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炎に焼かれ

「むむ……」

ダウジングの反応が大きくなってきた。近くに誰か居るはず。無良さんか、ルリちゃんか、もしくはしおなんだ。

そこの角を曲がったところに、誰かしらが、

「……ごくり」

もしもしおなんだったら……ヨクに乗っ取られている、しおなんだとしたら……だ、大丈夫。私にはヨクの攻撃を守ってくれる物を持ってるんだから。

怖がっちゃダメだ。私が自分でやるって決めたんだから。後悔するんなら、やるだけやってからにするんだ。

角にたどり着いた。反応がかなり大きい、この先にはいったい誰がいるんだろう。

意を決して、角から出た。

そこには、

「ルリちゃん!」

「なにやってんのよアンタは!」

ダン!

私を見た途端、ルリちゃんは持っていた鐘を壁に叩きつけた。瞬間、鐘と壁の隙間から炎が溢れて出た。

まさかルリちゃん、私をしおなんと思って攻撃準備万端だった?

「もしもアタシじゃなくてヨクだったらどうしてたのよ!!」

「う……で、でもルリちゃんだったし! それにほら、私にはこのペンダントがあるからさ!」

首にかけたペンダントを持ち上げて見せる。

「全くアンタって子は、怖いもの知らずにも程があるわよ。それだって全部の攻撃が防げるとは限らないのよ? あの時のボールとかならともかく、今回のもそうとは限らないんだからね?」

そう言われると、さすがに怖くなってきたかな……でも、

「……とは言っても、今から戻れ、って言われても無理でしょ?」

「う、うん……」

ダウジングに従って結構歩いたから、部屋への帰り道が全然分からないし。

「仕方ないわね、ヨクは無良に任せて、アンタを部屋へ送るわ」

「ありがとうルリちゃん」

色々言うけど、やっぱりルリちゃんは優しいな。

「ん? なんだって?」

にっこりと尋ねられた。けどその後ろには怒りの炎が燃えていた。

「あ、ありがとー、ルリ」

つい忘れちゃうな。

「ふん、さっさと戻るわよ。どうせいつか見つか…!?」

前を向いたルリちゃんの動きが止まった。

「ど、どうしたの?」

前を見ると、そこには、

「あ……」

『フフフ、導き手より先に見つけられるとは、我も運が良いらしいな』

しおなんの姿をしたヨクが、通路の向こうから歩いてきた。私たちから少しの間を開けて、止まる。

『あの者、何を言い出すかと思うたら、大丈夫だからだと? 我等は払われるのをどう大丈夫だと思えば良いのだ』

「しおなん……」

『それはこの欲元の名か? 変わっておるな』

ダメだ、完全にヨクに乗っ取られてる。

「朱里」

ルリちゃんが小声で呟いた。

「ペンダントの宝石を三回ぐらい叩きなさい、それで無良の声が聞こえたら、今の状況を説明しなさい」「う、うん、分かった」

ルリちゃんが数歩前へ出たので私は後ろに下がり、ペンダントを持って宝石を叩いた。そういえばつい返事しちゃったけど、無良さんの声が聞こえるって、

『朱里ちゃん?』

本当に聞こえた。

『どうしてこの通話方法を知ってるんだい?』

「あの、ルリちゃんに聞いて、ってそれどころじゃなくてですね。今ルリちゃんがしおなんと戦っていて……えっと…」

『なるほど、分かった。すぐに行くから、少しの間ルリを頼むよ』

それで声が聞こえなくなった。

ルリちゃんを頼むよって、前を向くと、

『ハァ!』

「……」

ゴゥ! 2人の間に炎の塊が現れた。互いの攻撃がぶつかって、通話が眩しい程明るく照らされる。

ルリちゃんの攻撃が炎なのは知っていたけど、あのヨクの攻撃も炎なんだ。

『ハァ……ハァ……』

「……」

頼むよ、と言われたけど……ルリちゃんの方が圧倒的に優勢だった。

『くっ……きさまは何者じゃ? 導き手のただの家来ではないのか?』

「家来? バカ言うんじゃないわよ、どっちかってったら無良の方が家来だわ」

えぇ!? そうなの!?

