の愛が延々と無視されて踏みつけにされ続けたらそりゃあ愛想も尽きるさ、神様がいつからいたかは知らないけど、この世界が出来て五十億年、人類が出来て文明が出来てとか十万年と頑張ってきたのに、施されてきた俺たちはそんなの知らんとばかりにやってきた。

 むしろ神様が実在してしかも愛想尽きるまで頑張ってくれていたことに驚愕、そして今更だけどごめんなさい。

 時間が足りない、せめて時間に猶予があれば良かったのにそれも敵わないだろう。

 外の状況は阿鼻叫喚の坩堝だ、校舎中が悲鳴に包まれていて状況を理解した俺は扉を閉めて鍵を閉め、籠城を図った。

 時間はないがここにはパソコンがある。

 世界と繋がっているこの情報網があれば、学校の電力供給とネット環境が生き続ける限り情報を得ることも出来るだろう。

 さし当たってはサバイバルに関する情報を中心に、世界中が現在どんな状況なのかを知らなければならない。

 ついでにいえば食料も確保済みだ、ぽっちゃり系の俺は食事の量もそれなりに多い、節約すれば二日は持つだろう、飢餓感との勝負である。

 ネットの海には『天の声キターーーーー!!』とか『世界終了のお知らせ、ようこそモヒカントゲパッドの世界』とかまあ色々あるな、危機が迫っていないからのんきなんだろうが、外国は一味違った。

 中東辺りにあるテロ組織が世界に対して宣戦布告しやがった。

 なんでも俺のいる国と仲が良いとされている国にテロしたり他国の人間を拉致して拷問して殺したりと頭のおかしい法律の国作ったりして、指導者はついに核兵器の設計図を手に入れたらしい。

 仕事しろよ世界の警察と俺は叫んだ、そしてテロ国家にも毒づく。

 このテロ国家、既に二発の大陸弾道ミサイルを作っていたらしく、しかも発射台もどこからか手に入れていたらしい。

 良く調べてみたら、世界最大の国面積を持つ国の発射台だったらしい、五十年以上前のオンボロのようなので整備不良で発射時に失敗して盛大に自爆してほしい。




「……ん、ステータス?」



 パソコン室にタイプの音が響く中、俺は国外の情報収集を一度区切り国内のニュースを見て回っていると、面白いものを見つけてた。

『ステータスでた、ゲームの世界キタコレ!?』というスレッドが立っていたのである。




 01:名無しさんのステータスさん


 ステータス!!

 って念じたら、ステータス出た。

 世界が終わったらゲームの世界が来たの件



 02:名無しさんのステータスさん


 >>01

 名にそれ詳しく



 03:名無しさんのステータスさん


 はいはい、ゲーム脳乙



 スレッドは立てられたばかりのようだが、既にパートが2まで続いていて検証が始まっていた。

 いわく、俺の時には発現しなかった異常な筋力を持つ人間や、視力が極端に良くなった人間と言う者が出てきているというのだ。

 俺は自分のステータスを見るよりも先にこの検証を見続けた、その合間に情報収集に余念はない、次は農業関係だ。

 結論から言おう、ステータスは出た。

 俺のステータスはこうだ。



 名前:日村誠一

 性別:男

 スキル:食い溜め

  韋駄天(逃げ足)

  悪食

 状態:肥満



 宙にディスプレイが浮いたというわけではない、頭の中にイメージが浮かんできたのだ。

 上から名前、性別、スキル、そして健康状態だけという簡素すぎるステータスに、俺はコレが神様の最後の仕事なんだと思うと、なんともありがたいのかお疲れ様ですと労わればいいのか、良く分からない気持ちになった。

 まともそうに見えて実はディスられてるスキルらしきものもあるし、まぁ悪意寄りの施しだろうが―――ぽっちゃり系を肥満とするあたりなんとも意地悪だ―――力を与えてくれたのなら感謝の念は必要だろう、グッジョブゴッド。

