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ドラゴンと、魔王様のお菓子

ガルフ&リゼルの小話。

 今日は珍しくリゼルヴァーンが厨房へやって来て、菓子を作って欲しいと頼みにきた。

 アキと一緒に食べるのだと、幸せそうな笑顔を見せるリゼルヴァーンに、ガルフは苦笑しつつも了承した。

 料理が特技でもあるガルフにとって、菓子作りもその一環である。細かく言えば、菓子作りは趣味でもあった。

 新しいレシピを覚えたり、珍しい材料が手に入った時には無性に作りたいという衝動に駆られる。それは幼い頃から今でも、ずっと変わらない。

 菓子作りが趣味になったきっかけは、恐らくリゼルヴァーンにある。



「ガルフのオススメを作ってくれ。とびきり美味いのを頼む」

「了解」

 昔のことを思い出した所為だろうか。久しく作っていなかったが、あの菓子以外に思いつかない。ガルフの中で、選択肢は一つしかなかった。

 作る間も、リゼルヴァーンは厨房に居座り続けた。横から覗いては一つ一つの動作に驚いたり、感嘆の声を上げたりした。

 壊滅的と言っていい程の料理の腕前を持つリゼルヴァーンにしてみれば、ガルフの手際の良さは信じられないものであろう。逆に、リゼルヴァーンの不器用さはガルフにとっては信じられないものであったが。

 出会ってから今まで、お互い変わった部分も変わらない部分も認識しながら成長してきた。料理が下手くそなのは、リゼルヴァーンの変わらぬ部分の一つであった。

 思わず、ふっと笑みが零れる。ガルフの笑いに、リゼルヴァーンが素早く反応した。

「何だ? いきなり笑い出して。どうかしたのか?」

「いや、昔のことを思い出して」

「昔のこと?」

 きょとんとするリゼルヴァーンに、ガルフは手を休めず口を開く。

「ああ。昔っから、お前は不器用だったなと思ってよ」

「そ、そうか? いまは昔より良くなっているだろう?」

 窺うリゼルヴァーンの表情に自信は見られない。はっきり言って良くなっているとは思えないが、正直に話してしまうのも気が引けた。落ち込まれるのは面倒だ。

「そうだな。マシになったんじゃねえか」

 途端、あからさまに嬉しそうな笑顔を見せるリゼルヴァーンの頭を、ガルフはべしっと引っ叩く。

「調子に乗んな」

「少しぐらい嬉しがってもいいだろう!?」

 後頭部を摩りながら抗議するリゼルヴァーンを無視して、ガルフは淡々と作業をこなしていく。

 しばらく剥れたまま黙り込んだリゼルヴァーンであったが、「そう言えば」と唐突に話を切り出す。

「出会ったばかりの頃は、まだガルフの方が背は高かったな」

「あ?」

 思わずリゼルヴァーンを見上げる形になる。目が合うと、意地の悪い微笑みを返してきた。

 この野郎。さっきの仕返しか?

 引き攣りそうになる口元と、眉間の皺を抑えていたが、効果は無かったかもしれない。直ぐ様リゼルヴァーンの顔色が悪くなったので、失敗したのだと分かった。

「……っとに、てめえばっか、にょきにょきにょきにょき伸びやがってよ」

 開き直って我慢するのを止める。身に染み付いているこの表情は、一寸やそっとで取れるものではない。

「あ、いや、しかしガルフの身長は低くはないぞ! 寧ろ高い方ではないか!? 案の定、ラースよりも高いわけだし」

 何をそんなに釈明をする必要があるのだろうか。

 必死な様子のリゼルヴァーンに、予期せず笑いが込み上げた。

 変わっていない。そういう部分は、何一つ。

 今度は出来るだけ軽く頭を叩いてやった。目を見開くリゼルヴァーンは、ガルフの行動と笑みに疑問を抱いているようだった。

 それでもいい。口ではっきりなんて言うものか。性分でない自分には、これで十分だ。

 丁度飾りつけが綺麗に終わったそれを、皿ごとリゼルヴァーンに突きつける。

「ほら、出来たぞ。とびきり美味いの」

 リゼルヴァーンの見つめる瞳が、皿の上のそれからガルフに移る。

「これ……」

「タルモンだ。……忘れたか?」

 それは初めてリゼルヴァーンと会話を交わすきっかけをくれた、思い出ある菓子であった。

 自分だけだろうか。クリームの沢山乗ったこの贅沢なケーキが、数ある菓子の中でもっとも思い出深いものであるということは。

「忘れるわけ、ないだろう。俺の一番好きな菓子だ」

 言って笑うリゼルヴァーンに、ガルフは「そうかよ」とぶっきらぼうに返事をした。



 菓子作りが趣味になったきっかけ。それは嬉しそうな、幸せそうな笑顔が見れると知ったから。

 だから、喜んでもらう為にまた作ろうと思うようになり、いつしかそれが趣味にまで発展してしまっていた。

 他人の為に初めて作った菓子がタルモンだと知ったら、リゼルはどんな表情をするだろうか。

 想像出来てしまう辺り、随分と丸くなったものだと自分で自分を嘲笑する。

 しかし、こんな自分も悪くはないと実感していることも、確かなのであった。



 その後、リゼルヴァーンが自慢げにタルモンの話を披露して、シェットや双子らが羨ましがり、作ってくれと催促するようになるのは、また別のお話。

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