「生憎だけど、アンタじゃアタシには絶対勝てないわよ。同じ炎でも、欲ごときではね」

『きさま! それは我が73番のヨクと知っての言動か!?』

73番。昨日倒したヨクよりも少ない数だ。

「何番かなんて知らないわよ、というか関係無いわ、何故ならアタシは…」

瞬間、ルリちゃんの回りの空気が変わった。

まるで熱を帯びたような、空気中の水分が蒸発しているのか、うっすらと湯気が見える。ルリちゃんの回りだけ、温度が高くなっているんだ。

「アタシは欲望の塊にして七つの大罪の一つ『嫉妬』をこの身に宿す者。欲の一欠片ごときが、塊に勝てる道理は一切無いわ」

カラン

鐘が鳴った。

それと同時に、ヨクが立つ地面にヨクを中に入れて赤い円が浮かぶ。

その瞬間、

ゴゥ!

『な……!?』

ヨクの驚きの声ごと円から吹き出た炎が包み込んだ。

『うぐ……ぁぁぁぁぁぁ!!』

悲鳴さえも、燃え盛る炎の音に消えそうにしか聞こえない。

「る、ルリちゃん、さすがにやりすぎじゃ」

ヨクはしおなんの姿をしている。あまり見たくない光景だ。

「大丈夫よ、人体には火傷すらつかないから、アレはヨクを焼きつけてるだけで身体と精神に害は無いわ。

まぁここまでやっちゃったらあのヨクも逃げ出してるでしょうけど、そしてまた別の誰かに取りつくだけよ」

別の誰かに、今一番近くにいるのはルリちゃん。けどルリちゃんは人間じゃないからヨクはつかない。ということは。

「私につく可能性もあるってこと?」

「そうね、そうしたらたどり着いた無良に導いてもらって万事解決なんだけど。ヨクは自分にあった欲望しか糧としないのよね、今のアンタにアイツが好む欲望は無さそうだから安心しなさい」

ヨクにあった欲望?

「どうゆうこと?」

「聞くだけムダよ、今のアンタには到底、関係無い事だからね」

カラン

ルリちゃんが鐘を鳴らすと炎が消えた。その中にいた筈のしおなんはどこも焦げていない、そのまま膝をつき、うつ伏せに倒れた。

「しおなん!」

「待ちなさい」

私は駈け出そうとしたけど、ルリちゃんの手が横に伸びて遮られた。

「まだ安全か分からないわ、まずアタシが行って…」

その時、

「う、ううん……あれ? ここ、どこ?」

しおなんが起きた。ヨクの声じゃない、ちゃんとしたしおなんの声だ。

「しおなん!」

それでもう安全は確認出来たし、私はルリちゃんの横を抜けてしおなんに駆け寄って、

「あ、朱里?」

「良かったー!」

勢いそのままにしおなんに抱きついた。

「良かった、無事で良かったよ。しおなん!」

「ちょ、ちょっと待って、何がなんだか分からないんだけど?」

「アンタは欲望に溺れてただけよ、尾行を頼んだ、あの男みたいにね」

「え……?」

「でももう大丈夫だよしおなん! ルリちゃんが追っ払ってくれたから!」

「え? ちょっと待って、情報が多すぎて理解出来ないわ」

「別に理解しなくて良いわ、むしろ好都合」

「良かったねしおなん!」

顔を上げると、しおなんの向こう側に人の姿を見つけた。十字架を持った無良さんだ。

「無良さーん! しおなんが元に戻りましたー!」

手を振って示す。けど、

「朱里ちゃんダメだ!」

「へ……?」

ダメ? いったい何がダメなんだろう…?


その瞬間、




『……フフ』




ズブッ




「え……」

妙に湿っぽい音。

例えるなら、鋭利な物が刺さったような、そんな音が耳元にはっきりと聞こえた。

あれ……? なんだろう……体に、力が、入らなくなって……きた……

「けふっ……」

急に咳が出た。それと一緒に、口から赤い何かが流れる。流れ出続けるそれで手が真っ赤になった。

血だ。なんで私、血を吐いてるんだろう?

確認の為に身体を見ると、異常は……あった。

私の左側、ちょうど心臓があると言われる部分に、赤い棒が突き刺さっていた。炎のように赤い棒が、しおなんの右手から伸びている棒が、私を貫いていた。

『フフフ……油断したな』

ヨクの声、それと共に棒が私から抜かれる。

「あ……」

ついに力が入らなくなり、支えを失った私の体は前に倒れ始める。

意識が……遠くなる。

その最中、耳に聞こえた言葉は、


『フハハハハハハハハ!』


「朱里ぃぃぃぃぃぃぃ!!」


ヨクの高らかな笑い声と、しおなんの私を呼ぶ声と、


「キサマぁぁぁぁぁぁ!」

ルリちゃんの、怒る声だった。




そしてそのまま、意識が途切れた―――


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