 検証スレッドはまだまだ続いていて、俺は潜伏先の候補を絞っていた。

 どうやらスキルは身体能力に特化したものがほとんどで、その中の一部ではいわゆる超能力、ESPとも呼ばれるものも発現している者もいるらしい。

 確かに脳を活性化させればそんな超能力を得られるかもしれないが、実際に現れたのは驚きだった。

 スレッドの情報から、現在知られているスキルを打ち込んでいく。

 特にESP系は必須だ、念力とか発火能力とか殺傷能力の高いスキルは使い手次第で最悪の兵器になるからな。

 そして、最終的に俺はスキルのメリットとデメリットに気付いた。

 スキルは大抵が自らの肉体を使用していることだ。

 だからラノベ的な魔法といったものがスキルにはないのだろう、ESPは厳密にいうと人体の神秘のようなものだしな。

 そしてこのスキルを使用するにあたって、使用する代償が使用者のカロリー(・・・・)を消費するという注意しなければならない。

 スキルを使いすぎてカロリーを馬鹿みたいに使って、いざ使いすぎて死ぬとかいう恥ずかしい上に間抜けな死に様を晒したくないのだ。



『せいちゃん、せいちゃん開けて!!

 わたしだよ、カナだよ!!』

「カナか、遅かったな…」


 聞き覚えのある声がしたので、俺は鍵を開けて幼馴染西東奏(さいとうかなで)、通称カナを防音室へと迎え入れた。

 ぽっちゃり系の俺と違ってカナはスレンダーな可愛い系アイドルのような容姿をした高校のアイドル的存在だ。

 整った眉、くりくりとした二重の瞳、ふっくらとした唇、贔屓目根無しに美少女である、俺と同じ孤児院出身者だ。

 オタクはオタクでも、アイドルオタクにならなかったのはカナがいたからだな、最近の量産型アイドルよりも可愛いし歌もうまい、ついでに言うと頭も俺並に切れる。

 そんなカナだが将来の夢は医者だそうだ、医者の奥さんという玉の輿を狙わないあたり、見た目とは反して現実主義なカナはこの状況下で最も生存率の高い人間、すなわち俺の元へとやってきたのだろう。

 カナを迎え入れるとすぐに扉に鍵をかけ、更にバリケードを扉に形成していく。

 これ以上誰かを入れる気はない、他のやつ等は助ける気はない、死ねとはいわんがこっち来るな。



「カナ、他の誰かにつけられていないか?」

「う、うん、最初トイレに逃げ込んで落ち着いた頃にトイレを出てからは誰とも遭遇していないし、窓から見えないように移動していたからばっちりだよ!!」

「流石だな、俺は今日から限界ぎりぎりまでここで引きこもる。

 カナはどうする?」

「わたしも一緒にいるよ!!

 情報収集はどんな感じなの?」



 長年の付き合いからか、俺がやっていることにも察しているようで俺は印刷を続けていて―――学校の備品だが知ったことじゃないとばかりに刷りまくっている―――カナは自分が他にどんな情報を調べれば良いのかをたずねてきた。

 カナには国内の政治状況、世論、暴動が起きていないかのチェックを頼み、潜伏先の候補を絞り始めた。



「カナ、スキルはどんな感じだ?」

「えっと、応急処置(ライトヒール)、感知、状態異常無効、だよ」

「なんか凄いのでたな、状態異常無効って…ゲーム的に見て毒や麻痺は完全に無効化出来るっていうことか!!

 毒見よろしく」

「女の子に対してそんな危ないことさせないでよせいちゃん!!

 まあするけどさ!!」

「まぁ、俺の悪食ってスキルも口に物を含んだもの限定で毒物とか危険物を無効化するから結構凄いがな」

「毒見いらないじゃん!?

