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03

 迷うことなく、リゼルヴァーンは目的地の扉の前まで辿り着いた。ここに、求めた手がある。リゼルヴァーンは逸る気持ちを入室の合図に託し、開かれるのを待った。

「はーい、どなたですかー?」

 明るく弾んだ声とともに姿を現したのは屋敷で最年少の双子の片割れ、ルルムンであった。ルルムンはリゼルヴァーンの姿を確認するや否や目を輝かせて飛びついた。

「あー、リゼル様だー! 一緒に遊ぶの? ルムとレムと一緒に遊ぶの?」

 期待するようにはしゃぐルルムンの頭を、リゼルヴァーンはぽんと撫でる。

「ああ、いい所に連れて行ってやろうと思ってな」

「いい所?」

 にこりと笑うと、ルルムンは嬉しそうな笑顔を見せた。そして部屋の奥へ声を張り上げる。

「レムー! リゼル様が、いい所に連れて行ってくれるって!」

 声を聞きつけ、レレムンがゆっくりと覗く様に姿を現す。その腕には彼女お気に入りのぬいぐるみが抱かれていた。

「……いい所って、どこ?」

 呟く声は細いが、それが期待しているのだと分かる。相変わらず分かり難い表情と態度ではあるが、ある程度一緒に居ると彼女の機微を理解出来るようにもなった。

「二人とも、聞いて驚くな? それはなあ……」

 たっぷりと間を空けて期待を膨らます。この年頃だとこれだけで期待度は高まり、ワクワクするものだ。

「なんと、山だ!」

 言って自慢気に胸を張ってみせる。案の定、ルルムンとレレムンは目を輝かせていた。

「山ー!? ルム、山行ったことない! レムもないよね!?」

「……うん」

 よしよし、上手く二人の好奇心をくすぐれたようだな。

 期待した通りの反応に、リゼルヴァーンは心の中でほくそ笑む。

「二人とも、行くか? 山へ」

 リゼルヴァーンの問いに、ルルムンは大きく頷き、「行く」と何の迷いもなく即答した。やや遅れてレレムンも静かに頷く。

 よし! やったぞ! これで恐れるものは何もないっ!

 ルルムンとレレムンという、最良の手段にして最大の武器を手に入れたリゼルヴァーンにとって、最早怖いものは何も無かった。

 見ていろ、ラース! 俺は絶対山へ行くからな!

 歓喜の拳を振り上げるリゼルヴァーンに、双子は全く訳が分からず同時に首を傾げた。


◇  ◇  ◇


 厨房に近づくにつれ、その声は大きくなっていった。

 相手を罵る為の罵詈雑言が否応なしに耳に入り、リゼルヴァーンは事の惨事を予想して頭を悩ませた。

 しかし、こちらには強い味方が二人もいる。黙らせることが出来るのは、多分この双子だけだ。

 厨房へ足を踏み入れると、未だガルフとシェットは睨み合ったまま諍いを続けていた。

「ガルフの脳無し! 料理オタク! その意味の無い長髪ホント邪魔!」

「んだと、コラ。てめえの毛という毛をコイツで削ぎ落としてやってもいいんだぞ、ああ!?」

 最早これでは子供の喧嘩である。取っ組み合いになっていないのがせめてもの救いか。

 呆れた溜息を吐くと同時に、ルルムンとレレムンの肩を叩いて合図する。やってしまえ。

「コラー! ガルフ! シェット! 喧嘩はダメなんだよー!?」

 ルルムンの叫びが辺りに響きわたり、びっくりしたように振り向く。シェットは姿を確認すると元の不貞腐れた表情に戻ったが、ガルフはそうではなかった。

「何でここにお前らが」

 呟く声は少なからず動揺していて、ルルムンとレレムンの効果はてき面のようだ。

 よし、第一の標的に総攻撃開始!

「ルムとレムが、ガルフにお願いがあるらしい。な? 二人とも」

 双子を盾にするように、後ろから声を上げる。リゼルヴァーンの存在に気付くとガルフがぎろりと鋭い視線を飛ばしたが、双子のおかげでそれも直ぐに止んだ。

「あのね、ルムとレムね。山に行きたいの。一緒に行こう、ガルフ」

「……行こう?」

 唐突な彼女達のお願いにガルフは訝しげな表情を見せたが、思案しているのか頭を掻いた。

「ちょっと待て。いきなり何だ。そもそも、何で山になんか行きてえんだよ」

「リゼル様がいい所だって! 皆で一緒に行くと楽しいって! だから、ルムもレムも山に行きたいの!」

 ルルムンの答えにレレムンも無言で頷く。それを見てガルフは深い溜息を吐くと、近くにあった椅子に疲れた様子で座り込んだ。

「もしかして、さっきお前がここへ来てたのはそういう理由か?」

 睨む視線は真っ直ぐリゼルヴァーンに向かっている。頷くと、また溜息が聞こえた。

「あーあ。俄然白けちまった……」

 さっきまでの憤慨した様子は無くなり、代わりにいつもの表情に戻った。よし、あともう一押しだ。

「一緒に行くだろう、ガルフ? 弁当を作ってくれないか。腹が減ったら途中で食えるように」

 リゼルヴァーンの言葉に苦い表情を浮かべるガルフの周りを、双子が慌てて取り囲む。

「ガルフ! 一緒に行こうよ! お弁当作って一緒に食べよう!」

「……一緒に、行こう。山……きっと楽しい……っ」

 その余りの必死さは十分に堪えるものがある。ガルフは困ったように表情を歪めていたが、程なくして「分かった」と呆れたように呟いた。途端嬉しそうにはしゃぐ双子を見て苦笑を浮かべる辺り、やはり彼女達に敵うはずがなかった。

 よーし、まずは一人目攻略! 次はシェットだな。

 満足げに頷くリゼルヴァーンの瞳は、次の獲物に的を絞っていた。

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