 ていうかせいちゃんのスキルの方が凄いよ!?」



 聞くところによると常時発動型(パッシブ)というやつらしい、スレッドにもあった。

 カロリーの方は常時消費されているようで、気をつけておかないと貧血のように突然倒れて、そのままお陀仏する可能性が高いな。

 カロリー消費を考慮すればむしろ俺の方が毒見役なんだろうが、緊張をほぐすつもりで言ってみた。

 俺たちはその後一日かけて情報を得続け、二日目の夜遅く学校を出た。

 たった二日ほどで政府の機能は死んで略奪や暴漢たち、そしてゾンビどもが蔓延る世紀末の世界に変貌していた。

 こんなあっけなく世界とは終わるものだったのかと俺たちは愕然とした。

 ていうかこの国は最近まで無宗教な連中が多かったと思ったんだが、実は神様がいてこの世界からいなくなった、とかいわれてどうして自暴自棄になって暴れるか理解できない、普通に過ごしてろよ。

 学校には既にゾンビが徘徊していて、生存者は俺たち以外見当たらないので非常ベルを押しおとりの様にしてゾンビからの逃亡を開始する。

 グラウンドには全身を潰されたり切断されたりして凄惨な死体を見て吐き気を催すが、吐き出せば大切なカロリーを無駄にすることになるので必死に我慢した。

 途中、早速ゾンビが襲いかかってきたが剣道場から拝借した木刀でタコ殴りさせてもらった、慈悲はない。

 どうやらゾンビになっても意識を保つのは無理らしい、まるきり映画で見たことのあるゾンビの如く、音を立てたら黒いアレのようにワラワラ出てきやがった。

 相手にしてられないとばかりに俺はカナを担いで逃走を開始する。

 何せ俺のスキル韋駄天はまさに逃走のためにあるといって良い、ぽっちゃりにあるまじき俊敏を超えた速さで包囲網を形成しようとするゾンビどもを後ろに残して、俺は逃げ去った。

 人生初のお姫様抱っこを幼馴染にしながら、俺は第一目標地点へと向かっていったのだった。



 ***



 向かった先はホームセンターだった。

 何故か、そりゃあホームセンターは資材の宝庫だからだ、カバンには教科書の殆どをパソコン室に置いて印刷しまくった『サバイバルマニュアルの巻by日村』が入ってある。

 後はそれを実現させる資材があればなお良い、どうせショッピングセンターに行っても略奪とかで食べられるものは残っている可能性は低いからな。

 差し迫っている食糧事情は確かに注意しないといけないが、まずは資材確保が先決だ。

 俺たちは軍手、作業着、ゴム手袋、ハサミ、防塵ゴーグル、肥料、レンガ、のこぎり、登山用ナイフ、オノ、ビニールシート、トンカチ、スレッジハンマー、チェーン、ネイルガン、クギ、つるはし、ソーラーパネル、充電器、大き目のシャツ、そして野菜の種(・・・・)を大量に手に入れるとホームセンター脇にあったフォークリフトを起動した。

 車は長距離移動に最適だが積載量にネックがあるからな、軽トラの積載量となるとパレットを置いてしまえばフォークリフトは車よりも最適なのだ。

 運転については車と少し違うので苦労したが、十分したら大体分かったのでどうにかなった、YDPやればできるぽっちゃりは最高だな。



「せいちゃん、これ目立たない?」

「向かってくるやつはネイルガンで撃ち殺す、または轢き殺す」

「せいちゃん、スキルが増えるからって進んで人を殺すのは良くないよ、ゾンビからも手に入るんだから、そっちにしようよ」

「善処しよう」

「それ絶対に考慮しないやつだよ…」



 そう、このステータス、デメリットもとんでもなかったが、更にとんでもない落とし穴があった。

 ゾンビを殺したら、おそらくはそのゾンビが生前持っていただろうスキルを手に入れてしまったのである。

 手に入れたスキルは頑強、演算強化、五感強化といった強化系のスキルだった。

 カナもゾンビを撲殺した際にいくつか手に入っていた、運が良いのか後衛系のスキルばかりで、超能力者と言っても過言でないな。

 更に情報掲示板では、生きている人間を殺して、殺された人間の使っていたスキルを使った人間が現れたという情報を見て愕然とした。

 そして、ゾンビはスキルが使えないということが分かって、ゾンビには気をつけるが、警戒するのは生きている人間だということを再認識する。

 神様は愛想が尽きたとか言っていたが、このステータスを作っている時こうなることを予期していたんじゃないだろうか、だとしたら性格悪すぎる。

 これに気付いた奴はゾンビ狩りに満足出来なくなったら、間違いなく生きている人間もその手にかけようとするだろう。

 人類滅亡が加速度的に早まるだろうこの最悪の一手である、恐ろしい。

 俺たちはフォークリフトでお互いの住んでいるボロアパートに帰ってくると、災害対策として確保していた非常食を回収して、潜伏先であるキャンプ地へと向かう。

 何故か、そりゃあ世間の目から隠れやすい上に、生活支援物資がほぼ揃ってるといっていいからだ。

 すでにヒャッハーな世界になっている以上、人と接触する回数は少ないほうが良い。

 俺とカナなら間違いなく生き残れる、爆撃機とかで直撃されない限り、韋駄天があれば逃げ切れるから再起は可能だし、怪我してもカナがいればある生存率は更に上がるからだ。

 フォークリフトはかなりうるさいから多少目立ったが、九割はゾンビばっかりでひき殺しまくった。

 生きてる人間も襲いかかってきたが、そのときには既にゾンビを二桁以上殺していた俺たちのESPで逆殺させてもらった、慈悲はない。

 山に入ればこっちのもの、追跡者らしき影を振り切り、ゾンビをなぎ倒し、俺たちはキャンプ場へと向かった。



「む、先客がいたか、なかなかやるなご老人」

「せいちゃん、様子がおかしいよこのおじいさんたち。

 キャンプ場に元々いたんじゃないかな?」

「わしらは息子たちに捨てられたんじゃよ」

「あんな子、もう息子じゃありませんよ。

 家業も手伝わず、何かとつけて仕送りばかりねだってから…」



 潜伏先となる足木場キャンプ場には二人残っていた。

 廃れているこのキャンプ場は絶好の潜伏先で、平日だから利用者なんていなかったから想定していなかったな、ぽっちゃりうっかりである。

 老夫婦のようで、家族とやってきていたが姥捨て山よろしく見捨てられたらしい、親が子を捨てるのは知っているが、その逆を現代人がするとは思わなかったな、笑えない。

 そういえば、行きにガソリンスタンドが盛大に燃えていたんだが、その息子さんが乗っていたと思われる車に酷似しているな、言わぬが花だろう。

 老夫婦は殺さずにおいた、率先して人殺しをするほど俺は落ちていない。

 まぁ、捨てられた者同士、波長が合ったとも言えるな。

 運の良いことにこの二人はかなりの規模の農家を経営していたらしく、俺たちの持っていた野菜の種を見るとパレットにあった肥料をみて自分の有用性をアピールすると言うハングリーを見せた。

 ハングリーで結構、スキル以上にこの二人の経験は有用なのでよほどの重労働は若人組みである俺とカナで頑張って、他はこの二人、玄さんとトメ子さんの二人に任せることにした。

 こうして、世紀末にありながら、生存率が圧倒的に高い俺たちの生活は始まった。



 ***



 ―――半年後。



 俺のスキル食い溜めは食べれば食べるほどカロリーを溜め込むことができる。

 もちろん制限はあるが、韋駄天といった強化系スキル使用時の消費カロリーをある程度確保できるのは良いことだ。

 現在俺はキャンプ地の要塞化に日夜励んでいるところだ。

 ゾンビを何体かころす―――いやもう殺すとは言えないな―――破壊した際に手に入れたスキルに腕力を強化するスキルがあったので、斧を使って木を伐採して、キャンプ場をぐるっと囲い込むような砦を作ろうとしたのである。

 素人の作るものだからと行って侮ってはいけない、ちゃんと丸太で作るのならどんなもの状態にすれば良いかとかをちゃんと調べた資料は持ってきているからな、備えは万全だ。

 それよりも大変なのは…、



「せいちゃん、もうぽっちゃりさんじゃなくなっちゃったね、マッチョなイケメンさんだよ」

「お前さん、ダイエットしておればモテモテじゃったろうに、わしの若い頃にそっくりじゃな」

「私が後六十年若かったら声かけたいくらいだわ」

「…そりゃどうも」



 と大絶賛されていた。

 ぽっちゃり系を卒業してしまった俺は、カナたちいわくイケメンらしい。

 俺としては顔の美醜なんてどうでもいい、生き残らなければ顔の良し悪しなんかで腹は膨れないのだ。

 ぽっちゃりしていた俺の丸かった顔はシャープになり、ふっくらしていた二の腕ややや・・突き出していたプニプニボディーは腹筋が六つに割れるほど鍛え上げられ、太腿も丸太ほどじゃないがなかなかに太くなった。

 だが、俺のスキル食い溜めは完全に死にスキルになった。

 食い溜めはいわば人体の体積が大きければ大きいほどカロリーを溜め込めるスキルだ。

 なのに、こんなになっちゃって…いや、ステータスの状態に『健康優良』とかあってちょっと調子に乗ったことは否定しないが、もし要塞が落ちてしまうことになれば生存率が下がってしまうのではと思ったくらいだ、解せぬ。

 野菜も順調に育ち始め、少し危険を冒して隣の農場から豚と鶏を拝借してきて―――対価として野菜の種を置いておいた―――四人で生活するには何不自由も…まぁ言い始めれば切りがないが何とかなっている。

 ネットは既に繋がらない、発電所やサーバーがダメになったのだろう。

 今は充電器と発電機があるから携帯端末は使える、ノートパソコンは日誌だったりオフラインでも遊べるゲームを俺が持っていたから各自持ち回りで遊んでいた、娯楽は大切である。



「せいちゃん、今日はやらないの…?」

「いや、カナ、今日は疲れているから…」

「ダメ!!

 せいちゃん昨日もそういった!!」

「いや、嘘いっていないし…」

「問答無用だよ!!」

「うわぁっ!?」



 お分かりになるだろうか?

 実は俺とカナ、恋人…の関係になり、そういうことをする仲になりました。

 爺さんたちは祝福してくれた、生きているうちに俺たちの子供を育てたいと言っているあたり、実の息子たちの愚は犯さないと張り切って育ててくれるだろう。

 いや、嬉しいんだがなんとも恥ずかしい。

 昨日はお楽しみでしたね、なんて言われた時は思わず情けない悲鳴を上げたものだ、当然だが笑われた。

 余裕が出来てからは色々あった。

 生きているグループが要塞を見つけて占拠しようと押しかけてきたり、それに釣られてゾンビたちが乱入してきたりと、要塞の外は惨たらしい光景が見える。

 一番最悪なのは悪魔、あいつら空飛んでくるから迎撃し辛いんだよな、ESPあっても限度がある。

 あの日から随分と人生設計が狂ったが、恋人はできたし居場所も作れた。

 世界は終わってしまったが、まぁ悪くない人生と言えなくもない。

 いや、実際は悪いんだろうが、俺の世界は良い形で完結したから悪く無いだけで、要塞の外は悲惨な感じなんだろう、助けを呼ぶ声がたびたび聞こえてくるが俺たちは基本無視している。

 ワールドエンド、しかしてハッピーエンド、みたいな?

 さて、今日も頑張って行こうかね。





実際はそんなにハッピーエンドじゃない、ジリ貧なんだけど、主人公たちはそれでも幸せ…な感じになっています。

要塞という完結した閉鎖した世界で終わる事を選んだ…まぁ深く読めば『これバッドエンドじゃん!?』と思われる読者の方がいるんでしょうね、否定し切れませんが。

読んで頂き、ありがとうございました。

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